軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

それから

一人を除いて、その言葉を聞いた者たちの顔には安心と、ほんの少しの呆れがあった。

「やっと言ったわね。A級に上がってからずっと、つらかったでしょ」

「まぁな・・・少なくとも余裕はなかったよ」

呆れたように言うアンナの言葉を否定することは出来なかった。

いつの間にか常にギリギリに立っていた気がした。

「僕らも強くなりましたから。もうゼネスさんに頼らなくても、大丈夫なはずです」

「言うようになったな。エリック」

「僕も男ですからね」

前髪で目を隠していた 華奢(きゃしゃ) な少年はもうそこにはおらず、 精悍(せいかん) ・・・とまではいかないが、ずいぶんと大人っぽくなったように思う。

「後のことは私が」

「無理はするなよ。フェリシア」

責任感が強く、真面目。だからこそ、色々と溜め込みがちなところがあるフェリシアにすべて任せるのは不安が残る。

「クライフ・・・お前がまとめるんだぞ?」

俯いたまま反応のない親友に、なんて声を懸けるべきか。

少々悩んだが、他に言葉も見つからなかったので、思ったままを口にすることにした。

「お前と会ってから22年か? 色んなことがあったよな?」

貴族学園幼小部の入学式。それから随分と一緒にいたもんだ。

「冒険者になって15年・・・よくもまぁ、碌な怪我もせず生きてこれたもんだ」

幼少部卒業のタイミングで、俺たちは冒険者になった。

「随分怒られたもんだが、そうだな・・・まぁ、楽しかったよ―――」

当時はそれはもう各方面から怒られた。

それでも、後悔はない。

「―――ありがとう」

俯く親友は動かない。

俺は 踵(きびす) を返し、宿へと向かう。

「今後・・・・・・どうするんだ・・・」

震えた擦れ声が届く。

雑踏があれば消えいったであろう情けない、らしくない声だ。

「明後日には 隊商(キャラバン) が街を出る。それに同行させてもらって皇都に帰るさ」

ここから皇都までの道のりは長い。幾ら冒険者でも一人で移動なんてのは自殺行為だ。この機を逃せば、またダラダラと一緒にいてしまうだろう。

そうなる前に、皇都に戻り冒険者ギルドで引退の手続きを済ませなければならない。

「・・・街に残らないのか?」

「居ても邪魔だろ?」

「そんなことありませんよ!」

エリックが即座に否定してくれるが、

「残る理由もないんだよ」

苦笑で返す。

「まぁこの辺りのモンスターは強いしね。それでも、どうして皇都まで戻る必要があるのよ?」

「本拠地登録が皇都だからな」

冒険者ギルドは世界中にある。だから冒険者登録は身元保証になり、依頼などで国境越えをしても問題にならないし、通行税なんかも免除される。

とはいえ、何でもかんでも許していたら、好き勝手する連中が多いのも冒険者という職だ。

故に、絶対順守の掟がある。

その中の一つが引退手続きは登録支部(本部)で行うこと。というのがある。これは犯罪などを犯した冒険者が発覚前に依頼を受けて、国境を越えた先で伝達前に引退して行方をくらませたりしないように、責任逃れ出来ないようにと作られたものらしい。

だから俺は帰らなきゃならない。

「引退、ですか」

「・・・ああ」

どうやらここまでの会話だけで、真面目なフェリシアには俺の意図が伝わったらしい。

『どうして⁉』(なんで⁉)

残りの三人全員が反応したのは意外だった。

「あのなぁ・・・今さら一人で冒険者なんて出来ねぇよ」

「他のパーティーに入ればいいじゃない‼」

「実力不足で追い出された奴を欲しがるパーティーなんかあるかよ」

「昇級したばかりのパーティーならどうですか⁉」

「昇級できると思って試験を受けて、無事昇級したのに何で他のやつの手を借りようと思うんだ?」

「なら‼ 今まで一緒に戦ったことのあるパーティーにーーー」

「追い出されたから入れてくれって? 勘弁してくれ」

三者三様に言うが、どれも現実的じゃない。

基本的にパーティーから抜けた冒険者の選択肢は二つだ。

一つはソロ活動。

これを行うことで実力を示すなどして、同じようにパーティーを脱退、解散したメンバーとパーティーを組みなおす。

一応、既存パーティーに加入することも無くはないのだが、それは比較的低ランク帯のことで、人間関係や連携などが完全に出来上がっている中に入ってどうの、というのはそうない。

もう一つは引退。

怪我や年齢などもそうだが、ソロで実入りを確保できる実力がないものはこれを選ぶほかない。

さらに、俺の場合はその後の事情も絡んでくる。

というのも、俺たちのパーティーはすでにA級であり、後日に控えている昇級試験は冒険者ギルド 肝煎(きもい) りの最難関試験である。これを突破した場合、ギルドランクはSとなり 所謂処(いわゆるところ) の”勇者”パーティー様になるということだ。

そうなった場合の俺の扱いは”勇者”になれなかった奴。に他ならず、 腫物(はれもの) 扱いは必至だといえる。そんな俺を引き入れようとする者はいないし、いるとすれば厄介なもの好きか、ふざけた馬鹿か、だ。どちらに転んでも碌なことにはならないだろう。

となれば、答えは一つだ。

「冒険者をやめて・・・どうするのですか?」

「特に決めてはないが――」

そう遠くない未来として引退は常に頭の片隅にいた。

だから、

「――何もなければ田舎にでも帰るさ」

自然とその言葉が口に出た。

「そうですか」

「・・・それで、いいのか?」

親友を除いた三人は言いたいことはあるみたいだが、何も言わない。

事情を知っている親友だけが心配そうに声を上げるが、

「ああ、なるようになるさ」

少なくとも俺はそう思っている。

俺も、クライフも冒険者登録に家名は入れていない。

それは王侯貴族としての最低限の礼儀だとかなんだとか、よくわからないが冒険者ってのは貴い者のやることじゃないと。

実家に帰ればそのことで何かあるんじゃないかと、そう思っているんだろう。

ただ、俺は家族と仲が悪いわけじゃないし、家柄的にも冒険者だったからどうとかはないと思っていた。引退を心置きなく選べたのは、そのおかげでもあるのだから。

「じゃぁ・・・ま、宿に戻って荷造りでもするさ」

そう言って、俺は一人かつての仲間たちに背を向け、夜の闇に歩き出した。