作品タイトル不明
迷宮攻略4
そこにあったのは当たり前の光景。
対等な仲間達と苦楽を分かち、共に支え合い、未だ知らぬ旅路の果て、いつか見た夢を願う。
目標を定め、次を目指し、己を磨き、不可能を超える。
時にはそこに居合わせた誰かと力を合わせ、時には誰かの思いを携え、時には己が欲望のまま、強敵の前に立ちふさがる。
そんな冒険を・・・俺がすることはもう、ねぇんだな。
今になってようやく、自分が引退したんだということを実感した。
きっと――こいつらはそう遠くないうちに旅立つだろう。
俺なんかの手を必要とはしなくなる。
それまでに、教えられることはなんだ? 教えておくべきことは?
パッと思いつかねぇ辺り、やっぱり俺は人にものを教えるのに向いてねぇんだろう。
それでも、なにかあるはずだ。時間がねぇにしても、なにか。
そう思う程。
そこにあったのは”冒険者にとって”当たり前の光景だった。
「どうでしょう? 先生?」
戦闘が終わるなりそう言ったのはリミアだ。
ヨハンでも、ましてやジェイドでもなく、お前か。
褒めろ。と言わんばかりの態度に、
「・・・・・・あぁ。よくやったよ」
撫でるように頭に手を置き、そう言うほかなかった。
ヨハンの見てくれていましたか⁉ みたいな視線と、ジェイドのドヤ顔も鬱陶しい。
俺の反応に、満足した表情で離れようとするリミアを、
「とりあえず集合しろ」
留めると同時に他の連中にも集まるように言う。
「なんでしょう?」
振り返ったリミアの表情は素に戻ってて、なんとなくもったいねぇ気持ちになったが、まぁいい。
ケイトを含め、全員が集まったところで話す。
「この先には広い空間がある。おそらく終着点だ。今が準備出来る最後のタイミングかもしれねぇ。きっちり整えてからいくぞ」
「この奥が・・・?」
「怖いか?」
「いいえ。私は皆さんの事を見守るだけですから。この十字架を手放さないようにするだけです」
「というか、この通路ではモンスターは出ないんじゃなかったのか? 雑魚とはいえ出てるじゃねぇか!」
ユノは大丈夫そうか。つっても・・・ここまでも、なにかをしてきたわけじゃねぇしな。試験としてそれでいいのかとは思うが・・・。
で、ジェイド。
「来るかどうかもわからねぇ場所には出ねぇって言っただろ。ここは終着点の直前なんだから確実に通る場所だ。罠でもなんでも、あって然るべきだろ?」
「だが――」
「だがもしかしもねぇんだよ。むしろ、ここまでなにもなかった分、警戒するべきなんだ。お前みたいに先走る奴がいれば、1人は確実に取れるんだからな。それどころか、仲間の前で襲撃されてくれれば、助けようとして怪我人や脱落者は1人以上出るかもしれねぇ。仕掛ける側にとっては狙い目だろうよ」
「だからそれは――」
「気付いた奴が言えばいいって? そう思うなら前に出るなよ。前に出る奴は知ってて当然なんだ。そうじゃなきゃ、仲間を危険にさらすからな」
別に、助け合うことは悪いことじゃねぇ。
得手不得手ぐらいはあるだろう。
だが、なんでもかんでも思い通りにはならねぇし、いつでも誰かが助けてくれるわけでもねぇ。
それを教えるには、
「此の姿は正しく非ず、彼の雄姿こそ今に在るべし」
俺が邪魔だ。
「リ、 回想再現(リコール) ⁉」
急な発動にケイトが驚いてるが、仕方ねぇ。
こうすれば、俺以外の全員は万全に近い状態になる。
「これで俺は魔力切れだ。魔力回復も使い切った。この先はお前らだけでどうにかしてもらう」
実際には後1回魔力を回復出来るが・・・俺が控えていればそれだけで、最悪の時には助けてもらえると考えてしまうはず。
だから嘘をつく。
「ちょっと待って、私達だけで・・・って本気ですか?」
「本気だったらなにか問題でもあるのか?」
「それはありますよ! だって、この先にはなにがあるのか、わからないんですよね⁉ 先生‼」
エイラとヨハンが慌て放題だが、
「そうでもねぇよ。おそらく・・・いや、確実にモンスターが出る」
なにもわかんねぇわけじゃねぇ。
「ここからじゃ真っ白で見えねぇが、この通路の先を奥まで行くと階段がある。それを降りると祈りの間につながる門があるはずだ」
「どういうことだ? それでなんでモンスターが出るなんて言える」
「わからねぇか? ゴール目前に戦闘でも出来そうな広い空間。他になにがある?」
「そう言われれば、確かにそうかもしれませんね。では・・・なにが出るでしょうか?」
「まぁ、魔法生物の類だろうよ。ゴーレム・ガーゴイル・デュラハン・スライム――」
「待ってください。なぜアンデットが紛れているのでしょう⁉」
「デュラハンは首無しの鎧だろ? それぐらいならゴーレムで作れるさ」
「・・・・・・そういうものなのでしょうか?」
俺の答えにリミアはどうにも納得がいかない様子。
だが、名前なんてのはただの識別方法だぞ。あんまり気にするな。
そんな話を聞いて、全員が戦闘を見据えて準備をする。
1人を除いて、
「回想再現を、使うなら・・・も、もっと早く使ってくれれば、さっきの戦闘に・・・私だって・・・‼」
悔しい・・・んだろうな。わざわざそんなことを言うなんざ。
1人だけ戦闘に参加できず、守られてるだけなんて・・・と、そういえば。
ケイトは蟻の時も怪我で―――。
なるほど。それは確かに言いたくもなるか。
だが、いい機会だ。
「じゃぁ、あいつらの回復はどうする? お前の為だけに魔力を使い切る理由は?」
「そ、それは・・・」
「なんでも自分に都合のいいようにはならねぇよ。出来ることが多い方がいいってのはそう言うことだ」
「で、でもそれは⁉」
「俺が言ったから。だってのか? 動き回って体力が切れたのは俺のせいだって? なら言わせてもらうが、お前が探した範囲は一番範囲の狭かったリミアの半分以下だ。それを考慮して、より狭い範囲をお前に任せるべきだったと? そこまでの価値が、お前にあるのか? さっきの戦闘を見ても、そう言えるのか?」
煽れるだけ煽っておこう。
俺に頼ろうなどと、思わねぇように。
思いたくなくなるように。
「お前の代わりはいただろ? お前らの代わりもいるだろう? だが、もし・・・そんなはずはねぇと言うんなら、見せておくべきだ。今ここで、この先で、その力を、その価値を、その存在を・・・。じゃねぇと――――置いて行かれるぜ?」
この、俺みたいにな。