作品タイトル不明
白魔導師、の初依頼④
宿は街に数軒あったが、その中でも一番大きな、街の中心にある宿に泊まることにした。
出来れば森に近い、小さな宿にしたかったんだが……。
まぁ、仕方ないか。
この宿を選んだのは、ユイとシリカをクレアと同じ部屋にするためだ。
小さい宿では一部屋に二人までしか泊まることが出来ず、その上近い部屋を確保することができなかった。クレアの安全を考慮すれば最適解。しかし、同時に別の不安も芽生える。
と言うのも、ここで魔族との戦闘になれば、街の人を巻き込んでしまう可能性が高い。魔族が来る可能性は決して高くはないが、だからといって楽観視していられる状況ではないのも確か。
こればっかりは、奇襲を受けないことを祈るしかない。
「よし……それじゃ荷物も置いたことだし、早く風呂に行きましょう!」
そう言いながら宿から出てくるユイ……。
少し遅れてシリカとクレアも宿から出てくる。
「あぁ、早く行ったほうがいいかもな……クレアの格好もここじゃ目立つ」
街に入ってからずっと、周囲の人がクレアのことをじーと見ていた。
まぁ……当然だろう。
フードを深々と被った人が複数の男女に囲まれているのだからな。
一応、イシュタルから王都までのルートの途中にあるため、旅人や商人ならばよく来るだろうが、こんな怪しい集団が来ることはそうそうないだろう。俺たちを見る野次馬の中には、どこかのお偉いさんとその護衛ではという、わりかし的をえた推測を立てる切れ者までいた。
それにこの状況……別の意味でも、こちらとしてはあまり良くない状況だ。
ずっと見られていていい気はしないし、何より最悪なのが、不審な人物を見分けにくくなると言う点。
魔族がいれば魔力の違いですぐに分かるが、相手が魔族だけとは限らないし、魔族も対策をしてくるかもしれないしな。
「なぁ、次の街では変装させたらどうなんだ? ほら、耳だって頑張りゃ隠せるだろ?」
クロスが周囲をちらちらと見ながら、ダッガスに提案する。
やはり、周囲の目が気になるのだろう。
「まぁ、確かにそうかもな……」
「あっ、そうだ……目立ちたくないなら、ロイドの隠蔽魔法なんてどうかな?」
「隠蔽魔法? なんだそれは?」
ユイの言葉を聞いたダッガスが首をかしげこちらを見る。
あぁ、そう言えば、ダッガスたちには見せたことはなかったな。この魔法を知るのは、クレアの救出時に居合わせたユイのみだ。
俺は丁寧に隠蔽魔法……レイテントを説明した。
「レイテント……それが気配を消す魔法なのか?」
「あ、あぁ……たぶん、そんな名前だったと思う」
断言は出来ないが、確か隠蔽魔法の正式名称はそんな感じだったはずだ。
長い間無詠唱で続けてきたため、名前の名称さえよく覚えておらず、はっきりと自信を持って答えることは出来ないが……。
師匠は最初にこの魔法を教えた際に、そんなことを言っていた気がする。
「そうか、そんな魔法も使えたのか……」
「別に隠していたわけじゃないんだが、話す機会がなくてな」
今度、俺の使える魔法とその効果について詳しく説明するべきだろう。
こちらとしては味方相手に手の内を隠す理由もないし、ダッガスたちもその方が依頼を上手く進めることが出来るはずだ。
俺が隠蔽魔法の話をしていれば、この街に入る前にそれに気がつけたかもしれないしな。
「今度、俺の使える魔法について説明を……」
「ねぇねぇ、あれ! あれって銭湯じゃない?」
俺の話をさえぎり、ユイは少し先の建物を指差す。
その先に目を向けると、そこには銭湯と書かれた立て札のある建物があった。
「あぁ……そうみたいだな」
どうやら、話している間に銭湯についてしまったらしい。
仕方ない。
この話はまた今度にするか……。時間ならある。つまりは機会もまた来る、はずだ。
「それじゃ私たち先に入ってくるから、周辺の警戒をよろしくね!」
「おい、まだ……」
ダッガスが何かを言おうとしているがそれを無視し、ユイはクレアとシリカの手を引き、足早に建物の中へと向かった。
そんなユイの姿を見たダッガスが呆れた表情でため息をつく。
「たっく、護衛中だってのに……」
「仕方ねぇ……いつものことだろ?」
それに、そんなユイの明るく能天気で、悪く言えば後先考えない性格が、雰囲気をグッと軽くしているのも確かで、そんな姿に俺たちは元気をもらっている。
「あぁ、そうだったな……銭湯に武器は持ち込めない。こうなった以上、俺たち三人で絶対にここを守り抜くぞ」
ダッガスの言葉に俺とクロスは黙って頷いた。