作品タイトル不明
そう言われても
「せいッ‼ はぁあ‼」
以前よりも力強く繰り出されるようになった刃。その端々に成長を見受けられる。が、
「まだまだ直線的すぎるな」
心臓や首と言ったわかりやすい弱点を狙いすぎるのは性分もあるだろう。
俺はヨハンが突き出すダガーを持つ左手を躱しつつ、手首を掴む。
「あ‼」
と言ってる間に捻り上げ、
「動きがバレてんだから、狙われるに決まってんだろ? もっと変化を意識しろ」
カラン。とダガーを落としたところでお仕舞いだ。
「そんなこと言われても・・・難しいですよ」
「攻撃だけがすべてじゃねぇぞ。相手を動かすことも重要だってのは・・・アレを見てればわかるだろ?」
適当に親指で差す先にはジェイドとキューティーがいる。
2人は引き続き、攻撃を当てる一対一をやっている。
「キューティー・・・いい加減に諦めろ! 疲れているんだろ⁉」
「ジェイド様こそ、息が上がっているのではありませんか? 一度休憩の為、私に斬られてくださいませ!」
ハァハァ言いながら小突き合うも、お互いまったく当てられずに泥沼状態に陥っている二人が、それでも途中で投げ出さないのは事前に決めた賭けのおかげだろう。不毛に見えるが、意地や根性も必要になる時があるだろうし止めたりはしない。
賭けの内容は”負けた方が勝った方の言うことを一つ聞く”という単純なもの。
それほどやらせたいことがあるのか、死んでもやりたくないことがあるのか、お互いに真剣だ。
まぁそれはいいんだが、その結果がしょっぱい小競り合いになっているのが問題だ。
「自分の有利を探せ。相手の動きを見ろ。その上で、2つを繋げろ」
「どういうことですか?」
「俺とお前を比べて、有利だなと思うところはどこだ?」
「それは・・・やっぱり武器ですかね?」
「そうだな。長さがあって、一撃で致命傷を取れる武器は有利だ。じゃぁなんで負けたんだ?」
「そんなの・・・当たらなかったから、ですよね?」
「結果だけ見ればな。問題はなんで当たらなかったのか、当てるにはどうすればいいか、だ」
「それがわからないんですが・・・」
「最初から答えを聞こうとしてるからだろ」
首を傾げるヨハンに俺は続ける。
「お前が刃物を向けられて、戦わなきゃならない・・・ってなった時、刃物に当たりたいか?」
「当たりたくないです」
「そうだよな? だったら避けるってことになるわけだが、いつまで避けてられる? どんな状況なら当たってもおかしくねぇなと思う?」
「どんな・・・」
言われて、ヨハンは考え始める。
そう。全てはここだ。
あの2人もだが、自分に都合よく考えすぎなんだ。
普通。余裕のある相手に無理して突っ込んだりはしねぇし、自分に余裕がなきゃ前には出ねぇ。
つまり、始めにやるべきは余裕を無くすこと。
「たぶん・・・体力がなくなれば・・・」
視線の先には見るに堪えない消耗戦が続いている。
「まぁ・・・そうだな。他はどうだ?」
「うーん・・・・・・?」
「想像できないか? 追い詰められてる自分が。どんな姿なのか・・・」
「追い詰められてる・・・? だったら、怪我・・・とか?」
「どんな怪我だ?」
「どんなって・・・こう、刺されてたり・・・?」
「だとしたらすでに当たった後だろ?」
「あ、そっか・・・・・・あ、そっか! 切り傷!」
同じ言葉を繰り返し、けれど気付いた。
「より正確に言えば、かすり傷だな。武器が刃物なら、かすっただけでも切れる。その傷が浅かろうが短かろうが、痛みもあれば出血もする。そんなもんが一つ二つと増えていけば、これ以上はもらえないと考えるだろう。そうなれば――」
「――動きは極端になる。ですよね!」
「そういうことだ。当たっちゃならねぇ、当てなきゃならねえ。そう思えば思うほど、動きは固く、その癖大胆になるんだ。だから、攻撃を当てたいならそういう状況を作ることだ」
もちろん。攻撃を当てるだけなら他にも方法はある。
不意を衝く、相手より早く動く、そもそも避けられないような攻撃をする・・・とかな。
ただそれ等も、人間相手にならどうにかなっても、モンスター相手だとそうもいかねぇ。
あいつらは基本的に人間よりも強い場合が多い。身体的にも、魔力的にもだ。そして、そのことをよく理解してる。
だから、人間の攻撃を甘く見るし、大した威力がねぇと判断した攻撃は避けようともしねぇ。
そこを利用するのが冒険者の戦い方だ。
一人では勝てないから徒党を組むし、策も張り巡らせる。必死さを見せながらなんでもない風な攻撃をするし、それが精一杯であるかのように見せかける。
それが普通なんだと、華々しいのが全てじゃないんだと、こういうところから教えておく。
そして、
「避ける時や逃げる時にも、そういう心理を使ってやるんだが・・・わかるか?」
そばで見ていたエイラに聞くが・・・、
「そんなのでわかると思いますか?」
わかるわけがない。と首を振られるだけだった。