作品タイトル不明
迷った道
「その前に。聞いておきたいことがあるんだけど、いいかい?」
「重要なことか?」
「この上なく、ね」
お好きに。と手で促す。
「あんた達の目的は? まさか、早く避難しろ・・・なんて。言いに来たわけじゃないんだろ? 見返りとして、なにを求める?」
目的――か。
確かに。この上なく重要なことだ。
ここで重要なのは、こいつらがどうなるかじゃぁない。
俺の為になることはなにか、だ。
わざわざこんなところまで来たのは”気になったから”だ。
皇都での御父上の行動。その意味や目指すところがわからねぇから、最悪の事態を考えて、ここの軍の状態を確認しておきたかった。
最悪の事態ってのは、軍部を好きに再編成した後の叛逆だ。
これほど効率のいい叛逆はねぇ。
仲間だけを囲って、あとは追い出しちまえばいいんだからな。
そんなことがあり得るのか? と聞かれれば、まさか! とは答えるが。
だからと言って、あり得ねぇとも言い切れねぇ。
いわば保険だ。
御父上と対抗することになった時、仲間として使える勢力が欲しい。
そう考えた時、同じく辺境で国の守りを任されてきた軍隊ってのは魅力的だ。
その上、頂点が帰属意識の塊とくれば逃す手はない。
かといって、ここでなにかをしてその頂点を味方に出来るか?
答えは・・・否だろうな。
こいつら全員の首を差し出したところで高が知れてる。
この貧民街は見逃されてるだけであって、取り締まれないわけじゃねぇ。
そこで恩を売るのは無理がある。
だからこそのこの質問。
目的――なにを求めるのか。
「ここでなにかを求めて、それが手に入る保証は?」
「あるはずがないね。ただ、あたしらにしか出来ないこともある。あんたがそれに気付けるなら・・・だけどね」
見え透いた虚勢を張って見せる女。
だが、冷や汗がこめかみから流れ落ちるのを止められはしねぇ。
「蛇の道は蛇ってこと?」
「そのつもりらしいな」
「つもり・・・とは言ってくれるね? これでもあたしはまとめ役なんだ。それなりに、この町には精通してる」
「でもここはなくなるんでしょ? それでなにができるっていうのよ?」
「場所は問題じゃない。必要なのは人の方さ。それと繋がりだね。まだそっちのお嬢さんには難しいみたいだ」
大げさな仕草を交えてまでエイラを惑わし、俺を見る。
どうしても俺達をその気にさせて巻き込みたいようだ。
その態度じゃ、場所は問題じゃないっつー感じには見えねぇけどな。
「もう帰らない? 一斉摘発、だったかしら? 巻き込まれたら面倒なんじゃないの?」
挑発されたエイラは怒っちゃいるが、ここで食って掛かるようなタイプじゃねぇ。むしろ、呆れて話を切り上げようとする。
「そうだな。俺達は身元がハッキリしてるから、拘束されようがどうってことはねぇが・・・それでも面倒なことには変わりねぇもんな」
まずい! という表情が女の顔に浮き上がる。
このぐらいでいいか?
脅しすぎると逆効果だからな。
「待ちなよ! いや、待ってほしい・・・正直に言う。他に頼れる宛がないんだ」
「だろうな。しかも自分のミスだ。どうにかしなきゃならねぇよな? だったら初めからそういえばいいだろ」
「ッ⁉ なんであたしのミスだって⁉」
「どういうこと?」
「人が一斉に動いたんだ。当然、理由があんだろ? そうだな・・・例えば、不満が爆発した。とかな」
女が視線を逸らす。
「その原因がこの人?」
「ああ。人選でも間違えたんだろ」
「人選・・・って、なんのよ?」
「軍に送り込む順番の、だろうな」
「なんにも話してないってのに、よくわかるね。あんた」
諦めたように女が認めた。
「軍に送り込む順番って・・・じゃあやっぱりあの行列は作るつもりだったってこと?」
「いや。そうならねぇための順番待ちだったはずだ。軍に入る奴は夢も見れねぇ奴。つまり、ここの住人が一番多い。だから、軍の懐事情は知ってたんだ。もしくは、そこからの伝手で直接、領主に聞いたんだろう。移民を受け入れられないか、ってな」
「まるで、見てきたようだね?」
「そうでもなきゃこんな状況にはならねぇだろ? 1度での収容は不可能。だが、幸いにも軍はいつでも隊員を募集してる。そして、移民の男共はガタイだけは良かった。小数人なら、軍へ入れること自体は難しくなかった」
「だったらどうして、ああなったっていうのかしら?」
「思い通りにならなかったからに決まってんだろ。あのくだらねぇ祭りの時を思い出してみろ。観衆が不満を喚き散らした時も同じだ」
「誰も軍には入れなかったってこと?」
「いっそ。それならよかったのかもしれないけどね」
項垂れる女が否定する。
まぁそうだろうな。
それなら暴動になるか、さらに別の場所まで流離うかだ。
「軍が、領主が移民を受け入れなかったのは、なんでだと思う?」
「それは・・・それだけの余裕がなかったから、よね?」
「そうだな。それが金銭的な事なのか、食料的な事なのか、空間的な事なのかは知らねぇが。結果として、なにかが足りないと思ったから断ったんだろう」
他にも異文化の流入による争いだとかも懸念されただろうが、あの程度の数ならそこまで大事にはならねぇはず。だとするならやっぱり、なにか致命的な問題によって移民の受け入れは行われなかったことになる。
「軍へ入れるのは少数。その小数人だけが生活を保障される。食事、寝床、給料。貰える奴と貰えねぇ奴。その差はなんだ?」
「軍へ入るんだから戦闘能力とかなんじゃないの?」
「まさに、その通りだったんだろうさ。人柄じゃなく、腕っぷしで選んだ。だから問題が出たんだ」
引き継ぐように、苦い顔をしながら女は続きを話す。
「軍へ入れた奴は食事と寝床が保障されるんだ。だから、給料はこっちへ寄こす約束だった。その金で、こっちに残った連中の生活を見る手筈になっていた・・・けど!」
「人間。欲が出るもんだよな? 自分だけが良ければいいって奴が現れて、その給料を渡さなかった。しかも・・・そいつの性格については、事前に忠告されていた。そういう危険性を説明されてたにもかかわらず、まんまとそんな奴を選んじまったってわけだ」
「ああそうさ。でも仕方ないだろ⁉ 碌に戦えない奴を軍に入れて、それで死なれてもこっちだって困るのさ‼ 1人で死ぬならまだマシだよ! けど、周りまで巻き込んだらどうする⁉ 今まで築き上げてきた地盤だって、緩むってもんじゃないか‼」
言いたいことはわかる。
戦闘被害で巻き込まれるのは、多くの場合が同隊の上官。
つまり、もっと先に送り込まれた貧民街生まれの兵隊だ。
ようやく信用を得て、使えるようになってきた駒なら、誰だって無駄にしたくはない。
「なるほどね。でも、どうしてそれで一斉摘発になるのかしら? 不合格にしたならそれだけでいいんじゃないの?」
「言っただろ? ここの領主は帰属意識が強いんだよ。1度は断った移民が、なぜか自分の軍に入り込んでいる。国境を守るって最大の任務に直接関係する自慢の軍にだ。しかもその原因が、普段から意に反して町の外で勝手に居座っている連中だと知れば、掃除の1つもしたくなるってもんだろ?」
誇りを汚されたとなれば、怒り狂うのも必然と言えるだろう。
それが貴族様ってやつだからな。