軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

魔法職

「それはいったい・・・?」

取り出した薬を指してリミアが聞く。

「魔力回復用の 丸薬(がんやく) だ」

「そんなものもあるのですね。教会で作られている液体状のものとはどう違うのでしょうか?」

「こいつはそれを 濃縮(のうしゅく) して固めたもんだ。持ち運びがしやすく即効性が高い反面、一度の使用量に制限があって、使いすぎれば中毒症状を引き起こす代物だ」

「違法薬物の類ではないのですよね・・・?」

「中毒っつっても魔力中毒だ。症状にも個人差があるし、症状自体も一時的なもんだ。取り締まるようなもんでもないさ」

魔力中毒。または魔力酔いと呼ばれる現象は、本来なら時間をかけて自然回復する魔力を外的要因によって一気に補充することで起こる一種の発作だ。身体の拒否反応と言ってもいい。その症状は様々で、中毒者のように魔力を求めるようになる者もいれば、それこそ酒に酔ったようになる者もいる。

「そんなものまで使う必要はあるのですか?」

そこまでしなくても、というが、

「俺の魔力量じゃ目に見える様にやろうと思うと必要になるんだよ」

魔法職に向いてないのは俺も同じ。再現しようと思えば道具にも頼ることになる。

そして、こういう姿を見せることが、ヨハンを助けるはずなんだ。

「まずは近距離からだな。近距離は基本的に物理とやることは変わらない。武器に魔力を流し込んだり、拳に 纏(まと) ったりして、それを叩きつけて戦う」

ベルトに固定しているナイフを引き抜いて二人の前に出す。

「今回は見えるまで魔力を 籠(こ) めるが、実戦でここまでやる必要はない。魔力の無駄だからな。うまい奴になると、凝視しても違いが分からないぐらい薄く籠める」

ナイフの刃に魔力を流し込み、さらに濃度を上げる。

そうすることで、はたからでも魔力が視認できるようになる。

「キレイですねぇ・・・」

魔力の光に目を奪われているヨハンをよそに、

「これにいったいなんの意味が・・・?」

なぜそんなことをするのか? と困惑するリミア。

まぁ、確かに意味が分からないだろうな。なにせ、魔力を纏わせたところで武器の威力が上がるわけじゃないからな。

「理由は単純に優位を作るためだ」

「優位を?」

「あぁ。モンスターの中には物理耐性や魔法耐性を持ってる奴も多い。そういう奴相手に両方の特性を持った攻撃で対処しづらくさせるんだよ。耐性持ちほど隙だらけだったりするからな」

耐性を持つモンスターは耐性を持つが故に、隙や弱点がある。

物理耐性なら体表が固く、殻のような装甲を層のように持っていたり、魔法耐性なら魔力量に任せて魔法を通さないバリアを張っていたり、そういう強みに甘えて動きが 緩慢(かんまん) だったり、守りが薄かったり。

中には両方に高い耐性を持つワンダーゴーレムとかいう生物かどうかも怪しい化け物もいるが・・・。

もちろん両方効くモンスターの方が多くいるのは言うまでもない。

そして、それらすべてを同じように戦えるのが、近距離魔法職だ。

物理が効かなくても、魔法が効かなくても、戦い方を変える必要がない。

それはつまり、いつも通りの連携をいつでも変わらず使えるということで、当然その信頼や安心感は仲間に、自身に余裕を生み出す。

なにより、

「魔法は想像力で使う。魔力の多さをより有効に使おうと思ったら、魔法をより強力に、複雑にしようとするのが普通だが、それをあえて前に出ることで隠し、最前線で相手の強みを潰す。そういう発想力から生まれる嫌がらせやフェイントはモンスターだけじゃなく人間にも有効だ」

魔力はかなりの濃度にならないと目に映らない。

それを利用して、一見ただのナイフがその実、槍より長いリーチを作ったり・・・まぁ、モンスターは人間のより魔力に敏感だから作れる優位は限られるが。

それでも、変幻自在という言葉が最も適していると言える。

ただ、

「問題はそれが出来るのか・・・ってとこだな。高い魔力量を持っているのに体を鍛えて、大量の知識を詰め込んで、一瞬で判断を下せるまでになれるのか」

そこまでする意味があるのか。

一部の変態を除いて近距離魔法職がいない理由だ。

魔法剣士なども近距離で戦って魔法も使うが、魔法剣士のスタンスは”魔法も使える”剣士であって、”魔法で戦う”剣士ではないので、ベースが違う。

「間違いなく理論上は”最強”なんだがな。目指すなら止めねぇぞ?」

「・・・・・・やはり意味がないのでは?」

そんなことはない。

ないが・・・ 所詮(しょせん) 、最強は男のロマンか。呆れるリミアと目を輝かせているヨハン。

「優位が作れるってのは嘘じゃねぇ。A級以上の魔法職は小技として近距離戦闘の 術(すべ) も持ってるから、意味はあるさ」

使うかどうかは別として、だが。

「まぁお気に召さないみたいだし、次だ」

本当は動けない魔法職なんてのは的もいいところなんだが、そのまま置物魔法使いにするつもりもない。興味のないことで口うるさくしても反感を買うだけだからな。その辺は黙って仕込ませてもらおう。

「中距離魔法職は補助役だ。求められるのは魔法の威力や複雑さよりも、正確性と速さになる。味方の背中を守ったり、敵の隙を作ったりする役だ。回復や支援魔法も使えた方がいいな」

中距離魔法職は魔導士と呼ばれることが多く、前衛と後衛の間に立って戦う。

近距離魔法職と同じく万能を求められるが、その内容は補助だ。

前衛と後衛を繋ぎ、パーティー間の距離を管理し隙をなくすように動く。時には囮となって敵を引きつけたり、味方に隠れて隙をついたり、全体を見渡す必要があるポジションだ。

「仲間を支え、かつ自分でも戦えるのが理想だな。戦闘中の駆け引きを出来るだけ多く把握して、有利にことを進めることで得られる、場を掌握する感覚は他にはない」

全能感とはまた違うが、思い通り事が運ぶ様は得も言われぬものがある。

とはいえ、

「自分の判断ミスで誰かが死ぬ。そういう責任も背負うことになる。ついでに言えば、分かりやすい功績を上げるわけでもないから軽く見られがちだ。魔法職的には魔力量が低い適正ギリギリ、みたいな奴が担当することも多いからか見下されることもあるな」

それを聞いた二人が嫌な顔をする。

これからを夢見る子供達にこんなことを言うのはなんだが・・・それでも、都合のいい事だけを教えるなんてのは卑怯なことこの上ない。それこそ、分かり切った未来があるんだからな。

「やりたくなったか?」

「今の話のどこにそんな要素があったのでしょう? どちらも聞く必要があったのかと思うほどです」

呆れたように言いつつ、

「ですが、魅力がなかったわけでもありません。完璧求められるというのは悪いものではありません。なにより、こちらも同じく完璧を要求できるのですから」

それでも、つらつらとそんな言葉が出てくるあたり、キチンと想像してみたんだろう。

「知ってるっつー話だったが、遠距離についても聞いとくか?」

「聞かなければよかったと言わせないでいただけるのでしたら・・・」

棘のある言葉とは裏腹に薄い微笑みで答えるリミア。

ちょっとは打ち解けたか、あるいはなめられているのか。わかりゃしないが、ガチガチの関係よりは幾らかましか。

「そうだな・・・まぁ、いわゆる魔法使いって奴だ。一番想像しやすいだろう。唯一長々詠唱して許される魔法職だな。その代わり、圧倒的威力、範囲が必要になる。誰にも文句を言わせない。すべてを黙らせる力の権化」

突っ立って詠唱している魔法使いなんてのは的だと言ったが、それでも守る価値があると思わせられるのが魔法使いってやつなんだ。

「気を付けるべきは詠唱中、無防備になり敵に狙われること」

とはいえ、的は足手まといで間違いない。

先に進めば、長く戦えば、それだけ誰かを危険にさらす。

そうならないよう、お互いに味方に依存しないためにも、出来ることは己を鍛え上げることだ。

「後は・・・勘違いしてる奴が多いせいか、そういう目で見られる」

「なにに勘違いしているのかも気になりますが、そういう目・・・というのは?」

「頭がおかしいんだなって目だ」

魔法使いは皆どこかネジが飛んでいる頭のおかしい人間ばかり。これが周りの勘違い。そして、自分が普通で自分は正しい。そう思っているのが魔法使いの勘違い。

正しくは、冒険者なんて全員どこかしらイカレた連中、だ。

「私はいったいどうすれば・・・・・・」

そんなこととは知らず、頭を抱える少女を、

「おおいに悩め」

無責任に笑った。