作品タイトル不明
連行
「・・・・・・僕に・・・?」
フッチが急に立ち止まる。
「ああ。性格っつーより、見た目とか仕草がって感じだけどな」
性格が、だと悪口になるだろうが・・・見た目なら褒めてることになるだろ。なにしろ、誰もが目を奪われる程の存在だったしな。
だからこそ、それをわかっててのあの態度が死ぬほど嫌われていたんだが。
「って! おい‼」
なにを思っていたのか。いつかの夜のように呆けたまま。
人混みの中で足を止めたフッチは流れをせき止める事になり、背後から前を見てなかった酔っ払いに衝突されてしまう。
「おいこらてめぇ‼ 何ボサッとして―――ッ⁉」
ぶつかったことに気付き、視線を戻し、啖呵をきろうとしたところで・・・見てしまった。
前へと倒れるフッチの頭。
フードが外れる瞬間を。
「おい・・・こら、にぃちゃん。そいつはいったいどういうことだ?」
フッチはすぐさまフードを被り直し、俺の後ろへ姿を隠す。
「なんのことだ?」
他に選択肢はなかった。
あからさまに、煽るように、馬鹿にして、聞き返す。
「とぼけてんじゃねぇ‼‼ 後ろにいるそいつは‼ 角付きじゃねぇのか⁉⁉」
酔っ払いの声が響き渡ると同時、視線が集まるのを感じた。
そして、それを遮るように、
「どうしたんすか? 飲み過ぎは良くないですぜ? まだ昼間だ。夢を見るにゃぁ早過ぎますぜ。旦那方」
ホウが俺の隣へ。
フードを被ったスイもすぐ後ろにつけている。
「夢だと⁉⁉ 俺たちゃ傭兵だぞ⁉ 酔っていようが敵の姿を見間違うわけねぇだろうが‼」
「傭兵だからなんだってんです? それは根拠にならんでしょう? 言いがかりは良くないですぜ?」
酔っ払いが騒ぎ、ホウが油を注ぎそれを大きくして、そっちに視線が集まっていく中、タイミングを見てフッチが人混みの中に消える。
「だったらその後ろの奴‼ フードを取ってもらおうか⁉ もちろん、断るわけねぇよな⁉」
言い争いはヒートアップ。お互い引くにはもう遅い。
言葉だけではどうにもならねぇと、背後に隠れるスイを引っ張り出し、決着をつけようとする。
当然。スイに角なんてもんはねぇが・・・どうするつもりだ?
背丈こそ似ているが、フードを取れば別人だと一瞬でバレるぞ。
「うるさいです! 昼間からお酒に溺れるような人に、なにかを言われる筋合いはないです!」
しかし、俺の考えなどいざ知らず。スイは文句を言いながらバサッとフードを脱ぐ。
「そらみろ‼ やっぱり角付きじゃねぇか‼」
確かに、そこには角が。
それどころか、髪までフッチと同じ黒色だ。
スイの髪は薄い水色で長さもセミロングだったはず。
それをフッチと同じ短髪黒髪に見せるためのカツラまで?
用意周到じゃねぇか・・・。
容赦なく突き刺さる大勢の視線。
近くの奴らから順に、目の色が変わっていくのがわかる。
だが、
「スイは冒険者です。角が付いた装備くらい持ってるです」
スイはこともなげに角を外す。
黒いカツラも一緒に。
「スイの髪は目立つです。だから、こういう装備も必要です」
無理やり詰め込み絡まった髪をバラすように、軽く頭を振りながら見せつけるように、カツラと一体になった角付きヘッドギアを外す。
「これで言いがかりだってわかったでしょう?」
「おかしいだろ‼ だったらなんで隠れやがった⁉ やましくねぇなら堂々としてるだろう⁉」
「急に変な酔っ払いに絡まれたら誰だって逃げるです!」
「そういうこと。昼間っから酒ばっかり煽るから恥かくんですぜ? 旦那方」
集まり、広がりかけていた熱が引いていく。なんだ勘違いか、と。
興味を失ったものから日常に戻っていき、底意地の悪い奴がヤジを飛ばす。
「ほぉ・・・? いい度胸じゃねぇか‼ 傭兵をバカにしたらどうなるか‼‼ わかってんだろうな⁉」
「周りのヤジに焚きつけられるのはやめて、自分のミスぐらい素直に認めましょうや。恥の上塗りになりますぜ?」
「ぶっ殺す‼‼」
「だ、そうですよ?」
「なんで俺に言う?」
「発端はそっちでしょう? それに俺は喧嘩屋じゃない。殴り合いは専門外なもんで」
勝手に喧嘩を売っておいて、買われたらどうぞと人を差し出すホウ。
殴りたくなるのもわかるな。
とはいえ、どうにも気になることがある。
「場所を変えるぞ」
「ああ⁉⁉ 逃げんのか⁉⁉」
「気ぃ使ってやってんだよ。これ以上、恥はさらしたくねぇだろ?」
「言うじゃねぇか・・・・・・吠え面かくなよ?」
それだけ言った後は不気味なほど静かなまま、俺達は場所を変えた。
誰にも、見られないために。