作品タイトル不明
白魔導師、勇者になる⁉
転移後、俺たちはダンジョンの入口まで引き返した。
入り口には、俺たちの帰りを待ち待機する王国騎士が数名いたが、入口とは無縁の場所から帰ってきた俺たちを見て、目を丸くしていた。
彼らは、俺たちの帰還を待つと同時に、ダンジョンの情報を聞きつけた部外者が、立ち入らないよう監視する役割を任ぜられている王国騎士たちで、そのため、初めは森の中から現れた俺たちをダンジョンへと近づく不届きものと思い、武器を向けてきた。
当初の予定では当然、転移なんて含まれていない。
彼らはテスタの顔を見るや否や、矛を収め、慌て謝っていた。そんな彼らに、テスタは「仕事を全うしている証拠だ」と褒めていた。テスタも、冒険者ギルドで聞いた通り、真面目で根はいい人なのだろう。俺への対応は相変わらずだが。
その後、その場にいた王国騎士へ事情説明をテスタが簡潔に伝えた後、待機していた王国騎士の護衛の元、無事、王都まで帰還した。
これでやっと一休み……とはいかなかった。
王城の待機室へ通され、十数分後。
俺たちは玉座の間へと案内された。
そこには王国国王バジレウスと、クレア、そしてセリオンの姿があった。
他にも王国の精鋭と思われる騎士たちも数名いるが、セリオンがいるせいか、どことなく表情が暗いような気がする。
どれほど強い王国騎士でも、セリオンの前では赤子同然の存在な上、セリオンから定期的に鋭い眼差しを向けられ、警戒……いや、威圧という方が正しいか。
とにかく、居心地が悪そうな様子だった。
そんな雰囲気の中、俺たちの疲れを考慮してか、手短に感謝の意と、報酬に関する話がされた。
そして最後に、ダンジョンから見つかったアイテム……魔杖について国王が話そうとした時だった。
玉座の間の扉が開かれ、一人の黒髪の女性が入ってきた。白銀の鎧を身にまとい、腰には刀身が細めな剣が携えられている。
直感がただ者ではないと告げる。
皆も同じような感覚を覚えたのだろう。
セリオンや王国騎士、そしてユイ含めた冒険者たちも、その女性に警戒の眼差しを向け、武器を構えた。
しかし、その女は、セリオンの殺気すらも毅然とした態度で受け止め、動じることはなかった。
度胸は手練れの王国騎士以上、か。
「何者だ?」
やはり、予定外の訪問者なのだろうと、国王の反応から確信する。
「聖教国の遣いとして参りました……聖騎士、ルーアです。突然の訪問が無礼なのは承知の上です」
「主が本物の聖騎士だという証拠は?」
身なりはいかにもそれっぽいが、それだけで信用することはできない。
「おそらく彼女は本物の聖騎士だ。聖教国にある教会内で、何度か見かけたことがある」
テスタの言葉を横目に、ルーアは数枚の書状を取り出した。
「なるほど、聖騎士であることは間違いないようだな」
王国の騎士を通し、書状を受け取った国王が目を通しながら呟く。
「ふむ……」
さて。いくら聖教国の使いとは言え、無礼な行動であり、それを自覚しているからと言って許される行為でないのは確かだ。向こうがそれを理解してないはずがない。つまり、そこまでしてでもこのタイミングで伝えたい何かがあるということ。
国王もそれを察し、無礼に関して言及することはなかった。
「これは、本気なのか?」
「はい。手短に、そして単刀直入に申し上げますと、この度、聖教国はロイド殿を、勇者候補と認定し、聖地へと招待いたします」
ん? 何かの聞き間違いだろうか。
今、さらっととんでもないことを聞いた気がするが……いや、まさか。
心当たりがないこともないだけに、嫌な予感を感じると同時に汗が額から流れ落ちる。
「いたします、か……つまり、これは決定事項だと?」
「はい。異論があるのは承知ですが」
「ふーむ……」
書状を読み返しながら考える素振りを見せる国王の視線が俺へと向けられた。
「それで、ロイド。勇者候補の件、どう考える?」
やはり、そう来たか。
ユーリは「異論があるのは承知」なんて言っていたが、俺一人が勇者候補として王国から出ることに、そこまで異論はないだろう。むしろ、思うように動かせない冒険者より、勇者候補にでもしてしまった方が扱いやすいとも考えられる。聖教国へ向かうのも一時的なものであって永住を迫るものいではないと見える。
そうなれば、問題は俺に、その気があるかだが……
「普通に嫌です」
俺はそう、迷うことなく即答した。
俺が勇者候補?
冗談じゃない。実力不足は勿論だが、勇者は戦闘系の職業の者が常に選ばれて来た。回復職や支援職の類の者が勇者になったことは無かったはずだ。アレンの話が正しければ、の話だが。
聖剣と同じレベルの武器を手に入れた俺を過大評価しているのだろう。
そんな武器に選ばれるくらいだし、何かあるのだろうと。
もしくは、もっと面倒な国がらみの……
そんなものに巻き込まれる自分の姿なんて想像したくもなかった。
せっかく、冒険者としての活動に慣れてきた……気がしていたのに。
「俺にも拒否権はありますよね?」
「あるにはあるが……」
国王曰く、王国的にも俺を勇者候補と認定した方が都合がいいとのことだった。一度、魔族を退けた経歴と、勇者候補の肩書があれば、それだけで魔王軍に対するけん制になる。実際俺にその肩書に相応しい実力があるか否かは問題じゃない。いや、勿論、あるに越したことはないが、最悪なくても構わない。
そういった存在であること自体が、利益になるわけだ。
俺は頭を悩ませる。
冒険者としてユイたちとの活動は続けたい。
しかし、こういうのに疎い俺でも、断るという選択肢がないことが分かる。聖教国は勇者という存在を重宝している。毎年、勇者を探し出すために、かなりの予算をかけて大規模な祭りごとをしているらしい。そんな聖教国が、果たして俺を逃がしてくれるだろうか?
今後、魔王軍による被害が出る度に、俺の罪悪感を煽ってくるかもしれない。世論を味方につけられでもしようものなら、一介の冒険者に過ぎない俺はひとたまりもないだろう。ユイたちにも被害が及びかねない。恩返しするどころか、迷惑をかけてしまう。
それは避けたい。
なら、俺の答えは一つ。
「……分かりました」
俺がそう答えた瞬間、ユイが大きく目を見開き、驚いているのが見えた。
しかし、断れない状況であることを察してくれてか、異議を唱えるようなことはしなかった。
ユイにしては、物分かりが良すぎる気もするが……俺の意図を組んでくれたのかもしれない。
「それで、俺は今後どうすればいいんですか?」
「はい。勇者ではなく、まずはロイド殿を勇者候補として……基礎的な教養などを身に着けるべく、聖騎士学校へと通って頂きます」
「学校?」
こうして、俺の冒険者ライフは、一時休業を強いられるのであった。