作品タイトル不明
白魔導師、vs○○?
◇
夕食を食べ終え、宿に帰った俺たちはすぐに宿で睡眠をとることにした。
色々とあり、心身ともに疲弊していたせいか、かなり眠い。
ユイたちは隣に泊まっていて、先程までは少し賑やかな声が聞こえてきていたのだが、今は聞こえない。
もう、寝たのだろう。
「いろいろあったからな……」
本当に、色々あった。
農園の依頼とは違い、モンスターも夜中に結構襲ってきたし、日中も歩いていて遭遇することも多かった。
なるべく俺の探知魔法でモンスターとの戦闘は避けたつもりなのだが、全く遭遇せずにとはいかない。
「ふぁ……寝るか……」
強い眠気に襲われ、俺はベッドに向かった。
そして目を閉じ、寝ようとした。
その時、宿の近くを、正確にはこの建物の上を何かが通過したのが分かった。
魔族……じゃない。
間違いなく人間の魔力だ。
俺は慌てて飛び起き、杖を取り出した。自身に強化魔法をかけ、窓から外に出る。
そして宿の屋根の上に登った。
「誰だ!?」
暗くてよく見えないが、そこには黒いフードを被った人がいた。
しかもこの感じ……、
目の前のフードを被った人間からは、あふれんばかりの余裕が感じられた。
その立ち姿から、逃げ損ねたのではなく、あえて逃げずにここに止まっているのがよく分かる。俺が気が付き、すぐさま駆けつけるのも承知の上で、あえて姿を現したのだろう。
その何者かは、俺のいる場所から十数メートル先の建物の屋根からこちらをじーっと眺めている。
だが、俺の返事に答える様子はない。
こちらを黙って見ているだけだ。
「くそ……どうする?」
相手の職業、戦闘スタイルがまったく分からない以上、不用意に近づくことは出来ない。特に、白魔導師のような、直接の戦闘力が低い職業の場合は、な。
近距離を得意とする戦闘職ならば、まず負けてしまう。
とは言え、遠距離からの魔法も駄目だ。
俺の攻撃魔法は火属性のみ。火力だってそんなに出ないし、万が一避けられれば民家に燃え移る可能性が高い。
特にこの街は、すべての民家が木造で、どこか一軒でも燃えたら被害はどんどん拡大していくだろう。
「シリカを起こしにいくか……」
下にいるシリカや他のメンバーを起こせば何とか出来る。
そう思い、俺は下に降りるため距離をとろうとした。
しかし、それに合わせ相手もこちらとの距離を詰めてくる。
完全にバレているな……。
「不味い……」
こんなことなら、気がついた時点で誰かを起こすべきだったと後悔する。
「仕方ない。あれを使うか……」
多少危険をおかすことになるが仕方がない。
俺は賭けに出ることした。
本当はこういうのは、好きじゃないんだがな……。
自身に隠蔽魔法をかける。
そして、収納魔法で調理用の包丁を取り出し、一気に距離をつめる。
バレないように、一瞬で……。
「もう逃げられないぞ……」
相手の背後に回り込み、包丁を首もとに突き付ける。
「おい、お前はいったい何者だ?」
包丁を首に突き付けたまま問いかける。
動いたら、躊躇わずにこの包丁で切るつもりだ。クレアのこれ以上、悲惨な目に遭わせないためにも。最も、それで命を狩れるような相手には感じないが。
しかし、
「いやー、強くなったっすね……。まさか、私の背後に回り込むなんて。私、てっきり仲間を呼びにいったと思ったんすけど……」
男は両手を挙げるものの、どこか楽しそうな、嬉しそうな声でそう言った。
そして、ニヤリと笑う。全てを見透かしたような、余裕たっぷりの不適な笑みで。
「でも、これを見抜けないのようじゃまだまだっすね……」
そう言うと男は俺の持つ包丁をつかみ、自ら首を切った。鼻から殺せるなんて思ってなかったし、故に殺す意思がなかっただけに、動揺してしまう。
自身で切り落とした男の首がコロコロと地面に転がり、気がつく。
「人間……じゃない?」
そこにあるのは、顔のないただの人形の首だった。
胴体の方も服を脱がしよく観察が、やはりただの人形だ。
その体は硬く……そして酷く冷たい。その冷たさが、これが生き物でないことを証明している。
「俺は……人形と相手をしていたということか?」
不思議に思い、俺はその人形を調べようと持ち上げた。
すると、そんな俺の行動さえ見透かしていたかのように、タイミングよく胴体の腹の部分が開き、中からいくつかのポーションが出てきた。
俺は様々な可能性を考慮し、警戒しながらも、ポーションを拾い上げる。
「これ、クレアが飲んでいたやつか?」
色はとてもよく似ている……が、同じものだという確証はない。
後でクレアのと比べてみよう。
また、それと共に何やら手紙らしきものが入っているのに気がつく。
「読んでみるか……」
封に入れられているわけでもなく、ただ無造作に放り入れられていた手紙を読み上げる。
『突然すみません。これ、アベルに言われてた追加のポーションっす。足りないと思って人形に運ばせておいたっす。自身はあるっすが、万が一ってこともあるんで、大丈夫そうか確認してから使ってください。では、五つ目の街でお待ちしています』
五つ目の街、それは俺たちが王都にいくまでに通る、最後の街のことだろう。
つまりこれを書いた奴は、クレア護衛のことを知っている。
作戦も含めて全部だ。
「あっ、これって……」
考えれる可能性はいくつかあるが、たぶん……いや、ほぼ間違いなくアベルが言っていた「優秀な助っ人」がやったのだろう。
だとすればクレアのことや、ここの街を通ることを知っていることには納得がいく。
何故、人形を使ったのかは知らないが……。
それに何より、気になる点があった。
こいつはまるで以前俺にあったかのような口振りだった。
しかも、ずっと昔から。
だが、思い当たる人は俺の記憶の中にいない。
「いったい誰が……」
味方を装った敵である可能性も捨てきれない。
それに、まだ周辺に敵がいる可能性もある。
そんな不安と可能性が頭をぐるぐると回るが、心が落ち着きを取り戻したことで再燃した激しい睡魔が、それら全てを飲み込んでゆく。
流石にもう限界だ。
ここ数日は特に寝れていないからな。
俺はそのポーションと、地面に転がる人形を念の為ロープで縛りつけた後で収納魔法にしまい部屋と戻った。
そしてかなりの範囲で、敵……魔族や不審な動きをする気配がないことを確認し睡眠をとった。
あの男の言葉を信じて。