作品タイトル不明
あくどい戦術
「よかったのか? あいつらまで連れて来て」
「それはこちらの台詞ですね。よかったのですか? よければ人質。悪くすれば背中を撃たれますよ?」
「その心配はねぇよ。そもそも、俺達は別に仲間ってわけじゃねぇからな。どうするかの判断も、その後の行動も、あいつらの自由だ」
「勝手ですね」
「冒険者だからな」
所変わって渓谷の側。
突き立つ跳ね橋を横目に並ぶ。
ゴルドラッセの後ろには精鋭部隊が、俺の後ろにはジェイド達と檻からは出されたカーナが。ただし、残念ながら手枷はつけたまま、さらには4名の兵士がそのわきを固めている。そして、俺達とゴルドラッセ達の間、少し離れたところに兄上とバロンと少数の護衛が陣取る。
日はまだ頂点に至るにはまだ少し早く、傾いた影がかかる。
危な気に見える1本の長い跳ね橋は、直上に佇んだまましかし、強風に揺れることもない。ただ屹立とするそれは、俺達を分かつが如く。
腰のナイフを引き抜き構える。ゴルドラッセも同様に。
もし左右の利き手が違えば、鏡写しのように。俺達の構えはまったく同じ。
ナイフを持たない左手を前に、必殺たる凶刃は胸に備え、足を軽く開いて斜に構える。
軍隊式近接戦闘術。
飽きる程、何度となく繰り返した訓練。
あの頃から――いかに変わったか。それを今、証明する。
合図はない。
影が正しく互いを分かつ時、俺達は動く。
一足で詰め合い、至近距離で掴み合う。
袖を、襟を、掴んでは振り払われ、掴まれては振り払う。
すぐに足技が挟まるようになる。
上が無理なら下から崩さんとばかりに、踏み、掛け、払い、蹴り飛ばす。
付かず、離れず、捕まらず。
必殺の牙は携えようとも、突き立てなければ意味もなし。互いに空を切り裂くばかり。
たまらず仕切り直しと距離を取る。
「以前であれば、この辺りで勝敗が決まっていたものですが・・・」
「いつの話だよ。いい加減ボケたのか?」
「どうでしょう? 耄碌しているのかもしれませんな? しかし、そうであれば――ゼネス様はそんな耄碌した年寄り相手にも手こずる程度の腕・・・ということになってしまいますな」
「言ってくれるじゃねぇか? だが、まぁ間違いじゃねぇんだろう」
「おや? お認めになるので?」
「ああ。軍人としての俺はその程度だ」
「では、冒険者としては?」
「――これから見せてやるよ!」
今度は俺だけが構えを変える。
ナイフを持つ右手を前に姿勢も低く、的を絞らせるように斜に構える。
「それでは決定打にはなりますまい」
「人間相手ならそうでもねぇよ。人間相手ならな」
「冒険者が・・・聞いてあきれますな」
「なら、笑って見せろよ!」
再びの会合。
ゴルドラッセは先と同じく、弾き、流し、掴み、崩そうと左手を伸ばす。
だが俺は、その左手へと刃を向ける。手先、腕、二の腕。どこでもいい。
ゴルドラッセが着ているのは軍服。手には手袋をつけちゃいるが、俺の籠手のように分厚く堅い守りじゃない。
ワンダーゴーレムの外装の端材から作ったナイフでも、その硬度は間違いなく強固。いくら丈夫な布であっても、布如きに引けは取らねぇ。
衣服の切れ端が宙を舞い出す。
が。それでも、鮮血が飛び出ることはなかった。
「なるほど? 厄介ですね」
「痛みは動きを鈍らせ、出血は判断を曇らせる。最初から、一撃必殺を狙い続けるよりは堅実だろ?」
「それは認めましょう。冒険者ならではのやり方です。軍では速さが重要視されますからね。そのような、なぶり殺しに近いやり方は致しかねます。矜持の面でも」
「だが、罪人は処刑台に送り込みその死を嘲笑し、敵国の人間なら痛ぶる様を観衆に晒しその命を弄んでもいいと?」
「・・・戦場ではありませんから」
「常在戦場。誰の言葉だったかな?」
「ッ⁉」
一瞬の隙だ。
眉が動く程度の、ほんの些細な隙。
だが、
「これで俺の勝ちだな?」
判断が遅れれば、動きが遅れる。
大きく振り払った左手をかいくぐり、ゴルドラッセの右手を抑えた状態で、喉元にナイフを突き立てる。
「それとも、卑怯だとでも騒いでみるか?」
「まさか。こうなることは初めからわかっていましたとも」
どういうことだ? と考えるより先に。
「なに⁉」
ゴルドラッセが俺を押しのけ、控えていたはずの精鋭連中が俺を取り囲む。
「ここからは総力戦です。これも私の力ですからな」
襟元正しながら、
「それとも。卑怯だとでも申しますかな?」
ゴルドラッセは笑いやがった。
まるで、余裕だと見せつけるように。