作品タイトル不明
訪れ3
コンコン! 扉を叩く音と共に、
「おにーちゃーん!」
という呼び声で意識を取り戻す。
どうやらあの後ベルとやり取りしたまま、途中で寝ちまったらしい。
ソファーで寝ていたせいか身体が少々ぎこちない。頭もスッキリしねぇし、やっぱ歳かな? 今年で29になるわけだしなぁ・・・。
ボサボサの髪をかきながら、
「開いてるぞ」
扉へ声をかける。
「今起きたの? ―――って! そんな恰好で、しかもソファーで寝てたの⁉ 風邪ひくよ⁉ 冬だよ! 今!」
入ってくるなりミリーが怒涛の攻めを見せてくる。
確かに。俺の格好はほとんど肌着みたいなもんだが、前線の冒険者は基本全ての衣服に祈祷を行うため、暑さ寒さには滅法強い。特に南の霊峰へ行ったことがあれば尚更だ。
頂上攻略は常に雪景色だし、火口攻略は喉さえ焼ける環境だ。それ以外でも吹きすさぶ風が体温を奪ったりと、並大抵の装備じゃ話にならねぇ。
だから、通常の気候で暑い寒いなんざに動じねぇ衣服を身に纏っている。今の俺の格好も、素肌をさらしているのは手先と顔ぐらいだしな。
「心配ねぇよ。それで、なんのようだ?」
「また、あの子達が受付に来てるよ」
「こんな朝っぱらから?」
「もうお昼だよ」
言われて、時計を見れば。もうすぐ正午といったところだ。
「この時期はそんなに忙しくないけど、サボってていいわけじゃないからね!」
「そうだな。悪かった。だが、旅の疲れってもんがあってだな・・・」
「あの子達も一緒だったんでしょ? それは言い訳にはならないんじゃない?」
「もうあんなに若くねぇんだよ」
「年齢を言い訳にするお兄ちゃんは見たくなかったなぁ~」
そんなことを言われてもな。
事実は事実。あいつらは若く回復も早いが、俺はいい歳の――って、自分で言ってても悲しくなってくるな。
「仕方ねぇ。すぐに準備して降りるから、適当に相手してやっててくれ」
「はーい! あ、それとこれ! 昨日渡しそびれたの!」
言いながら懐からパッ! と出したのは赤い封筒。
「特筆封書?」
「そ! ちょっと前に届いてたの! ちゃんと渡したからね!」
じゃあ早く降りて来てね! とミリーは言い残し、パタパタと階段を駆け降っていった。
渡された赤い封筒の裏には黄色の蝋封。押印されているのは冒険者ギルド本部の印証。紛れもなく特筆封書だ。
特筆封書とは、緊急性あるいは秘匿性の高い手紙であり、封筒と蝋封に魔法がかけられており、特定の人物にしか開けられない仕掛けとなっている。
普段よく使われているのは貴族間でのやり取りであったり、王族へあてた手紙、ノクァッド侯爵を筆頭に外交関係、後は国を跨ぐ商売をしている商人ぐらいのもんだが・・・冒険者ギルドが。しかも1職員でしかねぇ俺宛に、とは。珍しいこともあったもんだな。
開け方はそれぞれあるらしいが、冒険者ギルドのは簡単だ。
俺はポケットからギルドカードを取り出して、魔力を流しながら蝋封の下に滑り込ませる。それだけで、パリッ! とあっけなく蝋が剥がれる。
中に入っていた便箋は1枚。
そこに記されていた内容はとても短く。
『会いたいと言ってるのに返事さえくれない弟子へ。早く来ないと直々に迎えに行くよ! 君の親愛なる師匠より』
あまりにもふざけたことが書いてあった。
「・・・本気、なんだろうなぁ」
全然。全く持って親愛なんぞ抱いちゃねぇが、あんなのに来られようもんなら迷惑極まりない。なにより、アレが動くこと自体が問題になる。
これは、本部に顔を出すしかなさそうだ。
「最近出かけてばっかだな・・・」
下で待っているらしいあいつらには”皇都で待つ”とか啖呵切った手前、どんな顔であっていいやら。身嗜みより心持ちのせいで、下に降りるまで時間がかかりそうだ。