軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、vs道化師

「へぇ、気がついてたんだ。こっちの狙いに」

「あぁ……惨殺された主婦を見た時に、ピンときた。あの主婦は、教会でアシリアが治癒した主婦だって」

ユイと初めて教会に行った時、泣きながら抱き合っていた親子。

それが惨殺された主婦だった。

それを知った時は、胸が苦しくなった。

きっと、アシリアはもっと辛い思いだっただろう。

それから、一つの仮説が浮かび上がった。

「聖騎士の四人も以前仕事でアシリアとの接点があったことは、調べがついた。そして学生二人だが、昨日、二人の知り合いに話を聞きに行ってきた。些細なことでもいいから、何かなかったかって。そうしたら、昨日大聖人に会ったんだけど噂通りめちゃ可愛かったって、そんな話をしてたって証言が取れた」

彼らも事前にアシリアにあっていた。

聖職者は同業みたいなものだろうし、顔くらいは見知っていてもおかしくはないと推測し、調べはしなかったが、こうして予想通りの展開になっているということは、俺の推測は間違っていなかったのだろう。

「アシリアが聖人と呼ばれるほどに、優しいことはちょっと調べればすぐにわかる。その性格を逆手に取ったんだろ? 接点のある人物を殺してまわれば、アシリア自ら、自分のことを狙いやすいよう……これ以上、誰も死なせないためにも、自分から守りの外に出てくるって」

アシリアはこれ以上、誰も殺させないために、自分に襲撃者の刃を向けさせようとしていたわけだ。

結界内に入らずとも、誘き出せばいい。

アシリアは優しい。いや、優しすぎるといってもいい。

この場にたった一人で現れたことがそれを物語っている。

聖騎士を数名連れたところで無駄死にさせるだけだろうし、かと言って聖騎士団長なんかを連れてこようものなら、この場でアシリアを狙うのは諦め聖地での惨殺を繰り返していたことだろう。

アシリアの心が耐えられなくなるまで。

自己犠牲に踏み切るまで。

危うすぎる優しさ、と言う表現はあながち間違ってはいなかったわけだ。

だから、誘き出すのはそう難しくはない。

「相当性格悪いな……お前」

俺がそう言った瞬間、気のせいだったかも知れないが、僅かに表情に怒りが見えた気がした。

見間違い、か?

「ふーん、それで? 大聖人を守る為に一人できた……わけじゃないか」

「詳しくは知らないが、どう見ても俺ごときじゃ敵いそうな相手じゃないからな」

何せ、ビクターや聖騎士四人を軽くやってしまうような強者だ。

俺じゃ太刀打ちできない。

だから、お呼びしておいた。

ラミスと、聖騎士二十五人を。

あと、一応ユイも。

最悪の場合も考慮し、孤児院の子供達にも聖騎士の護衛は十分につけておいた。

アシリアが誰かを連れて来ないかは当然目を光らせていたかもしれない。誰を連れてくるか次第では、アシリアとは会わずさっさとこの場から離れる算段だったのだろう。

そして今晩もまた、どこかでアシリアと接点のある人が死ぬ。

だが、アシリアと事前の打ち合わせも何もなく、勝手に推理しここに辿り着いた俺にまで注意は向いていまい。

こうして招待まで晒してしまった後では、そう簡単には姿を隠せないはずだ。

「卑怯、とは言わせないぞ」

ラミスが巨大な双剣を手に、木陰から現れる。

「お前……魔王軍四天王の万化の道化師クラウンだな? ちょうどいい。俺が今ここで葬ってやろう」

ラミスの鋭い殺意に当てられるが、それでもクラウンは一切の動揺を見せない。

「さーて、どーしよっかな。ちょーピンチって感じ?」

言葉とは裏腹に、相変わらず余裕そうな飄々とした様子のクラウン。

この状況もクラウンの計画の内……とは考えにくいし、そう思いたくもないが、こうなる事態を想定していてもおかしくはない。

クラウンという魔族の女は一見、狂気的で頭のネジが数本ぶっ飛んだようなイカれた魔族に見えるが、アシリアを誘き寄せるための一連の計画を見る限り、かなり狡猾で計画的な魔族だと伺える。

この計画がいつから練られていたのかは知らないが、少なくとも俺たちがミス湖へと依頼で出かけた時にはあったはずだ。仮にアシリアに監視をつけていたとすればあの時が誘拐に絶好のチャンスだったと言える。しかし、それでもそうしなかった。

それはきっと確実にアシリアを誘拐するため。

事前の計画にないことはしない。

そういった行動からもクラウンという魔族の賢さが分かる。

そんなクラウンが余裕でいる理由。

「逃げる算段はついている……と?」

「さぁ、どうでしょう?」

クラウンの表情は相変わらずで、その発言の真偽は一切分からない。

はったりか、逃げる算段があるのか。

こちらにはラミスにユイもいる。

最高クラスの回復魔法を扱うアシリアもだ。

聖騎士もクラウンからすれば烏合かもしれないが、数はそれなりにいる。

戦力外の俺がいうのもなんだが、いくらクラウンが強いとはいえ、どうこうなる状況とは思えなかった。

いや、なんとかなるのか?

嫌な汗が頬を伝う。

「ロイド、いくよ?」

ユイが剣を抜き、構える。

俺も杖を構え直す。

「あぁ」

「俺もいるのを忘れんな」

ラミスはそう言うと、不敵に笑って見せた。

俺は強化魔法で、身体面と魔法面をユイとラミスの二人に限り強化する。

他の聖騎士は悪いが強化魔法の対象に含まなかった。

何が起こるか分からない状況……少しでも魔力を温存したい。

二人が駆け出すと同時に、俺はやや後ろへと後退した。

これから始まる激闘に巻き込まれないように。

先行したラミスの双剣をクラウンはどこからか取り出した二つの盾で受け止める。

両手を封じたところで、ユイが攻撃を仕掛ける。

ユイの剣がクラウンへと迫る中、俺はクラウンの口角が上がったのを見逃さなかった。

嫌な予感が俺の本能を刺激する。

「ユイ、下がれ!」

俺の発言の意図を汲み取れず困惑するユイ。

当然だ。俺だって何故そんな警告をしたのか、説明することはできない。

だが、ユイは俺を信頼して、咄嗟に後ろに飛び退いた。

もし、俺が警告しなければユイがいたであろう位置に、ある男の剣が振り下ろされる。

その男の顔を見て、俺の思考は一度停止してしまった。

「お前……どうして」

「ロイド……久しぶりだな」

「アレン!」

アレンは聖剣の剣先をこちらへと向けた。

「 炎撃(えんげき) !」

「これは……聖剣の権能か!?」

炎を纏った聖剣を手に、俺へと駆け出す。

魔杖……なら壊れることはないだろうが、俺の力で防ぎ切ることができるかは怪しい。

「ロイド、任せて!」

ユイの発言の意図を即座に理解し、俺は詠唱を始めた。

「強化魔法・炎武」

炎を纏った聖剣と、同じく炎を纏ったユイの剣が交差する。

「あなたの相手は私よ、元勇者」

「冒険者風情が、つけあがってんじゃねぇぞ」

ラミスは背負う巨大な二本の大剣を構え、クラウンと対峙する。

クラウンも盾をしまい、剣を取り出しラミスに剣先を向ける。

他の聖騎士は近くに控えさせながらも、距離を取らせ待機させていた。相手が魔族じゃないかという話が浮上したため連れて来たはいいものの、相手が魔王軍の四天王となると話は変わってくる。連れてきた聖騎士たちも決して弱くはないが、それでもこの戦いにおいては足手纏いにしかならない。

支援職はまだやりようがあるが、戦闘職は今回に限っては一切手出しできない。

犠牲を無駄に増やさないための判断。

ラミスの一人で戦う姿勢を見たクラウンは、口角を上げながらラミスの懐へと突っ込んできた。

クラウンの振るった剣をラミスは右手に握る大剣で受け止める。

「君一人できたのは失敗じゃないかな? 聖騎士団長はどうしたぁ!」

「……答える義理はないだろう?」

毅然とした態度でそう返すラミスだが、焦りが芽生えつつあった。

こうして剣を交えていく中で悔しいことにクラウンの剣技が、ラミスと同等か、それ以上だと察したからだ。

その上、クランの本領は剣術ではない。

いつの間にか空いている方の手に握られた拳銃。

ラミスはそれを見て、木の影に身を隠した。

「あれ? これって一般的には流通してないはずなんだけど、勘のいい奴だね……いや、さてはこの武器を知っているな?」

銃口を下げ、片手で剣を構え直す。

近づけば剣技で、離れれば銃撃を仕掛けてくる。

「四天王万化の道化師クラウン……その強みは手数だったか」

剣術、槍術、弓術、他にもありとあらゆる武具の扱いに長けていることが、クラウンの強みだ。

そしてその中には、魔道具の扱いも含まれる。

「近、中、遠距離、どれもいける、か」

「ヒヒヒッ……ねぇねぇ、どうしてこの武器の性能を知っているのかには答えてくれないの?」

「……ノーコメントで」

「そっか。まぁいいや!」

収納魔法で剣と銃をしまい、代わりに二丁の銃を取り出した。

先ほどまで使っていた拳銃に比べ、全体的にかなり長い。

何が違うのか、必死に思考を巡らせるラミス。

「知ってるからなんだって話だもんね! それじゃ、こいつはどうかな⁉︎」

甲高い声を上げながら放った銃弾は木を軽く貫通し、ラミスの肩を掠めた。

「っ、火力が高いのか!」

「なんだ、銃火器についてあんまり詳しくはないみたいだなぁ!」

先ほどまでの銃との違いを理解した瞬間、ラミスは動き出した。

木の影から別の木の影へと素早く移動し続け、クラウンはそれを銃弾で追従し続ける。

「このままじゃ、まずいな」

少しずづ、クラウンの放った弾丸がラミスを掠める回数が増える。

クラウンがラミスの動きになれ、先読みするようになったからだ。

さらに厄介なことにクラウンが弾切れになる様子がない。

クラウンは片手で銃を撃ち、弾が切れるともう片方の銃で撃ちながら、弾切れとなった銃を装填するんではなく、銃ごと収納魔法で装填済みのものへと交換する。

クラウンの用意した銃の弾が切れるのが先か、ラミスが追い付かれ、撃たれるのが先か。

(どちらかが来るその時まで、待ってやる必要はない!)

クラウンとの距離をつめ、剣を振り下ろす。

「先手必勝!」

ラミスは逃げながら距離をつめ、クラウンへの攻撃のタイミングを伺っていた。

クラウンがどれだけ銃をストックしているかわからない状態で、銃が切れるのを待つのは愚策だと考えたからだ。

それ自体は間違っていない。

しかし、

「ねぇ、さっき自分でも言ったよね? 僕の強みは極めた一芸じゃなくて、手数だってさぁ!」

二丁の銃を交差させ、ラミスの剣を受け止めながら、ラミスの腹部へと綺麗な蹴りを叩き込む。

「ぐはッ!」

クラウンが極めた技術の中には、徒手格闘や柔術などといったものも含まれる。

蹴り技もクラウンの得意技だ。

綺麗に決まった蹴りはラミスを軽く宙へと吹っ飛ばす。

そのままとどめを決めようと駆け出したクラウンの足は、しかし視線の先に立つある男を見て止まってしまう。

鎧を身にまとった金髪の長身の男が、ラミスを受け止めていた。

「はは、はは……」

クラウンは大きな笑い声を響かせながら、銃口をその男へと向ける。

「あははははは! やっと来やがったよ。聖騎士団長サマァ!」

クラウンが放った弾丸を、男は片腕でラミスを抱えたまま、もう片方の手に握った剣を振い器用に受け流す。

クラウンと相対しているというのに一切の動揺はなく、整った容姿の男は凛とした瞳でクラウンを見つめていた。

「万化の道化師クランだな? 魔王軍……これ以上、お前らの好きにはさせな……」

「さっさと下せ!」

クラウンを睨む男の頬に、ラミスの拳が叩き込まれる。

「っ……何を!」

「いつまで抱えてんだ! 顔が良ければなんでも許されると思ってんじゃねぇぞ!」

「助けてやったんだろうが! いい歳こいて、素直に礼も言えないのかこの脳筋ゴリラ!」

「んだとゴラァ!」

クラウンでさえ、目の前で始まった喧嘩を前に戸惑いを感じていた。クラウンは自身のペースを乱されたことに、苛立ちを覚えつつもそっと目を閉じ十秒ほど数える。

「全くいちゃついてくれちゃって、僕のことは無視かい? 聖騎士団長サマァ」

「はぁ……向こうもこれ以上はまってくれないだろうし、とりあえず下がっていてくれ。足手纏いだ」

「っち……文句を言いたいところだが、それが最善か」

ラミスは未だ治ることのない、激痛の走る腹部を押さえながら後退した。

金髪の男はラミスが後退する間も、クラウンが攻撃を仕掛けないよう警戒し、動きを牽制する。

「聖騎士団長、リヒト=ハルバード。いいねぇ、その正義感に満ちた瞳……そーいうやつが、自分の正義を遂行できず、ただ圧倒的な力の前に打ち砕かれる瞬間ってのは、何度見てもたまんねぇんだわ」

「クズだな」

「クズで結構。そんなこと気にしてないでさァ、もっと人生、楽しまないと!」

クランは左手にだけ拳銃を残し、右手にダガーを握りしめた。

「さぁ、殺しあおっか?」

「そうだな……」

狂気に満ちた笑みを浮かべるクラウンの言葉に答えるかのように聖騎士団長の大剣に魔法陣が浮かび上がり、光のオーラを纏った。

「魔法か……いいなぁ。僕は収納魔法くらいしか使えないから、本当に羨ましいよ。これ一つ覚えるのだって、相当苦労したしさ」

「クラウン……だったな? アレンをたぶらかしたのは貴様か?」

「さぁ? どーだったかなぁ?」

「そうか……話すだけ無駄と言うことか」

「うんうん! だから始めよ、殺し合い!」

クラウンは銃撃で隙を作りながら、ダガーで鎧に覆われていない箇所を狙い攻撃を執拗に仕掛けていく。

狙いがわかっている以上、ガードや回避は難しくなかった。

そこにリヒトは違和感を抱いた。

リヒトは今のところ攻撃を喰らわないよう守りに徹しているが、あえてダガーの一撃を許容し、刃をその身に受ければ簡単に決着を決められる状況がずっと続いている。

クラウンは女で、強化魔法を使っている様子はない。

クラウンが女だからといって舐めているわけではないが、仮に攻撃を当てられたとしても女の素の力で振るったダガーではリヒトの強靭な体に致命傷は与えられない。

それなりの怪我は負うかもしれないが、この場には大聖人がいる。

(それも踏まえた上で、それでもダガーを当てることに固執しているということは、おそらく)

あのダガーは普通ではない。

かすり傷でも致命傷に変える何かがある。

(毒物、あるいは魔法関連の何かか。はっきりはわからないが、触れるのは不味そうだ)

大怪我覚悟でダガーを喰らえばクラウンを仕留められる……そうすれば早々にかたをつけられる。

そう思わせるように計算されたクラウンの動きには敵ながら感心させられた。

そういった事情もあって、クラウンと聖騎士団長の力は拮抗しており、互角の戦いを繰り広げていた。

その事実に、さらに聖騎士団長は違和感を抱いていた。

ここは聖地。

聖騎士団長にとってはホームだ。待っていれば増援が来るし、疲労や怪我を癒す間、他の者に時間を稼いでもらうこともできなくはない。何せ、こちらには大聖人がいるのだ。回復の心配はいらない。

その上、アレンはユイという冒険者が引き受けてくれている。

対してクラウンに味方と呼べる存在はアレンしかおらず、また、ここで勝つだけでなく、撤退する分の余力まで残しておかなくてはならない。

クラウンの方が圧倒的に不利なのだ。

しかし、クラウンの表情からは未だ余裕が感じられる。

聖騎士最強のはずの男が、一人の魔族に翻弄され続けている。

(やはり、俺は聖騎士団長の器じゃないということか?)

本来、この座につくはずだった女の姿が脳裏にチラつく。

彼女であれば、たった一人の魔族相手に、こんな無様を晒したりはしない。

クラウンはそんな僅かに漏れ出た感情をリヒトの表情から察し、ニヤリと口角を上げた。

「どーした? 戦い中に考え事か?」

「黙れ!」

力強く振るった剣は、空を切るのみ。

明らかに剣筋がブレたのを感じとったクラウンは言葉で追撃を仕掛ける。

「うーん、やっぱりさ、君って聖騎士団長向いてないと思うなぁ」

クラウンが心の内を見透かしたように、そう発した。

「何が言いたい?」

「僕知ってるよ? 本来、君は聖騎士団長ではなく、副団長……あるいは部隊長になる予定だったんでしょ? 仕方ないよねぇ。だって君の二つ上には、数ある聖騎士学校の中でも史上最優秀と称される生徒がいたんだもん。でも、彼女は聖騎士にすらなかった」

動揺を悟らせまいと必死に堪えるが、それすらも見透かしたような瞳で、ニヤリと笑うクラウン。

「君は今でも彼女を恨んでいるんでしょ? 身の丈に合わない重責。あー、あの人がいたらなぁ、あの人が団長だったらなぁ、そんな心無い言葉を浴びて。そこまでして、それでも頑張る理由って何かな?」

不快だった。

目の前の、人の心なんて無さそうな、残虐で非道な女に分かったふうに言われるのが。

そのくせそれがかなり的確で、揺さぶられている自分がいることも。

「なるほど……クラウン。やはり、お前がアレンをたぶらかしたのか」

「あれ? ひょっとして君揺れてる? 揺れてるよね?」

「五月蝿い!」

冷静さを欠いたリヒトの剣を半歩下がることで回避しながら、クラウンはその銃口をリヒト額に向け、

「はい、僕の勝ち」

勝利宣言を告げ、引き金を引こうとした瞬間、火の球がクラウンを襲った。

そこまで大きくはなく、食らったところで火傷で済む程度。クラウン側に彼女が控えている現状を考慮するなら、ここは食らってでも引き金をひき、リヒトの息の根を止めるべきだった。

しかし、咄嗟のことに反射的の回避してしまう。

視線の先にはあの時と同じ……黒髪の青年がいる。

「なんだよ……またお前か」

クラウンの眉がぴくりと動く。

「俺には君って呼んでくれないんだな?」

二度も良いところを邪魔されたんだ。

俺へと怒りを抱くのは当然。

にしても他に比べ異様に俺にだけ当たりが強いというか、嫌われている気がするんだが。

「ロイドだったな……どうして君がここに?」

「いや、俺もよく分からないが、ラミスに行けと言われて」

俺も最初は断った。

足を引っ張りたくないし、後ろで回復に徹しておくと。

そう言った直後、俺はラミスにぶん殴られた。

ごちゃごちゃ言ってないでさっさと行ってこいと。

今なお、ラミスにぶん殴られた頬は赤く、じんじんとした痛みが走る。

「その頬は?」

「気にしないでくれ」

「そ、そうか?」

魔杖を構え、とりあえず俺の掛けれる全ての強化魔法をかけておく。

聖騎士団長について俺は何も知らないからな。

パッと見は大剣を振るう近接系の戦闘スタイルだが、何故だが剣が輝いているし、何かしらの魔法を剣に付与しているのだろう。

どういう効果があるかは知らんが、魔法もかなり高いレベルで扱えると見える。

流石は聖騎士のトップ。

「君、まさかここまで凄腕の白魔導師だったとは……」

「ありがとうございます」

聖騎士団長、お世辞も一流だ。

「君は確か勇者候補……いや、元勇者候補だっけ? 選ばれなかったそうだねぇ」

クラウンがニヤケ顔でそう語りかけてくる。

一体どこからそんな情報を仕入れてくるのやら。

だが、今情報源を追求するのは悪手。そんなことは今考えても仕方がないし、考えたところで答えは出ない。

勇者候補……か。

懐かしい響きの言葉だが、特に思い入れはない。

「妥当な判断だ」

状況も状況だし、むしろ、あのまま勇者候補だなんだと言われ、持ち上げられ続けられていたらどうなってしまっていたか……。

考えるだけでもゾッとする。

「まぁ、当然だよねぇ。後ろでこそこそやってるだけの卑怯者の分際でさ!」

「あぁ、前線で戦ってくれる人たちがいて、初めて成り立つ職業だとは自覚してる。ユイたちにはいつも感謝してる」

いつだって最前線で痛みを堪え、命をかけ戦ってくれるユイたちには、頭が上がらない。

「ふ、ふーん」

「ん?」

よく分からないが、クラウンの笑顔がぎこちない気がする。

「ある意味、無敵だな」

「どういう意味だ? あまり、褒められている気がしないんだが」

「立派な褒め言葉だ」

前に出ていたリヒトが剣を構えながら、俺の元まで後退してきた。

そして小声で語りかけてくる。

「ロイド、聞いた話では特殊な強化魔法を扱えると聞いたが、それは俺にも可能か?」

「可能だ」

リヒトの考えをよもうと思考を巡らせる。

「俺が指示したら頼む」

「指示したら……なるほど。分かった」

リヒトはもう少し接戦を演じるつもりだそうだ。

クラウンにこれ以上増援が現れる可能性は低いと踏み、リヒトにとってホームであるこの聖教国内で、焦らず、確実に始末する腹積もりらしい。

クラウンを放置しておくと後々、大きな脅威になり得る可能性がある。

生捕りにするつもりはない、と。

俺は数歩引いたところからリヒトの戦いを見守った。

リヒトとクラウンの実力は互角。

単純な剣術であればリヒト。

器用さや手数ではクラウン。

リヒトもそれを理解しており、ダガーの攻撃を警戒しながらも武器の入れ替えをさせないよう攻め続けている。

そして、

「ロイド!」

合図が聞こえた瞬間、俺は事前に用意していた魔法を唱える。

「強化魔法・ 聖炎(せいえん) 」

黄金に輝く炎がリヒトの持つ剣から湧き上がる。

俺の火属性魔法とリヒトの魔法の力を組み合わせた魔法だ。

「これは……」

リヒトが剣身を眺めながら呟く。

「リヒトの使っていた魔法と俺の魔法を組み合わせた魔法とだけ思っていればいい」

リヒトの魔法を基盤に、俺の強化魔法を調整し組み込んだ即席の魔法で、リヒトの扱う聖属性の魔法を妨害しないようにしながら、さらにそこに火属性を追加している。何故、黄金色の炎になったかは正直分からないが何らかの形で上手くいくであろうことは確信していた。というか、上手くいくよう、この短時間で徹底して調整してみせた。

魔法は見たところ安定している。

おそらく、あの力が使えるはず……。

自らの思考速度をギリギリまで強化する荒技も使った甲斐があった。

クラウンも目の前で使われた魔法の理解に必死な様子で今の装備は一度しまい、盾と拳銃を構え直す。

様子見のために攻めの姿勢を解き、守りを固めに入った。

盾を構えるクラウンにリヒトは容赦なく剣を振り下ろす。

剣そのもそは盾により防がれる。

一方で黄金の炎は盾を透過し、クラウンの体を燃やした。

しかし、黄金の炎に焼かれたクラウンの身に外傷は見られない。

今なお、クラウンは黄金の炎に焼かれているようだが……

失敗か?

クラウンとリヒトがそう思った、次の瞬間。

クラウンが苦悶の叫びを上げた。

黄金の炎にいわゆる一般的な熱はない。

この炎は魔力に作用する。

敵の魔力を燃やす魔法だ。

黄金の炎に焼かれた者は、魔力を焼かれるという想像すらできない、不思議で耐え難い苦痛に苛まれ、それは肉体にも伝播する。

「クソがぁぁ!」

回復する手段くらいは用意していたのかもしれないが、この黄金の炎によるダメージは魔法では治癒しない。

黄金の炎が時間消滅する限り、苦痛に苛まれる。

「 止(とど) めだ」

次、剣が擦ればクラウンとてまともな状態を保つことは出来まい。

そのまま、攻撃を続ければいずれ剣そのものも当たるだろう。

勝つのは時間の問題……

そう思った刹那、何かを察したリヒトが慌てて俺の方へと走ってきた。

リヒトが振るった剣は、俺目掛け飛来していた炎の斬撃を切り裂いた。

リヒトが受け止めていなければ、今頃俺は大怪我を……いや、最悪の場合、死んでいたかもしれない。

視線の先には舌打ちをするアレンの姿があった。

「アレン……」

アレンが俺へと攻撃を仕掛けてきた。

ということはつまり、

心臓が大きく跳ね上がる。

嫌な予感に苛まれながら、アレンが来た方向に目をやった。

そこには血まみれになりながら、地面に倒れ動かないユイの姿があった。

「ユイ!」

その光景を前に、冷静さを保つなんて俺にはできなかった。

俺じゃ、アレンには敵わない。

そんなことは分かってる。

でも、

「許さない」