作品タイトル不明
お茶を濁す
そんなこんながあってから2日が経過。
あんなことがあったにもかかわらず、年越しの祭りは何事もなく開催され、気付けば新たな年を迎えていた。
「領主が居なくても誰も気にやしねぇんだな・・・」
要塞の上層から広場を見下ろし呟く。
飛び散った残骸はきれいに掃除され、現在は露店も開かれ盛況しているようで、結構な人だかりまで出来ている。
「親は無くとも子は育つ――とは、また意味が違うんだったか? しかし、お前がそうやって立派にしているように、領民とて領主に頼りきりと言うわけではないのだろう」
そこへ、兄上が後ろから声を掛けてくる。
「さて。貴族として、統治者として、それはいいことなのでしょうかね?」
「わからないさ。なにせ私はまだ駆け出しだからな」
「それで、問題はなかったのですか?」
「あぁ、ここ2日。新たな処刑を望むものもいない。軍内についても、彼女のことが話題になることもない。私達に対する噂も・・・な。むしろ、精鋭部隊の不甲斐無さが露見してしまったこともあり、そのことでゴルドラッセが忙しそうにしているくらいだ」
鬼の軍団長が扱きあげるなら。精神的にも、肉体的にも余裕なんて残らねぇだろうから、その手のうわさだったり、不満だったりはしばらく出なさそうだ。
それが一段落着いて、あの時は~なんて話になる頃には俺はここにはいねぇしな。文句でも、愚痴でも好きに言やいいだろ。
「そうですか。まぁ、アイツが忙しいのはアイツの責任だし、頑張ってもらいましょう。引退なんかさせず、最後までこき使ってやればいい」
「辛辣だな。それに・・・それは私にも堪えるぞ? 私だけでは軍を取りまとめられないと、そう言われているようなものだからな」
「従わなければどうなるか・・・見せしめにでもしてみればどうです? いずれにせよ。俺にはどうしようもないことなので」
言外に。残ってくれないかという兄上からの誘いを、俺は断らざるを得ない。
「誰を見せしめにしろというんだ? なにより、どうしようもないとはどういうことだ?」
「見せしめなんてのは誰でもいいんですよ。声の大きい奴を狙うといいでしょう。勝手に宣伝してくれますから。どうしようもないっていうのは、そのままの意味です。俺にはもうこの家に居場所がない。残っていい資格がない。今回の件。例え兄上からの処分がなかろうと、事実は消えやしないんです。御父上の顔に泥を塗ったことに変わりはなく、軍部の連中がそのことを忘れることはない」
だから、軍は。俺という存在を許すわけにはいかない。
規範を破り、敵を逃がし、誇りを地に落とした俺を。認めるわけにはいかねぇんだ。
「だが!」
「感情論なんですよ。どっちも。だったら、より多くを納得させられる意見を取った方がいい。領主代行として」
「家族の1人も守れないで、領地など守れるわけがないだろう‼」
「ははは! お言葉は嬉しいのですが、いつまでも兄上に守っていただくほどの子供ではありません。今では俺にも、守りたいものがあるんですよ。それはもう幾つも。だから・・・お願いします」
そう言って頭を下げていると、兄上はなんとも言えない表情で黙る。
まだもう一押しか、と思っていると。ガチャリと扉の開く音が。
「言われた通り荷物は積み込んでやったし、こっちは準備出来たぜ―――って⁉ なにやってんだよ⁉」
任せていた帰り支度を完了したと報告に来たジェイドが鉢合わせる。
「もう行くのか⁉ まだ祭りも終わっていないというのに?」
「その方が紛れるでしょう? 落ち着いてから動いて、下手に絡まれるのも嫌なので」
「全く・・・いつも唐突だな。とりあえず、わかった。ただし、処分はしないんだ。居場所がないなんて、簡単に言ってくれるな」
「わかりました。ありがとうございます」
「それと父上のことだが――あまりこだわるなよ? きっと、なにか考えがあるに違いない」
「だと、いいんですがね」
「春にはバロンも皇都の学園へ通うことになる。そうなったら、また何か頼むかもしれない。元気で暮らせ」
「それほどなにかが出来るとは思いませんが、なにかあればその時は」
部外者であるジェイドの登場と、出立の準備という時間の問題のおかげで、都合よく話の潮目が変わり、俺はこのまま故郷を後にした。