作品タイトル不明
小さな心配
けたたましい叫び声に呼び起されたように、幾千と並ぶ白く見られた眼光が燃え上がるように赤く豹変し、俺達を捉える。
静寂は瞬く間に消え失せ、怒涛の波は殺意を持って押し寄せる。
その手に持つのは武器ではなく、ただ拾っただけの石に近い。
けれど、そこには確かな意思があった。
『殺せぇええ‼‼』
誰かがそう声を上げるより早く、サッと後ろに隠れ半分だけ頭を出していたスイのフードを取る。
それだけで、高まっていた場の空気が急速に冷えていくのがわかった。
「うちの仲間になにか用でも?」
最前列で亜人を見たと主張していた男に聞く。
「あっ・・・え、いや・・・」
当然。
その男からしてみればスイは亜人のはずだったが、実際にはそうじゃなかったんだ。言葉など碌に出るわけもなく。
「おい‼ どういうことだ‼」
「まさか嘘だったってんじゃないだろうね⁉」
「説明しろ‼‼」
と、事情を察した後ろの群衆からヤジが飛ぶ。
「なぁアンタ! 亜人を見ただろ⁉ ・・・いや、おんなじローブなんか使ってんだ! アンタの仲間に亜人がいるんだ‼ そうだろ‼‼ なぁ⁉」
「亜人なんか見てねぇし、ローブなんざ誰でも持ってんだろ。それだけで仲間だぁ? ふざけたことぬかすなよ?」
苦し紛れになる男に吐き捨てるように言うと、
「そうだ‼ 謝れぇ‼」
「待ってくれ‼ 俺は本当に――‼」
「もういいからとっちめろぉ‼‼」
男は周りにいた連中に取り押さえられ、縛り上げられていく。
「疑ったりして悪かったねぇ。アンタ達」
代わりに、先頭付近に居た主婦が謝ってきた。
「別に構わねぇが、街中に人影がなかったのは・・・」
「あぁ。この亜人騒ぎのせいさ。あの人は普段から酔っぱらってはわけのわからないことを言うんだけど・・・今は酔ってないようだったし、本当なら大変だろう? だから皆集まっちゃってねぇ」
「まぁ、人騒がせな奴はどこにでもいるもんだ。それより、聞きたいんだが・・・」
「どうしたんだい?」
「俺達は見ての通り冒険者なんだが、ここのギルドが探しても見つけられなくてな。どこにある?」
「ああ、それなら! あっちの通りを進んだ先にあるよ。ここの冒険者ギルドは入り口が半地下になってて見つけにくいんだよ」
「そうだったのか。ありがとう」
「いいんだよ。それに、こっちこそ本当にすまなかったね」
適当なやり取りを終えて、俺達は主婦が指差していた通りを歩く。
「ゼネスさん・・・」
「どうした?」
「もし、スイが本当に亜人だったら・・・どうなってたです?」
さっきの光景を思い出したのか、俯き震えながらいう。
どうなっていたか・・・ねぇ?
「・・・そうだな。たぶん、俺が全員殴り倒して黙らせたんじゃねぇか?」
広場には結構な数がいたが、所詮は素人。不可能じゃねぇだろ。
なにより、俺達は通路側にいたからな。
下がって、誘って、先頭を挫けば、後ろから来ようとしていた連中は勝手に将棋倒しにでもなっただろう。
後は立っている奴から順番に殴って行けばそれで終わりだ。
「そうじゃなくて・・・って⁉ そんなこと出来るんです?」
「たぶんな」
「流石・・・です! でも、ゼネスさんはなんでスイの味方です?」
「そりゃぁ今は同じ依頼を受けてるし、皇国に亜人差別なんざねぇだろ?」
「・・・なるほどです‼ なら、安心です!」
それだけ言って、笑顔になったスイがはしゃいで前に躍り出る。
「ゼネスさん! 早くいくです!」
一体どういう意味の質問だったのかはわからねぇが、解決したんなら・・・まぁいいのか?
「あんまりはしゃいでると転ぶぞ?」
「大丈夫です‼ 任せろです‼」
それは転ぶつもりなのか?
楽しそうに前を行くスイが冒険者ギルドを通り過ぎたあたりで呼び戻し、上機嫌のままギルドへと赴いた。