軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

イシュタル防衛③

あれから数時間後。

街と森の間にある少し拓けた場所で冒険者と騎士が作業をしていた。

シャベルや魔法を使い地面を掘ったり、高台を作ったりしている。

「こんな感じでよろしいでしょうか?」

「うむ、これだけあれば十分だ」

騎士の問いにウルゴが頷く。

騎士の目の前の地面には、深い堀が掘られていた。

その堀はモンスターが進行してきている方角にのみ掘られており、深さは三メートル、幅は四メートルほどある。

また、この堀は作りかけのダムへと繋がっていた。

これもウルゴの指示らしい。

緊急と言うことで、ここら一帯を治める貴族にお願いし、使わせて貰うことにしたそうだ。もちろん、説得は娘であるリナを向かわせた。

「あの、本当にこれで大丈夫なんでしょうか?」

「まぁ、時間を稼ぐことは出来るだろう。後は、ユイ達がどれ程早く帰ってくるかにかかっとる」

「そうですか……」

騎士が不安そうな表情を浮かべる。

当然だろう。

リナの意見に反対するものはいなかったが、誰もが不安を抱いているはずだ。ロイドという、よく知りもしない人に命を預けているのだから……

しかし、それでも彼らが逃げることなく、ここに残った。

イシュタルの街を見捨てたくなかったからだ。

お世話になった街の人たちや家族、恋人を守りたいだとか。

あるいは、ここで引いたらあの勇者と同じだと、そういう意地もあるのかもしれない。

そういう様々な願いが、思いが、今のこの状況を作っている。

「どうせ、逃げても間に合わねぇしな……」

高台から森を見ていた冒険者が呟く。

高台にたつ冒険者の視線の先には、モンスターの群れがあった。様々なモンスターが集まった群れがイシュタルへと迫ってきている。

「来ましたよ、モンスターの群れ!」

「分かった……皆、位置につけ!」

全体に聞こえるように、騎士が大声で叫んだ。

次の瞬間。

大きな盾と剣を持った騎士や冒険者が少し間隔を空けながら、堀の近くに立ち並んだ。

その背後では弓を持った人達が構えており、さらにその後ろでは、杖を持つ人たちが待機している。

「弓部隊、撃て!」

騎士の合図にあわせ、後方から大量の矢が放たれる。

放たれた大量の矢は、最前列にいたモンスターの身体に突き刺さっていく。

当然、ここにいる弓使いは全員がプロなわけではない。

モンスターの急所に深く刺さる矢もあれば、浅くしか刺さっていない矢もあった。

もっとも、攻め入ってくるモンスターの数が数だけに当たらなかった矢はほとんどないが……

少なくとも、ダメージを与えているのは確かであり、僅かながらも、モンスターの進行速度が減少するのが分かる。

また、前のモンスターにつまづき、転ぶような奴等まで出てきた。

効果はあったと言えるだろう。

その後、数回にわたり同じ様な動作が繰り返された。

どんどんとモンスターの群れの動きが遅くなっていき、列や群れのまとまりが乱れてくる。

しかし、モンスターの群れの進行が止まることはない。

だがこれも想定の内。

弓矢程度では、群れの進行を防げないなんて容易に想像がつくことだ。

ある程度、接近してきたあたりで、騎士が次の指示を出す。

「次……盾!」

「了解!」

騎士の合図を聞いた、大きな盾を持つ騎士や冒険者が、堀の近くで盾の壁を作る。

その中には片腕ながらも頑張るリナの姿があった。

騎士や冒険者が堀を飛び越えてくるモンスターを盾で打ち落としていく。

堀の底へとモンスターが貯まっていく。

次々とモンスターが落ちていき、堀を少しずつ埋めていく。

「そろそろか……」

堀を見ながら騎士が呟く。

堀はすでに半分ほどがモンスターで埋め尽くされており、底が見えない状況になっていた。

しかも、殺してはいないため、堀の中でもモンスターがうねうねと動いている。

そんな気持ち悪い光景を見ながら、騎士がタイミングを見計らっている。

「よし、魔法部隊……放て!」

「「ファイアーボール!」」

弓使い達の後ろに構える魔法部隊のいるところから何発もの火の球が放たれる。

その火の球は盾を持つ人達の間を通り、堀を飛び越えようとするモンスターに的中する。

そして、そのモンスターは燃えながら堀に落ちていった。

一度、地面から足を離したが最後。今更、回避することはできなかった。

火属性魔法、ファイヤーボール。

初級魔法とも言われており、魔法職なら誰でも使えるような魔法だ。利点としては、命中率が高い、魔力の消費量の少ないなどが上げられる。

また、この魔法は慣れてくれば、一気に何発も放つことが可能となる魔法で、初級とはいうが、実は上級者でも使う便利な魔法だったりもする。

「これでいいんですよね。ウルゴ支部長」

「うむ、作戦通りじゃのぉ」

一連の動作を見ていたウルゴが満足そうに騎士に言う。

確かに作戦は成功していると言えるだろう。

今のところは侵入してきたモンスターも、負傷者もゼロである。

「本当に凄いですね……確かにこれなら時間を稼ぐことが出来ます」

ファイヤーボールが命中したモンスターが燃えながら堀へと落下し、さらに、堀にいたモンスター達にもその火がうつる。

そして次々とモンスター達が、焼け死んでいき、原型をとどめていない死体が堀の底に溜まっていった。

微かに動くものはいるが、先ほどみたく、うねうねと元気よく動くモンスターの姿は見受けられない。

また、火に気がついたモンスター達の足が一瞬止まる。

「よし、後は……ルミ、アンジェ、頼んだ!」

「は、はい!」

「了解です」

堀の端の方で待機していた二人の女性が返事をする。

魔法職のBランク冒険者だ。

今、この防衛戦に参加している中では、トップクラスの魔法職である。

「「アクアウェーブ」」

詠唱と同時に、杖の先から大量の水が流れ出る。

狙うのはモンスターの群れではなく、堀の中だ。

その水が堀にあるモンスターの死体を流していく。

さらに、土も運搬されることにより堀の幅はさらに広くなり、底も深くなっていった。

後はこれを繰り返していくだけ。

それがウルゴの立てた作戦である。

「さて、あとは時間との勝負だな……」

街にあるマナポーションをありったけ、ここに持ってこさせた。

もともと騎士団がもしものために用意していたマナポーションも含まれているが、半分は街の危機と言うこともあり、様々な商店の人達が、無料でくれたものだ。

お陰でかなりの数を用意することが出来た。

だが、数には限りがある。

魔力とマナポーションが切れ、この状況を維持できなくなるのが先か………

魔力が切れた後、ダムの水流を利用できるのも、一度きり。

ユイたちが戻ってくるのが先か……

どちらに転んだとしても、おかしくはない。

「頼む……戻ってきてくれよ」

騎士がごくりと唾を飲み込んだ。