作品タイトル不明
嘘か実か?
あのおっさん大司教も、今や教皇の爺さんで。
なにより、元が無駄なことは嫌う人物だ。
「教会か、あるいは爺の独断かは知らねぇが、話すつもりがねぇならここまでだ。そっちの話を聞くこともなくなるだろうが、どうする?」
「信じてはいただけないでしょうが、お慕いしているということに、嘘や偽りはありませんよ?」
ユノは困ったような顔で、悔しそうにそう告げる。
だが、その思いは正しくもない。
前回のことで、それはハッキリしている。
こいつの思いっつーのは、”教会に来れば何不自由なく神として君臨できるのに、それをしねぇこと”に対する憧れのようなもので、俺個人なんざどうだっていいんだ。
そのまま、俺が答えないでいると。
ユノがスッと立ち上がり、話を終えるのかと思いきや、俺の隣に座る。
そして、縋りつくように腕を取りながら、
「望福教についてはどこまでご存じでしょうか?」
耳元で呟く。
思わず。体を仰け反らそうとするが、
「――ッ‼」
この席は壁際。肩が壁にぶつかって止まる。
そのおかげ・・・というのは癪だが、その瞬間にパッと店内の様子が広く、目に入る。
店にはそれなりに人が入っている。
子供や老人はいねぇが、年齢幅もそれなりだ。
そんな中で、俺は不覚にも壁にぶつかり、ガッ‼ という結構な音を出したはずだ。肩と同時に籠手も壁にぶつけたしな。
だが、一つとして視線が集まって来ない。
皆が皆、自分達の会話に集中している。
思い返してみれば、ベルと密談していた時も、聞き耳を立てる奴はおろか、俺達の言葉遣いや態度、身に着けている装飾品なんかに気を取られてる奴すらいなかったんじゃ・・・?
普通、どうしたって貴族ってのは見られるもんだ。
冒険者になろうと、庶民にまぎれようと扮装しても、どこか些細な事や物であっけなく看破され、注目を集める。
にもかかわらず。
この店の中では誰も俺を気にしていた記憶がねぇ。
なにより、自分達の会話に集中してればこそ、デカい物音なんかで集中が切られた時には、その音の方へ注目が行くはず。
俺は、人の腕を抱えたままに小首をかしげるユノに聞く。
「どういうことだ?」
「そのままの意味ですよ? 望福教についてどこまで――」
「そうじゃねぇ。この店のことだ」
繰り返すユノの言葉を押して聞く。
しかし、
「まずは、お答ください。望福教について、どこまでご存じでしょうか?」
ユノも頑なに譲らず、俺の腕をその身に引き寄せながら続けた。
「詳しいことまでは知らねぇよ。主張や理念ぐらいだ」
「では、望福教が唱える”ギフトは神に与えられるものではなく、人の思いによって授かるものだ”という考え自体はご存じなのですね?」
「ああ」
「それなら、お話は早いかもしれません」
「どういう意味だ?」
「この店には教会の息がかかっているということです」
またしても、耳元で呟くユノ。
息がかかってるのはてめぇだと言ってやりたい。
「・・・・・・なんのために? って聞くまでもねぇか?」
「おそらくはお考えの通りだと思います」
望福教への対策、か。
「教会というのはその性質上、お貴族様方や国という相手に対しては大きな発言権を持つのはおわかりいただけるかと思います。祈祷や製薬を担当していますから」
「そうだな」
国はもちろん。どこぞの貴族であっても、薬が手に入らなくなれば大事だし、教会に手を出した、嫌われたと知られれば、周りからの反感も買うだろう。
それはすなわち体面の死に繋がり、貴族としての誇りを汚すことになる。
「ですが、国民・・・ひいては庶民の皆様へは、その逆になりがちです」
「当然だな。宗教ってのはそういうもんだ」
「はい。それが問題なのです」
国や貴族と違い、庶民ってのは数が多い。
そして、組織にとってはそれが取り得で、それだけが全てだ。
取り込む数が多ければ多いほど勢力は増し、その数が大きくなるほど個人への対応は悪くなる。
当たり前ではあるが、個人からすればそれは一大事で、解消できない不満なわけだ。
「過去に存在し、今もなお、どこかで続くとされている精霊信仰。その廃退の原因は、現在の教会が掲げる加護信仰の影響です」
要は、どちらを信じるか。信じるに値するか。
また、自分達により都合がいいのはどちらか。
「そして今。一部で加護信仰に取って代わろうという宗教が現れました。それが――」
「――望福教」
「はい。彼の信仰は、より詳しく説明するなら”神など存在しえず、全ては人の思いの果てにこそある”となります。つまり、神を捨て、人を崇めようというのです」
「その崇める対象ってのは・・・」
「おそらく。望福教の教祖となるでしょうね・・・」
「そいつについては、なにか知ってるのか?」
「お爺様なら、もしかすれば・・・」
知ってたとして、部外者たる俺に教えるか?
っつーか、聞いたところで、か。
ギルドのことも、今回の窃盗騒ぎも、どう考えても関わってんだろうし、出来るならなんとか潰してぇところだが・・・流石にどうにもならねぇか。
とりあえず、今は俺の疑問を晴らそう。
改めて俺は隣に侍るユノに聞く。
「それで? この店との関係は?」
するとユノは、
「このお店では望福教への勧誘をしているのです」
さらに密着するようにしながら、ハッキリと耳元でそう答えた。