軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、vs○○?

夕食を食べ終え、宿に帰った俺たちはすぐに宿で睡眠をとることにした。

色々とあり、心身ともに疲弊していたせいか、かなり眠い。

ユイたちは隣に泊まっていて、先程までは少し賑やかな声が聞こえてきていたのだが、今は聞こえない。

もう、寝たのだろう。

「いろいろあったからな……」

本当に、色々あった。

農園の依頼とは違い、モンスターも夜中に結構襲ってきたし、日中も歩いていて遭遇することも多かった。

なるべく俺の探知魔法でモンスターとの戦闘は避けたつもりなのだが、全く遭遇せずにとはいかない。

「ふぁ……寝るか……」

強い眠気に襲われ、俺はベッドに向かった。

そして目を閉じ、寝ようとした。

その時、宿の近くを、正確にはこの建物の上を何かが通過したのが分かった。

魔族……じゃない。

間違いなく人間の魔力だ。

俺は慌てて飛び起き、杖を取り出した。自身に強化魔法をかけ、窓から外に出る。

そして宿の屋根の上に登った。

「誰だ!?」

暗くてよく見えないが、そこには黒いフードを被った人がいた。

しかもこの感じ……、

目の前のフードを被った人間からは、あふれんばかりの余裕が感じられた。

その立ち姿から、逃げ損ねたのではなく、あえて逃げずにここに止まっているのがよく分かる。俺が気が付き、すぐさま駆けつけるのも承知の上で、あえて姿を現したのだろう。

その何者かは、俺のいる場所から十数メートル先の建物の屋根からこちらをじーっと眺めている。

だが、俺の返事に答える様子はない。

こちらを黙って見ているだけだ。

「くそ……どうする?」

相手の職業、戦闘スタイルがまったく分からない以上、不用意に近づくことは出来ない。特に、白魔導師のような、直接の戦闘力が低い職業の場合は、な。

近距離を得意とする戦闘職ならば、まず負けてしまう。

とは言え、遠距離からの魔法も駄目だ。

俺の攻撃魔法は火属性のみ。火力だってそんなに出ないし、万が一避けられれば民家に燃え移る可能性が高い。

特にこの街は、すべての民家が木造で、どこか一軒でも燃えたら被害はどんどん拡大していくだろう。

「シリカを起こしにいくか……」

下にいるシリカや他のメンバーを起こせば何とか出来る。

そう思い、俺は下に降りるため距離をとろうとした。

しかし、それに合わせ相手もこちらとの距離を詰めてくる。

完全にバレているな……。

「不味い……」

こんなことなら、気がついた時点で誰かを起こすべきだったと後悔する。

「仕方ない。あれを使うか……」

多少危険をおかすことになるが仕方がない。

俺は賭けに出ることした。

本当はこういうのは、好きじゃないんだがな……。

自身に隠蔽魔法をかける。

そして、収納魔法で調理用の包丁を取り出し、一気に距離をつめる。

バレないように、一瞬で……。

「もう逃げられないぞ……」

相手の背後に回り込み、包丁を首もとに突き付ける。

「おい、お前はいったい何者だ?」

包丁を首に突き付けたまま問いかける。

動いたら、躊躇わずにこの包丁で切るつもりだ。クレアのこれ以上、悲惨な目に遭わせないためにも。最も、それで命を狩れるような相手には感じないが。

しかし、

「いやー、強くなったっすね……。まさか、私の背後に回り込むなんて。私、てっきり仲間を呼びにいったと思ったんすけど……」

男は両手を挙げるものの、どこか楽しそうな、嬉しそうな声でそう言った。

そして、ニヤリと笑う。全てを見透かしたような、余裕たっぷりの不適な笑みで。

「でも、これを見抜けないのようじゃまだまだっすね……」

そう言うと男は俺の持つ包丁をつかみ、自ら首を切った。鼻から殺せるなんて思ってなかったし、故に殺す意思がなかっただけに、動揺してしまう。

自身で切り落とした男の首がコロコロと地面に転がり、気がつく。

「人間……じゃない?」

そこにあるのは、顔のないただの人形の首だった。

胴体の方も服を脱がしよく観察が、やはりただの人形だ。

その体は硬く……そして酷く冷たい。その冷たさが、これが生き物でないことを証明している。

「俺は……人形と相手をしていたということか?」

不思議に思い、俺はその人形を調べようと持ち上げた。

すると、そんな俺の行動さえ見透かしていたかのように、タイミングよく胴体の腹の部分が開き、中からいくつかのポーションが出てきた。

俺は様々な可能性を考慮し、警戒しながらも、ポーションを拾い上げる。

「これ、クレアが飲んでいたやつか?」

色はとてもよく似ている……が、同じものだという確証はない。

後でクレアのと比べてみよう。

また、それと共に何やら手紙らしきものが入っているのに気がつく。

「読んでみるか……」

封に入れられているわけでもなく、ただ無造作に放り入れられていた手紙を読み上げる。

『突然すみません。これ、アベルに言われてた追加のポーションっす。足りないと思って人形に運ばせておいたっす。自身はあるっすが、万が一ってこともあるんで、大丈夫そうか確認してから使ってください。では、五つ目の街でお待ちしています』

五つ目の街、それは俺たちが王都にいくまでに通る、最後の街のことだろう。

つまりこれを書いた奴は、クレア護衛のことを知っている。

作戦も含めて全部だ。

「あっ、これって……」

考えれる可能性はいくつかあるが、たぶん……いや、ほぼ間違いなくアベルが言っていた「優秀な助っ人」がやったのだろう。

だとすればクレアのことや、ここの街を通ることを知っていることには納得がいく。

何故、人形を使ったのかは知らないが……。

それに何より、気になる点があった。

こいつはまるで以前俺にあったかのような口振りだった。

しかも、ずっと昔から。

だが、思い当たる人は俺の記憶の中にいない。

「いったい誰が……」

味方を装った敵である可能性も捨てきれない。

それに、まだ周辺に敵がいる可能性もある。

そんな不安と可能性が頭をぐるぐると回るが、心が落ち着きを取り戻したことで再燃した激しい睡魔が、それら全てを飲み込んでゆく。

流石にもう限界だ。

ここ数日は特に寝れていないからな。

俺はそのポーションと、地面に転がる人形を念の為ロープで縛りつけた後で収納魔法にしまい部屋と戻った。

そしてかなりの範囲で、敵……魔族や不審な動きをする気配がないことを確認し睡眠をとった。

あの男の言葉を信じて。