軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

8、作戦決行

「作戦は決まったか?」

「ああ。やはり当初の予定通り視線をこちらへ誘導しその隙に、って形になりそうだ」

なるほど。レティシアは頷いて、自身の仮面に手を置いた。

件の商人は体型に特徴があるわけではない。服装や髪形を変えられ、仮面で顔を隠されたらお手上げである。

何度も開催されているこの仮面舞踏会。知り合いや過去開催の折に目をつけていた相手へプレゼントを渡している者たちも多い。紛れ込まれたら厄介だ。

ゆえに、ここぞというタイミングで竜帝の顔を出し、視線をこちらへ集める。ただ呑気に参加している者たちならば釣られてこちらへ寄ってくるだろう。内気な者は遠巻きに、しかし視線だけはこちらを向くはずだ。

逆に、よからぬことを考えている者は自然と距離を置く。

竜帝の名は悪人にもよく浸透しているがゆえだ。――とはいえ彼はあくまで傭兵騎士。国に所属している騎士ではない。一人ならば何かの仕事かと怪しまれたかもしれないが、ジルベールが一緒ならば参加者として紛れられる。

そうして対象者を絞り込み、レオンたちが確保へ向かう手筈だ。一度でも失敗すれば逃げられる。間違えましたは許されない。

「この場でキミに興味を抱かない者などいないさ。竜帝様は美しい。男も、女も、キミに釘づけさ。何か他の目的がない限りは、ね。……まぁ、複雑ではあるけれど」

「前々から気にはなっていたが、ジルはこちらの私の方が好みなのか?」

「へ?」

ふいに気になった事を口にする。

出会ったあの日もそうだった。レティシアの姿では動揺すら見せなかったというのに、竜帝状態で微笑みかければすぐ恥ずかしそうに顔をそむけたではないか。

「――違うよ」

ジルベールはレティシアの顔を両手で掴み、伺うようにじっと瞳を見つめた。

「普段のキミは完璧な比率なんだ。可愛さと格好よさ。その二つが最高水準でまとまっている。格好良くて可愛くて最高だ」

「ふむ?」

「だが、竜帝様になると途端にバランスが格好いいに偏る。キミにあった外見の愛らしさがすべて格好よさに変換されて格好いいの上に乗ってしまうんだ。キミの中身はどんな男より格好いい。それが見た目も格好いい竜帝様となるんだぞ。つまり男として純粋に格好いいんだよ。格好いいの容量オーバー。しかもただ格好いいに格好いいが足されただけではなく何倍にも膨れ上がっている。加算ではなく乗算なんだ。格好いいが天井を突き抜けて雲の上まで達してしまうから気合を入れないとついうっかり動揺してしまう。……だから、その、勘違いさせたなら、すまない」

なんだか格好いいがゲシュタルト崩壊しそうなほど詰め込まれていた気がする。

独自の視点すぎて半分ほどしか理解できていないが、つまるところ格好良すぎて許容オーバーということなのだろう。旦那様にそんな事を言われて奮起しない妻などいない。

「――いや、嬉しいよ。ありがとう」

「結局どっちもキミなんだろう? 俺が惚れたのはキミという人だから、どんな姿でも大好きさ。……ただ、傍にいてもらえると落ち着いて眠れるという意味なら、いつものキミが一番かな?」

彼は「髪の毛がふわふわで小さくて抱きしめやすいからね。さすがはベル・プペーだ」と耳元で囁やき蕩けるような笑みを零した。

ジルベール様は美しい人形という意味を抱き枕か何かと勘違いしているのだろうか――などという疑問が湧いたが、この笑顔を見せられてはそんな些末な質問、どうでもよくなってくる。

「よかろう。ならばあなたの期待に応え、会場中の視線を釘づけにしてやるさ」

「こ、これ以上色気は乗せなくて良いからな?」

「おや、それは残念だ。ついでにあなたももっと魅了してやろうと思ったのに」

「……これ以上は色々保たない」

クスクスと笑いながら会場に視線を戻す。

タイミングはジルベールが判断してくれる。顔は判別つかずとも、相手の経歴や性格、過去の行動、その他様々な思考パターンを計算して、奴ならばどのタイミングで集まりに参加し、事に及ぶかおおよその算段はつくらしい。

(頭が良すぎて他人の行動が見える、とは。一種の魔法みたいなものだな)

当事者によれば頭の中を丸裸にされる感覚、らしい。

その割には、レティシアの行動に一喜一憂しているのは実に不思議であるが。

「竜帝様」

「ん? 今か?」

「ああ。頼む」

「ふふ、任された」

こそこそと内緒話をする体で顔を近づける。こうしておけば同伴者に強請られて、と言い訳が立ち、急に仮面を剥ぎ取っても違和感を覚えられにくいだろう。

レティシアはレオンに目配せすると仮面に手を添える。

さて、準備は整った。

ジルベールが求めるのならば、妻としてそのすべてを完璧に遂行する。だから全員見惚れるといい。最高の竜帝を演じて見せよう。

仮面を脱ぎ、数名の視線がこちらへ引き寄せられたところでさらりと横目で流し見る。瞬間、ざわりと空気が震えた。動揺が拡散する。まるで池に落ちた水滴が波紋を広げるかのごとく、着実に、それは広がっていく。

このざわめきこそが計画スタートの合図。

レティシアは周囲の喧騒など気にしないと言いたげに髪を掻き上げた。すると黄色い悲鳴――ではなく野太い悲鳴があちこちから上がる。

「……やり過ぎないでくれって言ったのに」

「この程度でか?」

「もっと自覚を持ってくれ!」

竜帝に抱きついて自分のものだと周囲を威嚇するジルベール。悪くない。とても可愛い。思わずよしよしと頭を撫でてしまう。

(とりあえず後は兄上に任せればよし。このまま周囲の視線を引きつけつつ、慌てるジルベール様を観察し続けるのも――)

「竜帝様? 何か変なこと考えてないかい?」

「……――気のせいだ」

「間!」

さすがはジルベール。

こちらの思惑などお見通しのようである。