軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7、レオン・オルレシアン

まるで天井から雫が零れ落ちるように――吊り下げられたシャンデリアのクリスタルが蝋燭の火をあびてキラキラと輝く。

地下でありながら薄暗さを感じさせないのは灯の魔石がいたる所に埋め込まれているためだろう。

白亜の壁に真っ赤なカーペット。テーブルやイスもシンプルながら良い品物だ。

想像していたよりも参加人数は多いらしく、王宮で開催されるパーティー会場ほどの広さがあった。さすがは身分を隠した貴族たちの集まり。なんとも豪勢である。

「さて、どうするジル?」

「ジ!?――ンンッ、今はまだ、大人しくておこう」

扉が開いた一瞬だけはレティシアたちに視線が集まったが、同伴者がいると気付いてすぐに散ったのが分かった。

辺りを見回すと、レティシア同様顔を隠すために仮面をつけている者が大半。しかし素顔のまま堂々と参戦している者もそこそこ多かった。仮面着用は任意とはいえ、少々意外に写る。

ふいと視界の端に美しい銀髪が見切れたので首をひねった。

予想通り。レティシアの兄、国家調査部隊長のレオン・オルレシアンだ。

肩に触れない程度の銀髪。レティシアより明るく透明感のあるスカイブルーの瞳。普段着用している軍服よりかは大分くだけた格好だが、服の上からでも分かる鍛え抜かれた体躯は常日頃から鍛錬を欠かさぬ者のそれである。

美しい銀髪といえばオルレシアン家。

聞いた時はそんなものかと軽く考えていたが、仮面舞踏会という特殊な環境に身を置いた今だと納得せざるを得ない。

何と目立つことよ。職業柄顔が広く知れ渡っているとは言い難いので心配はないものの、よく見知ったレティシアならば一瞬でレオンだと看破できる。

幸い、オルレシアン家に連なる者は少なくない。

関係者とまでは見抜けても、あの美しい男がかのレオン・オルレシアンだとはさすがに分からぬであろう。

――問題は。

(仮面をつけていても隠せぬ顔の端正さよ)

周囲から投げかけられている熱い視線に、悉く気付かぬふりをしてスルーを決め込んでいる。いや、本当に気付いていないのかもしれない。

なにせ仕事面では有能だが、こと恋愛面に関してはとことんポンコツな兄だ。視線の意味すら理解していない可能性もある。

少し離れた場所から周囲を威嚇するように目を光らせているのは彼の部下だろうか。まるで高位貴族の初夜遊びに心配で付いてきた護衛よろしく緊迫した面持ちである。まったくもってご愁傷様だ。頑張ってくれ。

(いざとなったら助け舟くらい出そうが)

レティシアはジルベールに兄と連絡を取るかと尋ねた。しかし反応が返ってこない。レティシアにしがみ付いたままじっと床を見つめている。

「ジル?」

「――ッ! だ、駄目だ。キミに愛称で呼ばれると、なんだかくすぐったいと言うか、照れると言うか。ボーっとして頭が上手く働かない……」

「名で呼ぶのは良くないと思ったのだが、戻そうか?」

「いや! ぜひこのままで! なんとか平静を保とう!」

食いつくような返しについ笑ってしまう。

すると、ジルベールの声が思いのほか大きかったのか、少し注目を浴びてしまったようだ。レオンの視線がこちらに向く。彼は一瞬怪訝そうに眉を寄せたが、すぐさまレティシアだと気付いて念話を飛ばしてきた。

仕方がないので通話を繋げる。

『レティシア――ではなく竜帝ではあるが、どうしてお前がここにいる! 誰と連れ立ってこんな場所にいるんだ! いくら仕事でもジルベール皇子以外の者と親しくするのは後々面倒なことになるぞ!』

とてもうるさい。どうしてそんな爆音なのだ。

念話は基本的に発声して音を飛ばすことの方が多いが、思考を直接飛ばす事も出来る。

オルレシアン家では必修の項目なのでレティシアやレオンはもちろんのこと、フォコンですら問題なく使用できた。ただフォコンだけは「すんごく疲れます」と言ってどうしても必要な場面以外では使おうとはしなかったが。

適当な音量になるよう調整しつつ、仮面を直すふりをして耳に手を当てレオンに話しかける。

『ジルベール様の手紙に書いてなかったか? こちらもこちらで力を貸すと』

『確かに書いてあったような気もするが、お前がくるとは思わないだろう普通』

『何を言う。ジルベール様が最も信を置き、彼の求めに応えられるのは私をおいて他にはいない。氷の竜帝の名は伊達ではないぞ。彼の作戦を遂行させるため、完璧な働きを約束しよう!』

『いやまぁそうなんだが! さすがの自信! ……はぁ、俺の部下に欲しいくらいだよ』

『ちなみに隣にいるのがそのジルベール様だ』

『は? なに? 皇子?』

『背中部分ががら空きという刺激的な格好をされているのでマントで隠してはいるが……あまり凝視しないでくれよ。私の旦那様だ』

『悪い! 情報量が多すぎてお兄ちゃん混乱してきた!』

額に手を置き壁にもたれかかるレオンの姿が確認できた。

会話がいったん中断されたと悟ったジルベールがとんとんと人差し指で自身の耳を叩く。レオンと念話を繋いでくれということだろう。

魔力制御に長けている術者は腕を媒介にして相手と他者との念話を補佐したりも出来る。当然、竜帝にとっては造作もない事。彼女はジルベールの耳に手を当て、兄との念話を繋いだ。

ただし、通話の補助は出来ても思考を飛ばす魔法は本人の技術力によるもの。魔法の才はてんでないと自虐するジルベールがレオンと会話をするには声を使うしかない。

レティシアは彼の身体を更に深くマントで隠し、通話に気付かれぬよう擬態する。恐らくは、注目を浴びてしまった同伴者を庇うように見えているはずだ。

ぽそぽそと小声で何やら話しているようだが、聞き耳を立てる趣味はない。レオンとのやりとりはジルベールに任せておいた方がいいだろう。それよりも――、周囲をぐるりと一通り見回し目を細める。

怪しげな取引をしようなどという人物は一切見当たらない。さて、ここからどう見つけ出して現場を押さえるのか。

レティシアがジルベールへと視線を落とした瞬間、彼は小さな声で「レティ」と彼女の名を呼んだ。