作品タイトル不明
side―キューティー2
「付き合ってられるかよ‼ 俺はさっさと退散させてもらうぜ‼ お前らも、死にたくなけりゃ逃げるんだな‼」
それだけを言い残し、あの男は逃げていきました。
むしろ、まだいたんですの? と思ったくらいですが、本当になんの役も立ちませんでしたわね。いっそすがすがしい程に。
それにしても、逃げる・・・ですの。
男が去ったほうを眺めると、ここより少し高くなっており、さらにその先も山道のように上り坂が続いている。
反対に、私達の後ろは下り坂に。それも斜度が大きな下り坂ですわ。
どうやらこの付近はつづら折りのようになっているんですのね。
なぜか、そのようなことを冷静に考えていました。
理由は単純。
「――グギャァアアォォオオオオォォ‼‼‼」
モンスターの苦痛の嘶き。
魔法が効いていたのですわ。
ヨハンの魔法が目を奪い、ケイトの魔法は足を焼き、リミアの魔法で身を穿つ。
それぞれが順当に機能し、確実な成果を上げていました。
「よし‼」
ジェイド様はすかさず前へ。
踏み出そうとする足を、踏みなおそうとする足を、盾で止めて押し返します。
私も遅れないように付いていき、剣を振るって、斬るや突くやと試みますが・・・かえってくる手応えは正に岩のそれ。否が応でも無意味だとわかってしまいますの。
その証拠とでもいうのでしょうか? モンスターは私に見向きもしないのですわ! あろうことか、エイラの方が狙われるなど! 前衛としてこれほど恥ずかしいことなどありはいたしません‼
私は甘く見ていたのかもしれませんわね。
なまじ迷宮攻略でも結果を出せてしまったものだから。
ゼネスさんにも天才的だと言われ、認められているものだと、思っていました。
どんなことにも基礎があり、基礎こそが実力を培う。これは師範のお言葉であり、私にはその基礎があるのだと、そう思っていましたのに。
忸怩たる思い・・・というのは、今このような時に使うのでしょうね。
その基礎が通じなかったら? などと、思ったこともありませんでした。
いいえ、考えないようにしていたのかもしれませんわね。
実際に、ゼネスさんにはあれこれと注文を付けられていましたし、その難しさに私は少々辟易としていたのですから。
”置いて行かれたくない”
それは私達全員が思っているに違いないこと。
原因はもちろん、ゼネスさんに他なりません。強迫観念を植え付けられたと言ってもいいでしょう。
誰であっても、あのようなお話を聞かされれば自分にも起こり得るのでは? と考えてしまうでしょう。
それがあの人の狙いだとわかっていても・・・。
競わせたいのでしょう? お互いに。磨き合うように、高め合うように。
この期に及んで。そんな考えが透けて見える自分が嫌になりますわ。そういうものを嫌だと感じてしまう自分に、そして。
それでも尚、試してみたくなる自分に。
嫌気がさします。
私は魔法を得意とはしていません。ですが、使えないというわけでもありませんの。魔力量も人並み以上と言えるはずですわ!
ただ、魔法に頼るのは甘えだと、そう思ってきたんですの。
一流とはまず体から。
いついかなる時もその身一つで乗り越えられるように。というのが我が家の家訓だから、というのもありますが、上手くいかない現実を魔法で捻じ曲げようとするところが、気に食わないったらありゃしませんの‼
迷宮攻略の時のケイトもそうですの。
なにも。魔法は現実から逃れるためのものではないと! この身で証明したかったのですわ‼
けれど。
それでは足りないと、突き付けられましたの。現実に。
で、あるならば・・・私は。
それすらも! 乗り越えなければならないのですわ‼
ジェイド様! いつかの約束への不義はいずれお詫びさせていただきます‼ ですが私は! いつだってあなたのお隣に居たいのですわ‼
だから、上手くなくても。調節など出来なくとも。
全力で‼
戦うことをお許しください‼
気付けばボロボロに成り始めている巨大なモンスターを前に、意を決します。
ここから私がモンスターを討伐したら、横取りと思われてしまうでしょうか? そんなつまらない考えが一瞬過りましたが、大丈夫。
私の仲間はジェイド様の仲間。
どう思おうとも、必ず最後には祝福していただけるに決まっていますわ‼