作品タイトル不明
side――グラン1
いつからだろうか?
苦しいと感じるようになったのは。
どこからだろうか?
間違っていたのかと囚われるようになったのは。
思い通りに現実を変えられたことは一度もない。
けれど、昔より。よっぽど真っ直ぐに生きてきたはずなのに。どうしても、上手くはいかなかった。
父上に決められた通り。母上に言われたように。それが正しいと、そうであれと、しかれた道を歩んできたはずだ。
だというのに、兵達は私の言葉になど従わず。戦争の気配が忍び寄る。
もしそうなってしまっては、いつかを再現するように。この地は奪われてしまうのではないか? と脳裏をよぎる時がある。
父上はご健在といえど、当時ほどの辣腕をお持ちではないだろう。
軍団長も、父上と同等かそれ以上の年嵩。今はまだ現役ではあるが、それもいつまで続くか・・・。
2人の存在がなくなれば軍を、この辺境伯領を担うのは現領主代行たる私。
しかし。上手くいかないだろうというのが目に見えている。
父上には品格と知性が必要だと言われた。それについては、今もなお同意できる。
貴族というのは存外に形式ばっていて、独特の常識を持ち合わせている。それを壊さないように、けれどそのまま真似にならないように振舞うには、それなりの品格と知性が必要だったからだ。
だが、兵達は力を求めた。
それだってわからないわけではない。
彼らは戦争になればその命を懸けて闘うことになる。国民を守る盾であり、敵を滅ぼす矛である。その指揮者となれば、戦いにおいても強く気高くあらねばならない。真っ先に逃げ出すような軟弱ものではおちおち命も預けられないと思うのは当然だといえる。
とはいえ、その両方を私は兼ね備えない。
であるならば――足りない部分は補うほかない。
幸いにも、私には恐ろしくも強い弟がいた。そして、最近になって生業としていた冒険者を引退したとも聞いた。私達の仲は決して悪くなく、頼めば了承してくれるかもしれないと思った。
何度か送った手紙の返事は芳しくなかったが、年越しの祭りに我が息子バロンが出ると書いたら帰ってくるという。
バロンにはダシにしたようで申し訳ないが、私は心の中で固く拳を握った。
1つは手応えのため。もう1つは決意のため。
そうして、久しぶりに見る弟は少し想像とは違っていたが、面影を残したままの姿で。つい抱きしめたくなるほどだった。
予想から外れていたのは容姿だけでなく、
「「「以後、お見知りおきを」」」
教え子なる子供たちを連れてきたことも。
よく聞けば半分以上は成人済みだったらしいが、それでも。弟ゼネスが人にものを教えている姿というのは思い描けたものではなかった。
おかしいことではない。おかしいことではないのはわかっているのだが、なにしろゼネスは幼少よりいじめ抜かれたと言ってもいい育ち方をしたのだ。
それが教える側になるというのは、難しいのではないか? と直感的にそう考えてしまう。
そしてやはり、
「なにを言ってるのかわからねぇ」
「言葉が、足りない・・・と思う」
「でもこっちの言葉もいまいち理解してもらえなくて」
「実践してしまった方が早いと考えていますわね!」
「ですが、私達のことを思ってくれているのだということはわかります」
「そうだよね! それに、間違っているわけじゃないと思うんですよ」
話を聞くに、あまり上手ではないらしい。
自分が優しく丁寧に教えてこられなかったから。どうすればいいのか、なんと言えば伝わるのか。それがわからず、さぞ悩んだことだろう。
兄としては四苦八苦、七転八倒している姿が目に浮かぶ故におかしくなってしまうが、本人からすれば笑い事ではなかっただろう。
そして、そんな体たらくの割に・・・ゼネスは教え子たちからの信頼は厚いみたいだ。
なればこそ、確かめておかなければ。
「君達は――・・・本当にゼネスのことを信じられるか?」