軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

side―とある傭兵2

その男はある日、1人の商人を伴って現れた。

逆ではない。

断じて、逆ではなかった。

そう言える。

主人が商会に招き入れ、皆が見える場所で話をしていたのだが・・・。

その姿は大胆不敵であり、態度は余裕綽々といった具合で。

周りにいる俺達のことをよくよく観察していたと思う。

あえて馬鹿にするような言葉特徴を選らんでいたのではないだろうか?

近くにいた下の奴が怒りを剝き出しにすれば、必ず視線を飛ばして牽制し。

汚い言葉でヤジを飛ばせば、すぐさま笑って答えて見せた。

その上で、

「もちろん。負けるなんざありえねぇな」

と、自信満々で主人の言葉に答えた。

その言葉に嘘はなかったのだと思う。

なぜなら、皆が馬鹿なと笑う中で、吹き抜けの最上階。その一番奥で見ていた俺達のトップだけは、すぐさま指示を出していたからだ。

いつもフードを被って、ほとんど顔すら見たことはなかったが、チラリと覗けたその顔は・・・確かに、歯噛みしていたはずなのだ。

そして、その化け物が商会を出てすぐ、俺にも命令が下る。

内容は奴らの馬車を追いかけろ。

理由は・・・会話の内容から明白だった。

従いたくはなかったが、断るなど出来るはずもなく。

仕方なく俺達は数台の馬車に乗り分けて奴らを追った。

繁華街で追いついた時には、もしや! と思わなかったわけじゃない。

けれど、確保できず。

また、追走劇だ。

そして奇しくも、連続で好機が巡ってくる。

奴らは繁華街の広場を出た後すぐ、町の外を目指したのだ。

しかし、その先には貧民街がある。

そのことを知ってか知らずか、奴らは門を駆け抜ける。

こっちは何か月も暮らした場所だ。

後手を取ることはない。

そのはずだった。

俺は部下達と通信の魔道具を用いて連絡を密にし、奴らをうまく追い込んだ。

反対側には俺と同じ立場の奴が別の部隊を率いて待機している。

勝手に建てられたボロ屋の裏と、好き放題に積み上げられた今にも崩れてきそうなゴミ山に挟まれた長いストレート。

逃げ場もなく、見通しはいい。

こちらの数こそ、それほどでないにしても、貧民街を巻き込んでまで戦うことはない・・・と思う。

それをすれば不利になるのは向こうの方だ。

だから、諦めると思ったのだ。

だがしかし、逃げる馬車は速度を上げていき、まさか! と思った瞬間、ゴミ山へと突っ込んだ。

予想外だった。

どうするか迷った。

けれど次の瞬間――、一番前を走っていた部下の馬車が宙を舞った。

ボロ屋にぶつかるようなことはなかったが、故に道には倒れた2台の馬車が。

危なかった。

俺が後ろから全体を見て指示するタイプじゃなければ、吹き飛んでいたのは俺だったかも知れない。

俺達は足を止めて、考えた。

そして俺は、報告すべき至り、残った部下を連れて商会へと戻った。

仕方がないだろう。

バラバラに仕掛けても勝ち目はない。

それは商会で見た時にわかったはず。

すぐに正面の部隊も引き上げてくるさ。

結果から言えば、もう一度その場に戻った時、化け物の姿はなかった。

代わりに。叩きのめされ、転がされた同僚達の姿があった。

そして、商会の馬車がなくなっていた。

どうやら同僚たちは馬車を奪われ、逃げられなかったようだ。

様子を見ているうちに先に仕掛けられ、馬車を奪い返すために戦ったのだろう。

怪我人を回収しながら、奴らがどこへ行ったのかを調べる。

そうするのは、現場を確認し奴らの動向を探れとの命令で、この場に戻ってきたからだ。

それにしても、どうすれば・・・?

向かった先に心当たりなどなく、痕跡も轍のみ。

報告に戻るんだから、辿るわけにもいかないのだが、かといって、このまま戻って報告しても、雲隠れに徹されたら見つけようがない。

そうなったら責任を取らされるのは俺だ。

とはいうものの・・・仕方がない。

俺は一緒に連れてきた部下に轍を追跡させ、今一度報告の為に商会へ戻った。

最悪だとその場で斬り捨てもあるかと恐れ慄いて戻ったが、幸いにもそのような目には合わなかった。

俺達のトップ。フードの男がこういったからだ。

『敵は通信機を持ち出したのだから、その魔力を辿れば追いつくだろう』

と。俺はすぐに、残してきた部下達に連絡をいれて確認させたところ、確かに反応があったらしい。

おかげで首が飛ばずに済んだ。

そして、反応のある方角を聞いてフードの男は続けた。

『どうやら都合がいいことなったようだ』

そう笑いながら、

『総力戦でいいだろう』

と。主人に提案した。

そして、なにやら耳打ちしたところで主人が。

「傭兵全員を集めろ‼ これは好機だ‼ 打って出るぞ‼」

高らかに言い放った。

どうやら、奴らは亜人共の元へと向かったらしい。

故に主人は喜んだのだ。

その上、

『おそらく敵は亜人共と戦っている事だろう』

フード男は主人に向かってそう耳打ちしたらしい。

だからこそ、全員を連れての大行進となったのだ。

そうして辿り着いた先には―――言葉通りの光景が広がっていた。

争った後であろう両者と倒れた誰か。

それを囲むように集まる奴ら。

すぐに俺達は広がり、辺りを陣取る。

亜人共が逃げられないように選んだ地形なのだと聞かされた通り、この地形は天然の牢屋のようで、反攻は難しいだろう。

さらに、こちらは100人以上の大群。向こうは数人で消耗もしている。

これは勝てる。

誰しもがそう思ったはずだ。

主人すらも。

だから、仰々しく見下すように声をかけた。

けれど、その確信はあっという間に覆った。

「頭はどうした?」

という一言によって。

その言葉を聞いた時には皆が笑った。

なにを言ってるんだ、と。

敵の言葉を鵜呑みにする馬鹿ではない。

鼻で笑ってあしらうつもりだった。

しかし、話が進めば進むほど。

「見限られたか」

その言葉が真に迫った。

なぜ指揮官がいないのか、なぜ連絡がつかないのか。

なぜ”そんなこともわからないのか”

そう言われたわけではない。

ただ、そう言われたと感じただけだ。

それでも十分だった。

疑問は戸惑いを生み、真実は恐れを呼んだ。

主人の号令が掛かった時には、もう。

取り返しはつかなかったのだ。

ヒュウと吹き抜けた風はゴォウと唸りに変わり、ザァザァと土砂降りのような音で泣き喚く葉は身を叩き合わせ、ミシミシと悶え喘ぐ枝はその身を深く撓らせる。

色も形も持たないはず風は、いつの間にか、光を捻じ曲げ闇を降ろす嵐となった。

突如現れた壁は分厚く、高く、どこまでも遠く。

ただ、足元だけが見えていた。

進むか。退くか。

悩む間などなく、光が差す。

赤か、白か、あるいは橙。

パチリと一筋。それだけだ。

それだけで、ボウ‼ と。ほんの一瞬で光り輝き、黒の壁を白に塗り替える。

さっきまでは、押しつぶされそうな重苦しさを与えてきた嵐の壁だったが、次の瞬間には肺まで焦がそうとする燃え盛る炎の壁へと変化した‼

もう・・・。

もうわけがわからなかった‼

周りを見れば全員がそうだ。

パニックだった。

誰もがなにかを叫び、しかし、誰もはその意味を理解できなかった。

言葉の意味も、叫ぶ意味も、だ。

聞こえてくるのは意味をなさない音ばかり。

誰か指示を出してくれ!

誰でもいい!

なぜ・・・ッ⁉

そうかっ! 俺が出せばいい‼

こんな状況では後ろから、などと呑気なことを言ってはいられない⁉

よしっ! 下へ行くんだ‼

そうだ! 囲まれているなら前へ進むんだ‼

さぁ‼‼

そうやって、声をあげていたはずだ。

身振り手振りで伝えたはずだ。

なのに、なぜその場で蹲る⁉

そんなことをして、なんの意味があるというのだ⁉

そう思っているのに。

どうして俺は、同じように倒れているのだろう?

土色が縦半分に広がる視界を理解出来ず。

けれど、抗うことも出来ず。

ただ、全員が・・・倒れ伏した。