作品タイトル不明
白魔導師、の余計なお世話①
ダッガスとクロスと話し合った結果、俺は銭湯の裏にある人気のない道を担当することとなった。
実際に行ってみると思っていたよりも人通りがなく、生ゴミの匂いがぷんぷんした。
また、建物と建物の間で、影になっているためじめじめとしている。
あれこれ考えてみたが、この場所を少しでもポジティブに表現する言葉が一つも出てこないくらいには、不快な環境である。
「ユイたちが出てくるまでここにいるのか……」
正直、ここに長居するのは物凄く嫌だが、第二皇女の護衛という、国家絡みの護衛中だからどんな環境であろうと、逃げ出すわけにはいかない。
「臭い……」
正面を見張っているダッガスや、弓を持ち遠くから警戒しているクロスが羨ましい。
俺も裏を見張れと言われたとき、こんな場所だとは思っていなかった。
ダッガスやクロスたちも知らなかったっぽいし、故意ではないだろう。
まぁ……仕方ないな。
ここで見張りを頑張るとするか。
「ふむ」
そんなくだらないことを延々と考えながら、ユイたちが戻るのを待つ。最も接近戦に優れるユイに装備がないという敵にとっての好奇。襲撃に備え、警戒心を高めなくてはならない。そのため感覚を尖らせると同時に、この嫌な空気まで過敏に感じ取れてしまう。
そんな苦痛を耐えながら、待ち初めて十数分が経過した時。
「きゃぁー!!」
銭湯の中からシリカの悲鳴が聞こえてきた。聞き間違えではない。
それを聞き、俺は急いで杖を構え直す。
「なんだ? 襲撃か?」
探知魔法に魔族らしきものはない。
銭湯の中には人の気配が数人あるだけだ。
「まさか、魔族側の人間か!?」
もしかすると操られている人間がいるのかもしれない。いや、雇われたという可能性も否定できないか。
いくら考えても、可能性がひたすらに浮かぶだけであり、真相は分からない。
だが何にせよ、中で何か…。好ましくはない事態が起こっていることは間違いないだろう。
「どうする、俺はシリカのいる銭湯内には入れないし……緊急事態だからありなのか?」
いや、無しだろう。いや、無しなのか?
分からない。ただ、どうしても入るという勇気だけが出ない。その一歩が踏み出せない。
となると出来ることは限られる。
「とりあえず、強化魔法をかけておくか……」
そう思い、俺はユイとシリカに身体強化や防御力上昇などの強化魔法をかけた。壁越しであろうと、気配をはっきりと感知している今、支援魔法をかけるのは容易だ。
俺が魔法を発動し、その数秒後……、
「この……変態!」
ユイの叫び声と共に建物の壁を貫き、この裏路地に男が飛んできた。
「危なっ……!」
咄嗟に横へと飛び、男や壁の破片を回避する。
探知魔法のお陰で、誰かが飛んでくるのは分かっていたが、かなりギリギリだった。だって、まさか人が飛んでくるなんて思っていなかったのだから。
飛んできた男はそのまま向かいの壁へと衝突し、地面に倒れこんだ。
「何が……あったんだ?」
危うく、あの男と衝突するところだった。
飛んできた男は未だぐったりと倒れており、起き上がる様子はない。死んでもいない。
いったい、銭湯の中で何が……。
俺は杖を構えながら、視線を男の飛んできた方向へと向けた。
すると、そこには胸部を左腕で隠しながら顔を真っ赤にするユイの姿があった。
また、その後ろには同じように顔を赤くするシリカやクレアの姿もある。
「あれ……今私、覗き魔を普通に殴っただけ……手加減もしたはず」
ぼそぼそと何かを呟きながら、立ち尽くすユイ。
何かがあったのか聞こうと、俺はユイへと話しかける。
「ユイ、大丈夫か? 中でいったい何が……」
「の、覗き魔がいて、それで……って、えぇぇ!? ろ、ロイド……何でこんなところに……」
顔をさらに赤くしながら、こちらを見てくる。
「いや、不審者がいないか見張りをして……そしたら悲鳴が聞こえたから……」
「わ、分かったから! こっちは大丈夫だから! だから、あっち向いててくれない!?」
咄嗟に壁の後ろに隠れ顔だけ出し、ユイがこちらをじーと見つめてくる。
「だ、大丈夫ならいいが……」
「うん、ぜんぜん大丈夫だから! 早くあっちにいって!」
「そ、そうか……」
ユイにそう言われ、俺は足早にその場を後にした。
そしてダッガスに事情を説明し、銭湯の入り口付近でユイたちが出てくるのを待った。
裏路地の警備は、もう不要だろう。