作品タイトル不明
side――ヨハン
「いや~聞いてはいたが・・・あんちゃん達。本当に強いんだなぁ!」
「いえ、」
隊商のまとめ役、つまりは隊長さんが褒めてくれる。
本来なら単独で行動するはずのB級モンスター。僕らはそれを2匹同時に相手取って、それでも無傷で勝つことが出来た。昇格試験と同じような条件で、今度は先生の介入なしで勝てたんだ。成長してるのは間違いない!
でも―――
「あっちのお方も、商会頭が太鼓判を押すだけのことはあるな! 一匹怒り熊(アングリズリー) の群れなんて珍しいのが相手でも、荷車に傷一つないどころか商品まで増やしてくれるんだから、まったく有難いよ」
僕らがたった2匹を相手に戦っている間、先生は10匹以上の一匹怒り熊を1人で討ち取っていた。さらには、解体まで。
いつの間に・・・と思い返してみると、先生は馬車から飛び出す時にはもう、数匹の一匹怒り熊を討ち取っていたんだと気付く。
群れの存在を最初に察知したのは先生だ。
それがこっちに向かってきていることも。避けられないことも。僕らが知ったのは先生が教えてくれたからだ。
見晴らしのいい広い街道の脇から、ドドド! という地響きが聞こえ始めた時点で、先生は隊商に指示を出しながら馬車から飛び出した。まだかなりの速度で走っていたのに。
僕らは慌てて戦闘準備を整えたけど、その時にモンスターの叫び声を聞いたんだ。あのモンスターの叫び声は、獲物を見つけた声なんかじゃなく、苦痛に悲鳴を上げていたんだ。
荷車が無傷だったのは単に狙われなかったから。でもそれはただの幸運じゃなくて、先生が作った状況だったんだ。
「先生‼」
熊を肉と皮とその他爪などに手早く分けた先生が合流する。
「あぁ、解体の仕方だな。まずは血を抜いて―――」
「それも知りたいんですけど、そうじゃなくて‼」
「どうした?」
「馬車から飛び出した時、なにをしたんですか? モンスターが悲鳴を上げてたのはわかったんですけど・・・」
「なんだ。そんなことか。あいつらの足元にあった石ころを魔法で打ち上げただけだ」
先生は大したことじゃないぞ? っていうけど、そんな遠くにあった小さな石を僕は正確に捕捉できないし、魔法の対象にも取れない。
「あれは風魔法だから、ジェイド! お前も、あれぐらいは出来るようになるぞ!」
僕が先生に話しかけて足止めしたせいで手持無沙汰だったジェイドさんが、とりあえずで熊の血抜きをしていたところに先生は軽く言う。
だけど、言われたジェイドさんの顔には『そんなわけねぇだろ・・・』って間違いなく書いてあった。一瞬だけこっちを見て、また。もう1匹の血抜きを始める。
「なんだ? 返事もなしか」
「なんのことか分からなかったんじゃないですか? ちょっと遠いですから・・・」
「それもそうだな―――って! おい‼ 切り方が雑だ‼ 毛皮の値段が下がるぞ‼」
ジェイドさんの方を見た先生が焦って走り出す。
まだ聞きたいことがあったんだけど・・・馬車に戻ってからでいいか。
折角だから少しだけ離れたところにいたリミアに聞いてみる。さっきの話は聞こえてたはずだ。
「リミアはどう? 似たようなこと出来ると思う?」
「わざわざ石を使わずに水を槍のように噴射させれば、あるいは・・・」
「凄いね!」
「いえ、先生ほど正確には当たらないのでどこまで有効かはわかりませんし。なにより、魔力の消費量が桁違いになってしまいます」
「そうなの?」
「ええ。その場にある石を撃ち出すだけなら私は1万回は出来るでしょう」
「そっか・・・やっぱりすごいんだね」
「そうですね。ですが、今向かっている霊峰はそんな先生ですら諦めなければならなかった場所・・・・・・本当に大丈夫なんでしょうか?」
卒業だなんて言われても、やっぱりまだ実感は湧かない。
先生が引退しているっていうのが、そもそも納得できてない気もする。
でも、
「たぶん。大丈夫だよ」
「なぜでしょう?」
「だって。先生が僕らになら出来るって言うんだもん」
だから、きっと大丈夫。
「そう・・・かもしれません」
「でしょ?」
僕らは2人で笑い合う。
先生の言葉が嘘だったなら、僕らはこんなに強くなってない。
「それはいいとして。まだなにか、聞こうとしていませんでしたか?」
「あ~・・・うん。さっきのあの状況って、僕らだけじゃ結構危なかったじゃない? その場合はどうするのが正解だったのかなって・・・」
「なるほど、それは後で聞いてみないと―――」
その後はリミアと少し話してジェイドさん達の方へ行くと、先生による汚くなった毛皮の切り端ごまかし術講座が開催されていて、隊商の皆さんも唸るような小技が披露されたりした。