軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夢を胸に天を見よ

「この地に人間が足を踏み入れるのは初めてのこと。それほどまでに、今回の件を我々が重く受け止めていると理解してほしい。贖罪でもあるのだと。今後、我々の規範から外れぬ程度の要請であれば、協力することを約束し、共生が必要とされれば、一定の譲歩や妥協も受け入れる所存だ」

天井が吹き抜けの洞窟で、龍王から告げられる。

「その証拠というわけではないが、人間が北大陸と呼ぶ地の調査も手伝った。人間とモンスターの様子は既に知っているな?」

「あぁ。そのせいで北大陸は竜が住まう土地だって、もっぱらの噂になった。おかしくなった連中もドラゴンの仕業だ――ってな。まぁ、間違ってはねぇんだが・・・」

「箔が付いてよいではないか。不都合でもあったか?」

「一部連中の血の気が盛んになった。俺のせいでもあるがな」

「竜殺しの称号か」

「俺の場合は捕獲だけどな」

「尚のこと質が悪いだろう」

そりゃぁ標的にされる側からすりゃそっちの方が面倒だろうな。

なまじ助かる余地があるんだ。諦めも悪くなる。

「こっちで止められるだけは止めるが、思い上がった奴は話なんざ聞きゃぁしねぇからな。自衛は忘れてくれるなよ」

「言われるまでもない。元より、このようなことさえなければ、人間などと関わることはなかったはずだ」

「だからこんな場所で差し向かってんのか?」

「不満か? 歓待でも期待させたか?」

「そんなくだらねぇもんは望んじゃいねぇが、全貌とまではいかなくとも、輪郭ぐらいは把握しておきてぇだろうよ」

「例え見たところで、人の身では難しいと思うがな。それにこんな場所などと言ってくれるな。ここは龍王の修行場所の1つだぞ。神聖さでは、他に勝るとも劣らぬ場所だ」

「別に神聖さなんざ求めてねぇんだよ。竜族の住処の、その規模感だとかを知りたかったんだ。敵対することの愚かさを伝えるには、外連味じゃ逆効果だろ」

「かといって、現実味を帯びさせてもよくはあるまい。実行にこぎつける輩にとってはな」

言ってることは分かる。

軍事情報を開示しねぇのと同じことだ。

配備や作戦を知られちゃ攻めも守りも出来やしねぇ。

「それとな、こうして差し向っての対話は我からの配慮だ」

「・・・配慮だ?」

「そうだ。今こうしている間にも聞き耳を立てて居るものも・・・」

周囲を探ると確かに。複数の気配というか、魔力を感じる。

「なんでまた」

「言ったはずだ。そのギフトは我らにとっては神の寵愛に他ならん。我とて、一時的に下がった加護の力が直ぐに戻るとは思わず、その有難みに打ちひしがれたりもした。それほどの効力なのだ」

「嘘じゃねぇんだろうが、わからねぇ話だな」

「人間とて魔力であれば視認、行使をするだろう? 竜族は同じように加護の力も視認、行使できるというだけの話だ。汝ならばいずれ、それも可能になるだろう」

「その頃には老いさらばえてるだろうよ」

「むっ⁉ 滅多なことを言うでない‼ そんなことを言えば―――」

ドバッ! と風が降る。影を連れて。

7つの姿が日差しを遮り、上空を埋め尽くす。

「聞き捨てならないことを言う!」

「それならば修行だ‼」

「その力、操ること叶えば寿命も延びよう‼‼」

「そして我らに恩恵を‼‼」

「さあ!」

「さあ‼」

「さあ‼‼」

代わる代わる降り立っては己共の都合ばかり。

ドラゴンの表情なんざ読めたもんじゃねぇが、それでも。

『だから言っただろう?』

そんな呆れた声が聞こえた気がした。

「ドラゴンとの話し合いはどうだったんだ?」

「兄上⁉ なぜ北大陸なんかへ⁉」

「なにを言ってるだゼネス! ゴルドラッセを筆頭に、グラーニン辺境伯領から兵を調査に当てているのだから、その管理者として現場を確認に来るのは当たり前じゃないか」

「そうかもしれませんが・・・・・・言っていただければ迎えぐらい」

「気にしなくていいさ。気の利く婚約者に融通してもらったからね。というわけで、婚約おめでとう‼」

「勘弁してください、兄上。乗り気じゃないのは知っているでしょう」

「国随一の才女だぞ? 彼女は。それに今更、他家からの縁談を受け入れられるのか?」

「現実的じゃないのはわかってますが、夢であればいいのにと思ってしまうのも確かです。恐ろしいほどに才能があり過ぎるのですよ。多方面に」

「ははは! 言葉選びが上手くなったな!」

「光栄ですよ。まったく」

城の一室で冗談を言い合うなど、昔からは考えられない光景だが、未だに馴染みのない室内と見慣れるにはまだ早い窓からの景色が帳尻を合わせる。

「・・・父上からの伝言も預かっている。聞くか?」

「聞かなかったことには出来ますか?」

「どうせゴルドラッセ当たりが告げ口するぞ」

「あれだけ帰らせるというのはどうでしょう? 書簡係として」

「聞かなかったことにしておく」

「聞いてはいただけませんか。残念です」

わかりやすく肩をすくめて言葉を待つ。

「大きな事を成した後には多くの転機が訪れる。己と真摯に向き合うことだ。――だそうだぞ? ちなみに、父上も現在の辺境伯領を奪い返してすぐに、結婚を発表している」

「真摯に向き合えという割に、嫌なことには有無を言わさず受け入れろ、と押し迫るのはどうかと・・・」

「ゼネス。考え方の違いだ。人生は常に選択の連続で、嫌な出来事を完全に避けきることは不可能に近い。そんなことはわかっているだろう?」

「えぇ、はい。もちろんです。ただそれでも――――・・・・・・」

「だからこそだ。だからこそ、本心を探すんだ。お前はジーナのことをそれほどまでに嫌っているか? ただ婚姻という儀式、あるいは家というものを持つことに、縛られることに辟易としているだけなんじゃないのか? そのせいで、自分の本当の願いを忘れている、見失っているだけじゃないか?」

「本当の願い・・・ですか?」

兄上は穏やかな表情でゆっくりと頷く。

「思い出すんだゼネス。帰る場所があることは悪いことじゃない。そして、その新しい拠点はこんなにも大きく、お前のためだけに手伝ってくれる人間がどれだけいるか。その上でなにを望むのか」

記憶を辿る。

歩いてきた道のりを。

迫害の過去を、学生の出会いを、自由への渇望を、仲間との絆を、別れの苦しみを、困窮への恐怖を、育成の難しさを、信頼の重さを、時間の在処を、国の未来を、精神の弱さを、種族の壁を。

けれど浮かび上がるのは、背中を押してくれた誰かの顔ばかり。

感謝を伝えてもキリがないほど。

それでも、尚。

「地盤さえ作ってしまえば、立場など飾りだ。腰が軽くなるという証明は今、私がこうして見せているはずだ」

「過ぎた願いですよ?」

「望むことに、願うことに、遅いも早いもありはしないさ」

「それなら俺は―――・・・・・・」

北大陸には龍を使う冒険者がいるらしい。

後年まで長く語り継がれることになる噂話。

いつしか馬鹿馬鹿しい作り話と笑われるようになるが、子供だけが信じた。

何故なら、それを語る者が子供にしか見えなかったからだ。

そして、この言葉の意味が分かる冒険者だけが、真実だったと思い知る。

龍の王を前にして。