軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、観光する②

聖地は到着初日にも感じたが、王都と比較してもデザインの凝った芸術的な建築物が多く見られ、雰囲気は王都よりやや落ち着いた印象を覚えた。

王都の少し煩いと思うほどの活気に比べて、穏やかさを感じる。

冒険者の少なさが、その要因の一つかもしれないな。王都では、昼間っから飲んだくれている冒険者もかなり見かけられたが、そういった人は今のところ見えない。

「すっごい綺麗な建物が多いわね」

「そういうのに拘る人も多いからね。それに、王都や帝国に比べると比較的新しい建物が多いからかもしれない」

「新しい建物? 何か、立て直さなくちゃいけなくなるような災害でもあったの?」

「全くの的外れってわけじゃないけど、少し違うかな」

「少し違う?」

「うーん、そうだね……どこから話したものかな」

ラタールは少し考える素振りを見せたのち、ユイの問いに対する答えを語り始めた。

「聖教国自体は昔から存在したけど、元々は小さな国で、名前も違ったらしいんだ」

「へぇ、元々大国だったわけじゃないいんだ」

「うん、聖教国の大半は元々は別の国の領地だったみたいだね。この聖地も、その国の領土だったそうだよ。ここには今の聖教国に劣らないレベルの大きさの国が、元々存在したらしいんだ」

「それじゃ、その国を滅ぼして拡大した、的な?」

「うーん、どうだろう……実は、詳しいことはいまだに不明らしいんだ。何故、亡んだのか、普通に考えればユイが言ったように、聖教国が滅ぼしたんじゃって思うけど……当時その国に、別の大国と戦うほどの力はなかったらしいんだ。実際、かなり小さな国だったみたいだし」

「不思議な話ね」

「だから、仮説の一つに災害がある。大国が滅ぶほどの災害が存在するのか、疑わしいところだけど。他には、ドラゴンが降臨し、焼き滅ぼしたなんて仮説もあるけど、それも根拠がなく、仮説の域を出ないって感じだね」

「……なんか、モヤモヤするわね」

釈然としない回答に、どこか不満げなユイ。

「そう、だから僕も一時期、自分なりにかなり調べたりしたんだ。図書館に籠って、文献を読み漁ったり。それでも、これだ!っていう回答は見つからなかったけど。でも、そういう未知の部分もまた歴史の魅力の一つなんじゃないかなって今はそう思ってる。どう? ユイも、歴史に興味が持てたかな?」

「正直に言うと、あんまりかなぁ。大賢者の話なら興味あるけど」

そんな会話をしながら、街中を散策していく。

流石に、街全体を細かく見て回るには時間が足りないため、観光は途中で切り上げ、道具屋へと向かった。

課外授業に向けて、買っておきたいものがいくつかあるからな。

支給品には目を通したが、魔力回復ポーションや防具類などは各々で準備するようになっている。武器と違って、防具はサイズの問題もあるため、基本的には貸し出さないそうだ。一方で、野営用の用品や武器類は必要な分、貸し出される。武器は破損時などは本部まで戻れば借りれるようだ。

観光中は学院に関する話や一度は絶対に行くべき人気店など、楽しげな内容の会話だったが、一転し、味めな雰囲気へと変わる。

どうやら、ラタールとカンナはこの課外授業に本気で取り組む姿勢のようだ。

「僕たちは優勝して、優勝賞品を手に入れたいと思ってる」

今回の優勝パーティーへの賞品は、聖騎士団への推薦状……これを現時点で獲得できれば、卒業後の聖騎士試験が免除される他、学生でありながら現役の聖騎士からの手ほどきも受けられる。それも、副隊長クラスの聖騎士から。

聖騎士の試験の免除はともかく、学生の段階で聖騎士から直々に教われるのは大きいらしい。授業でもたまに聖騎士が来てくれるそうだが、せいぜい一、二週間に一度程度の頻度だ。一方で、この権利があれば好きなタイミングで、空いている聖騎士さえいれば教えをこうことができる。

聖騎士を目指す者にとっては、是非とも欲しい賞品だ。

俺やユイにとってはこれっぽちも魅力のないものだが……

「いいわ、目指しましょう! 私、聖騎士ってやつと一度手合わせしてみたかったのよね」

俺の予想とは違い、どうやらユイもこの推薦状が欲しいらしい。

少し他の学生とは何かがズレている気がするが、ユイも一位を取りに行くつもりだそうだ。

「全力で行くわよ、一位を取りに。ロイドもやるわよね?」

「そう、だな」

一位を取りに行くと意気込むユイの姿に、不安が止まらない。

勿論、一位を取りに行くのなら油断は禁物だ。同学年に、ユイと同等の強者がいないとも言えない……こともない気がするが。

俺は手を抜くつもりはない。

だが、Sランク冒険者のユイが本気を出してもいいのだろうか?

俺と違い、ユイが本気を出すのはちょっと不味い気が……

そんなユイだが、瞳に溢れんばかりの闘士を浮かべている。

「はぁ……まぁいいか」

なるようになるだろう、きっと。

翌晩。

金庫のような部屋の中で、この国の歴史に関する本を読んでいると、インターホンがなった。

日は数時間前には沈んでおり、辺りはしんと静まり返っている。

静まり返っている理由が、夜遅いからか、この部屋の構造のせいかは定かではないが。

ユイだろうか?

そんなことを考えていると、ガチャと解錠される音が聞こえていた。

「プライバシーは何処へ……」

この部屋の扉を勝手に開錠できる人は俺の知る限り一人しかいない。

「邪魔するが、大丈夫か?」

半開きになった扉からラミス学院長が顔を覗かせる。

「ええ、大丈夫です」

「そうか、では失礼するぞ」

そう言い、入ってきたラミスは前回とは違い、かなりラフな格好だった。

早に入ってきたラミスは一直線にベッドへと向かい、勢いよく腰を下ろした。

「ふぅ、全く、学院長というのは面倒だな」

「何かあったんですか?」

「聞いてなかったか? 今日、学生が安全に授業に取り組めるよう、強いモンスターを根こそぎ討伐してきたんだ」

「そういえば……」

事前に学院長と聖騎士が出向き、学生の手に余るモンスターは排除すると言っていた。

「お疲れ様です」

「全くだ。命に関わる仕事だから、手を抜けないしな。勇者候補様も参加する以上、徹底邸に危険は排除しろ!って。国や教会の連中がしつこくて」

それは大変そうだな……

「それで、どんなご用で?」

そう聞くと、ラミスの表情は真剣なものへと変わった。

疲労を抱えながらも、こうしてわざわざ学生寮に来るくらいだ。それなりに重要な要件と見える。

「明日の課外授業についてだが……勝て、優勝しろ」

予想外の言葉に、一瞬、思考が停止する。

「ま、まぁ、そのつもりではありますが……」

一応、ユイ達との約束もあるし、手を抜くつもりはない。

だが、「勝て、優勝しろ」とは、いったいどういう意図での発言なのだろうか。

「ロイドはすでに、カンナの職業について、何か聞いているか?」

「いえ、本人が聞かれたくなさそうな様子だったので」

「ふむ……そうか。まぁ、彼女はそれで過去にかなり苦しめられてきたからな。だが、ロイドにはぜひ知っておいて欲しいので勝手ながらここで伝えるぞ。彼女の職業は、死霊の力を操りしもの……死霊術師だ。死んだモンスターを、自分の魔力を用い具現化……死霊化させ、己が僕とする。強いモンスターを魔法の対象にするには膨大な魔力が必要となるが、それでも強力な職業であるのは間違いない」

死霊術師。詳しくは知らないが、今の話だけを聞くと、かなり強力な職業に聞こえる。

それがどうして、かんなが過去に苦しめられたことに繋がっているかは、まだ見えてこないが、その説明もあるだろう。

「なるほど、それで?」

「死霊術師は可能性の塊だ。しかし、この聖教国では忌み嫌われる職業でもある。様々な理由でな。その中には下らない、呆れた言い分も多いが、中には最もな意見もある。例えば……」

「死んだ人間を死霊とし操る、ですか?」

パッと思い浮かんだ考えを口に出すと、ラミスは驚いた表情を見せた。

「おお、正解だ。知っていたのか?」

「いや、ただ、この話を聞いた時、改良を重ねればそういうことも可能なんじゃないかと、そう思った」

「そうか。とても、勇者には相応しくない思考だな。でも、俺はそういうの好きだぞ」

そう言い、豪快に笑う様は、どこか師匠に似たものを感じる。

聖騎士学校のトップの発言としては、どうなのだろうかと思うところはあるが、こういった学院長の性格は、今の俺にとっては有難い。勇者候補者と知ってなお、俺にこうしてフランクに接してくれる聖教国の人間は、今のところ彼女ぐらいだ。

「初めて会った日、俺が言ったことを覚えているか?」

「学生に気をつけろ、ですか」

「そう、正解だ。この学院では、王立の堅っ苦しい聖騎士学校じゃ認められない力や、性格に難がある実力者も、積極的に入学させるようにしている。王立の学院はどこも、この国の権力者というか、立場の高い人間の力が多く影響を与えていてな……死霊術師は、書類の時点で落とすことが決められている」

残酷な話だ。

生まれ持った特性で、不合格を言い渡される。本人の努力やそれによる成果すら、考慮されない。

「ま、そんな堅っ苦しい考え方により、多くが守られてきたのも事実ではあるがな。だが、それでカンナのような人間が不利益を被るのは、俺は見てられん。それに、ある程度地位を持つ人間がそんなことをしているせいで、差別やいじめなどにも繋がってしまっている。カンナも過去にいじめを受けてきたようだ。今は目立ったいじめは確認されていないが、クラスメイトも、カンナ自信も、互いに積極的にコミュニケーションを取ろうとはしない。俺はそんな現状を変えたい。ということで、勝って推薦状を掴んでくれ」

優勝すれば、死霊術師であるが故に、聖騎士として認められないカンナも、聖騎士になることができる。

下手すれば二度とないかもしれないようなチャンス。

ラミスの考えも立派なものだと思うし、それ自体には俺も賛成だ。

だが、

「軽く言ってくれますね……」

「何、相手は所詮学生だ。冒険者や勇者パーティーでの経験があるロイドなら、そのくらい余裕だろ?」

「いや、そんなことは……というか、所詮学生って言い方はどうなんですか?」

「事実だ。学生のほとんどは、実践経験がない。いくら訓練されていようと、実際は訓練通りにはいかないものだ。中にはそれなりに場数を踏んでいる奴もいるが……まぁ、そこは、経験と気合いで頑張ってくれ」

「てきとうですね」

「ユイもいる。なんとかなるさ」

ラミスの言う通り、Sランク冒険者であるユイがいるため、優勝は可能だろう。

「はぁ……頑張ります」

「おう、頑張ってくれ。あ、でも、大怪我されると俺が怒られるから、ほどほどに頑張って、確実に優勝してくれ」

そう言い、ラミスはさっさと部屋を去っていった。

ほどほどに頑張って、確実に優勝しろとは……

全く、本当に身勝手な学院長だ。