作品タイトル不明
最低限の実力
「言っていることはわかります。ですが、なぜそのときに言わずに後になってから言うのでしょうか?」
「言えばその場でやって見せたと?」
「それは・・・」
「自信があるのは構わねぇよ。けどな? 魔法職をやろうって奴が想像すら出来ねぇことを言うんじゃねぇよ」
「・・・・・・」
魔法を扱うものは想像に長けていなければならない。
夢を見るにしても、現実を見るにしてもだ。
魔法は人に与えられた奇跡なんかじゃない。
この世界に生きるすべてのものに与えられた権利だ。
「俺がなんで生態調査報告書なんかを一々確認しろって言ったか・・・わかるか?」
「・・・・・・危ないから・・・ですよね?」
沈黙を守っていたヨハンが答える。
「そうだ。危険だからだ。じゃぁ、なんでそれを 冒(おか) す?」
「それが冒険者・・・だからじゃ・・・?」
「違うな。そんなことをする奴を冒険者って呼ぶようになったんだ。わざわざ危険なマネをするのは、夢だとかロマンのためだ」
元は冒険者なんかじゃなく、ただのバカとでも言われていたはずだ。
「一時期は ジェイド(あいつ) みたいに、危険を求めるのが冒険だという風潮があったらしいが・・・今がそうじゃないのは昨日言ったな? なぜだと思う?」
「なぜって・・・そんなの・・・」
「そう。死ぬからだ」
ここまでは昨日言った通りだ。
「なら、なんで死ぬのがいけないんだ?」
「なんでって・・・」
「先がないからでしょう」
今度は復活してきたリミアが答える。
「一般的に言えばそうだな」
「一般的に・・・ということは 冒険者(わたしたち) にとっては違う、と?」
よくわかってるじゃないか。
「ああ。 冒険者(オレたち) にとって死ぬことは恥なんだよ」
「恥?」
「偉業を成し、伝説と言われた人物でも、死んだら終りだ。何も残らない。手に入れたもん全部失くして、それで冒険者だ! なんて名乗れるか?」
「・・・確かに、危険を冒してでも手に入れたものを失うのであれば、それを行う意味がない」
「死は冒険者にとって三流以下の烙印だ。膝に矢を受けて引退するよりマヌケだって証明だ」
最低限、致命傷を避ければ大概の怪我は治る。
死ぬっていうのはその最低限にも届かなかったわけだからな。
「敵の眼前で目を瞑って、自分が死ぬことさえ想像できなかったお前らに、そんな 冒険者(そんざい) になる覚悟はあるか?」
「冒険者がどんな存在なのか、まだ理解が及びません。なので、是非見せていただきたいのです。最低限の実力というものを」
煽られやすいリミアが乗ってくるのは計算済みだが・・・ヨハンを見れば、こちらも頷いて見せる。
「最低限、か。そうだな、魔法使いだってんなら」
お互いの視線が交差する高さに両手を突き出し、見せつけるように、
「これぐらいはしてもらわねぇとな?」
小さく集約した初級魔法をそれぞれ指先に発現させる。
火、水、土、風、木、氷、雷、光、闇・・・そして、時空。
「まさか、こんな・・・」
「時空魔法まで⁉」
二人とも面白いほどの驚きようだ。
「ま、これが才能って・・・言えりゃよかったんだけどな?」
「違う、と?」
「魔法の同時使用は慣れだ。やろうと思えば誰にだってできる」
「時空魔法もですか⁉」
「そっちは流石に無理だ。使える奴は最初から使える。その理由の大半がギフトだ。後からどうこうってのは聞いたこともねぇ」
そうですか、とうなだれるヨハンは、
「・・・・・・ギフト・・・」
うなだれたまま一つ、呟いた後、
「ギフトについて・・・詳しく教えてくれませんか?」
意を決したように顔を上げた。