作品タイトル不明
問われる正義
パチパチパチと白む大気に乾いた音が1つ。
「それで? そちらの方はどうするおつもりですか?」
拍手を携えながら、多くの足音と共に現れたのはゴルドラッセだ。
「そちら・・・ってのは、どっちのことだ?」
「もちろん。両方でございますよ」
軽く腰を折り頭を下げながら、どちらとも言わず両者に視線を飛ばす。
片方は処刑されなかったもの。
もう片方は処刑されたもの。
頭の上半分を失くし、鼻水と唾液と血を垂れ流すだけになったそれを指して。
「綺麗に掃除しろってか? まぁ構わねぇが?」
「おや? 広場に溜まった吐瀉物まで片付けていただけるのですか?」
「そいつは自己責任だろ。明日の予定は変更して、広場の大掃除祭りにでもすりゃぁいい」
「領民それで納得するとは思いませんが・・・提案だけはしてみましょうか。しかし、そちらの御仁についてはそうもいきませんな」
適当にごまかそうかと話をずらしてはみたが、意味ねぇか。
「なぜだ?」
「ゼネス様なら、おわかりのはずですが?」
「敵だから?」
「いかにも」
「それを決めたのは御父上か?」
「いいえ。ただの事実です。我々は未だ――戦争をしているのですから」
それは――・・・そうだな。
ここ数十年。直接的にぶつかり合っていないとはいえ、不可侵条約を結んだわけでもなければ、停戦や休戦の協定を取り付けたわけでもない。
現に東の国はそのせいで代理戦争状態だと聞く。
だが、
「だからって、和平交渉に来たっつー要人を処刑しました。とは、ならねぇだろうが」
「本来であれば、そうでしょうね」
「女だからか?」
「よくおわかりで。我々北の防衛線が見下されたとあっては、国の危機ですから」
「誰の差し金だ? お前個人の意思でやってんなら――」
「私は軍人です。個人の見解で動いたりなど、断じてありえません」
「ハッ! 聞くまでもなかったか」
これで、”誰の意思か”はっきりした。
軍団長たるゴルドラッセを動かせるのはただ1人。
領主であり、総司令でもある御父上で確定だ。
「して。どういたしますか?」
・・・にしても、ミスったな。
面倒事になる前に手早く退散してカーナは行方を晦ますつもりだったんだが、こいつらの動きが早すぎた。晦ますどころか、まだ処刑台の上で檻の中、絶賛お天道様に照らされたままだ。
ゴルドラッセが後ろに連れてるのは今の精鋭か。放置されているゲーニルの死体を見て顔色を悪くしている。なにより、俺に対する嫌悪や憎悪をあんまり感じねぇ。
強行突破は・・・俺1人なら余裕だが。
チラと視線を逸らせば兄上の周りにも、それっぽい若い軍人連中が。当然ながらジェイド達も丸っと囲まれてやがる。
そんでもって手枷までバッチリの捕虜か・・・。
兄上とバロンについては心配いらねぇだろうが、ジェイド達はどうなるか。
そうでなくとも。カーナはゴルドラッセの手に渡れば、明日には再度ここへ立たされるだろう。その時の処刑人は後ろについている精鋭の誰かになる。そこへ割って入るのは流石に無理だ。
残る選択肢としては交渉ぐらいのもんだが――・・・。
「この女は俺が預かるっつったら?」
「しばらく大人しくしてもらうことになりますな」
聞く耳持たず、だよな。
俺でもそうする。
聞き分けの悪い相手に言葉を使う意味は薄いからな。
だったら、取れる方法は1つだ。
「なら、場所を変えようじゃねぇか。ここは狭いし、汚いからな」
「ほう? なるほど。いいでしょう」
お互いに。相手が”わかった”と言うまで殴ってきかせるだけだ。