軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、課外授業に参加する

課外授業当日の朝。

多くの学生がソワソワとしながら、授業開始の合図を待っていた。

すでに事前の説明は終え、この本部に残る一部教師を除き、教師陣は森の中へと散っている。聖騎士もすでに森の各所に配置済みだ。

俺はダンジョンで手に入れた魔杖ではなく、普段から使っていた杖を取り出し、探知魔法を発動した。

一位を狙う上で、どう動くのが最適かを考えるため、モンスターの気配を探る。

今回、目的とするモンスターは、アクラスという巨大な鳥だ。巨大な翼が特徴的で、片翼だけでも五メートルほどある。また、脚力が強く、足先の爪で切り裂かれれば、それなりに大きな怪我を負ってしまう。

だが、特別爪が鋭いわけではなく、よほど当たりどころが悪くない限りは死にはしない。

また、その威圧感を与える大きな巨体から、恐ろしく強く思えてしまうが、連想されるほどの戦闘能力はない。

遠方から弓で頭を撃ち抜けば、一発で仕留めることも不可能じゃないしな。

おそらく、クロスなら余裕だろう。

とは言え、実践経験のない学生が相手にするのはリスクのあるモンスターなのは事実だ。自身の恐怖に打ち勝ち、かつ冷静な対処が求められる。

森にいるモンスターは一点から十点の得点が設定されており、このモンスターは十点と最も高い部類に入る。本当であれば初めから、もっと弱く、かつ群で行動するモンスターを標的にするのが、効率的に点を稼ぐつもりだったのだが、あいにくこの四人の中には広範囲攻撃を得意とする人がいない。俺は支援職だし、ユイとラタールは剣士。多数を相手にするには向いていない。

それに、その手のモンスターを狙うパーティーは多く、俺たちでは大量のポイントを稼ぐのはできないと予想していた。獲物の取り合いになれば、攻撃系の魔法や弓が使えないこのパーティーは不利だ。

そうでなくとも、そう言った狙い目と言われるモンスターの数には限りがある。どの道、本気で優勝を狙いたいなら、ある程度強いモンスターを相手にしなくてはならない。

そのためにもまずは戦力強化だ。

討伐後、死霊術師の魔法を使い仲間に加える。

死霊化したモンスターはカンナの魔力が尽きない限り、時間をかければ何度でも復活させられるため、多少無茶が効く。それに、カンナの指示には従うため、アクラスを死霊化できれば移動が随分と楽になるし、数匹仲間にできれば、全員で空を移動することも可能だ。

しかし、欠点も存在する。死霊魔法は使用中、常に魔力を消費し続けなければならない。そして、カンナの魔力が尽きた場合、死霊化が解除されてしまう。同じ個体の再召喚はできない。

欠点を補うため、魔力回復ポーションは大量に購入しているらしいが、金銭的にも、持ち物の容量的にも個数は限られる。後者の問題は俺が収納魔法を使うことで、解決されているが……

カンナの表情からは、不安が伺える。

それもそのはず。カンナはずっと葛藤を抱えていた。この課外授業で勝つなら、死霊術師であることを俺とユイに伝えるべきだ。俺やユイはひとまずラタールの作戦を信じ、その方針に従っているが、その内容を知らないのだから当然、不安は残る。

まぁ、俺はカンナが死霊術師であることをすでに知っているし、ユイは最悪「私が本気を出せば」と思っているような気がするので、ラタールとカンナの考えていると思われる作戦について、実際はそこまで不安はないが……

カンナの視点では俺たちの中に不安が残っているように見えるはずだ。

なら、伝えるべきか?

しかし、そう考えた途端に、途轍もない恐怖に苛まれる。

過去に、このことをカミングアウトした結果、今まで友人だと信じていた人が離れて行った過去や、多くの大人に夢を嗤われ、諦めを強要されてきた経験が、きっとそうするのだろう。実際、この学院に拾われなければ、聖騎士学校に通うことはできないほど、追い詰められていたらしい。

これも俺はすでに知っているし、ユイは死霊術師という職業に対し、褒めることこそあれど、否定的な感情を抱くことはないと思うため、杞憂だがな。

俺の方が、心が痛くなってくるな……

教師の開始の合図と同時に、学生達が一斉に動き出した。

その大半が、ある方向へ向かい歩みを進める。あの方角には、シロトドリが多く生息するエリアがある。点数は一点とかなり低いが、数が多い。広範囲に攻撃できる魔法があれば、序盤から荒稼ぎできる。何より、危険性が極めて少ないという点が多くの学生を惹きつけているのだろう。

この森の情報を得ることは難しくないらしいしな。

「一部のパーティーは、シロトドリは避けて、それなりに点数の高いモンスターに挑むみたいだね」

ラタールの言葉に同意をしようとした瞬間、背後に気配を感じた。

「そーだな、優勝してぇんなら、どうせ強い奴とも戦わなきゃなれねってのによぉ。全く、情けねぇ奴らだぜ」

声の聞こえてきた方向を振り返ると、背丈ほどある大きな剣を背負った、筋肉質で強面な男が立っていた。

身長も180後半はあるだろう。

ラタールを物理的にも、心理的にも見下すように仁王立ちする男を見て、ラタールは大きくため息をついた。

「はぁ……何のようかな?」

「喜べ。ラタール、テメェを俺のパーティーに入れてやるよ」

「うーん、ちゃんと理解できるように言ってくれるかな?」

「分かってる癖によぉ。その幽霊女と、時期遅れの新入生と組むのと、俺と組むの、どっちが利口かわからねぇほど馬鹿じゃねぇだろ?」

威圧的な態度でラタールに迫るが、ラタールは一歩も退きはしなかった。

「仮に、あり得ない話だけど僕がイエスと答えたとしても、もう今さらパーティー変更はできないんじゃないかな?」

「いや、お前を引き入れるぐらい、どうにでもなる。つまり、テメェ次第ってことだ」

見たところ、向こうのパーティーは六人。その中には、カルティゴの姿もあった。

カルティゴを見つけたユイが怒りの眼差しを向ける、カルティゴはどこ吹く風といった様子で受け流している。

そんな二人は一旦置いておくとして、巨漢率いるパーティーは六人。すでに上限に達している。

しかし、自信ありげなその表情で、そう豪語するからにはそれなりの考えがあるのだろう。

睨み合うラタールと巨漢。

「……これ以上は、時間の無駄みてぇだな」

そういうと巨漢はメンバーを引き連れ、去っていった。

姿が見えなくなったことを確認し、ラタールはほっと胸を下す。

「誰? あの人」

「あいつはギース。隣のクラスの生徒」

「ふーん、なんかいかにも不良って感じだけど。強いの?」

「そうだね……魔法抜きなら、彼に勝る学生はいない。少なくとも同学年にはいないね、強さだけは本物だ」

「ただのイキリってわけじゃないってことね……」

「うん、僕なんかより遥かに強い。周りに連れてた奴らも模擬戦の成績上位者ばかりだったし、今のところ、彼が優勝候補と言っても過言じゃない」

険しい表情で語るラタール。その様子から、ユイもギースという男が威勢だけの男ではないと確信する。

「まぁ、いいわ。どうせ、勝つのは私たちだし」

そう言い切って見せたユイからは、一才の不安が感じられず、優勝を信じて疑っていないのも分かる。

だが、ユイの実力を知る俺は、ユイの考えが決して傲慢なものだとは思わなかった。

確かにユイなら……

「……ところで、幽霊女ってどういうこと?」

ユイの問いを聞き、カンナの表情が固まった。

少しして、僅かに口元が動くが、何を言っているかは聞こえてこない。

次第に呼吸は荒くなり、一瞬、体がふらつく。それを見たラタールが慌てて支えに入った。

「落ち着いて、深呼吸するんだ」

一連の出来事を前に、呆然と立ち尽くすユイの手を引き、少し離れた場所へと向かう。

「えーと、私、まずいこといちゃったかな……いや、絶対言ったわよね」

「そう、かもな」

「どうしよ……とても、続行できる感じじゃないよね」

悪意はなくとも、カンナの中の地雷を踏み抜いたことは間違いない。

カンナの中のトラウマがを想起させてしまったことに、罪悪感を覚えるユイ。

「リタイア、すべきかな」

「いや、それは……」

これは、不味いかもしれない。いや、間違いなく不味い展開だ。

カンナはとても戦える状態にない。

こうなってしまった以上、ラタールの戦略は破綻したも同然だと言えるだろう。

あのギースという男に勝つために取れる唯一の策が消えたことに、ラタールも内心、かなり焦りを感じているはず。

実際は、ユイが本気を出せばどうにでもなりそうだが、本音を言えばそうして欲しくはなかった。

ユイが目立つのは、好ましくはない。

だが、この状況だ。

手段を選んでいる余裕はないか……

「あのギースという男、ただの腕っぷし自慢じゃないのかもな」

「え?」

「わざわざ断られると分かっていて、時間を削ってまで話しかけてきた理由としては納得できる。違うか?」

それでもなお、理解ができないと言った様子のユイに、俺はラミスから聞いていた話をありのまま伝えた。

「ラタールとカンナが必死になる理由はわかるけど……」

「ラタールはこのクラスでは強い方だし、カンナが死霊術師として力を発揮すればギースにとっては脅威になる。それに加え、冒険者として実践経験のある俺とユイの存在。それをあの男は恐れたんだろう」

根拠はない。

これはあくまでも俺の推測の域を出ない。俺にとって都合の良い解釈。

だが、これでいい。

俺が勇者候補者となった日のことを思い出す。例え、俺の実力が偽りだとしても、相手にとって俺が立派な勇者と認識され、勝手に脅威に感じら、抑止力になればいいと、そう言われた。

今回、俺がしようとしていることもそれに近い。真似事だ。

ギースが実際に、そこまでの切れ者でなくてもいい。真実はただの偶然かもしれない。しかし、ユイがギースを勝手に切れ者だと認識し、勝手に自分は嵌められてしまったのだと感じ、それを前に進む活力に変えてくれれば……

「た、確かに……」

俺の推測に、ユイが納得する素振りを見せる。

「ロイド、私、 本気(マジ) で一位をとりに行こうと思うんだけど、手を貸してくれるわよね?」

「俺でよければ、全力で付き合う」

「そう来なくっちゃ!」

「ギースさん、どうしてわざわざ勧誘なんてしたんすか?」

ギースと同じパーティーであるタイラーという男がギースへ尋ねる。

「あ?」

「い、いやぁ、だって、確かにラタールは優秀っすよ。学力も高いし、腕っぷしも、認めたくはないが俺よりも強い。でも、あいつが提案に乗ってこないなんて、わかりきっていると言うか……」

タイラーは学力面では低い生徒だが、実技の能力は高い。模擬戦における成績は上位に食い込むほどだ。弱くはない。むしろ、校内では強い部類に入る生徒だ。

しかし、そんな彼でさえ、ギースを前には赤子同然であり、目が合うだけで萎縮してしまう。ギース本人は睨んでいるつもりすらないのだろうが、その眼光は鋭く、周囲に確かな恐怖を振り撒いている。

「んなこと知ってどうする?」

「え? いや、どうするとかは別に……」

半歩後退りしながらそう答えるタイラーを見下すよう眺めるギース。

ギースに答えるつもりは一切ないらしく、沈黙が場を支配する。

「す、すみません! わ、忘れてください!」

恐怖に耐えかねたタイラーが頭を深くさげ、謝罪する様を見て、ギースは大きなため息をつく。

「……くだらねぇ」

それだけ言い、目的地へと歩みを進めたギースの背後で、何事もなかったことに安堵するタイラーと、視線で「二度と余計なことをするな」と注意するパーティーメンバー。

「本当に、くだらない連中ばかりだな……」