軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

イシュタル防衛①

アレンらが出ていった冒険者ギルドはしんと静まり返った。

皆、ああは言ったものの、この先どうすればいいのか分からず、困惑していた。

「おい、俺たちどうすりゃいいんだよ……」

「勇者パーティーの奴等、逃げちまったぞ」

「三万のモンスターの群れなんて、私たちじゃ到底倒せないわよ」

冒険者たちがざわつき始める。

彼らは街を守りたいという意思で集まった冒険者達だ。しかし、自分達の力だけではどうにもならないことをよく理解している。

なら、何故彼らがこの依頼に参加したのか。

それは、勇者がいたからである。

勇者とは、国からの特別な依頼を受け、モンスターの脅威から国を守る者と認識されており、この大陸にある、王国、帝国、聖教国の三つの大国の最高戦力とされている者のことだ。

そんな四人のうち一人が自分達の街を守るために共に戦ってくれる。

冒険者達は騎士からそう聞いていたから、今回の依頼に参加することにしたのだ。

しかし、

「ってか、あんなのが勇者なのかよ」

「なにあれ、めっちゃ弱いじゃん」

「噂では氷晶の勇者を超える最強の勇者だって聞いたんだけど……」

目の前に現れた勇者は、自分達の思っていたような勇者ではなかった。

冒険者達の不安が高まる。

「なぁ、王国騎士団……聞いていた話と違うんだが」

冒険者の男が、騎士たちに説明を求める。

「すまない、我々もまさか勇者があんな奴だったとは思っていなかったのだ。我々が以前、戦闘を見せてもらった時は、確かに強力だったし、連携もとれていた。それに、作戦も見事なものだった。それなのに、何故……」

先程、アレンを突き飛ばした騎士団のリーダーと思われる人が頭を下げる。

またそれに続き、後ろの十数名の騎士達も頭下げた。勇者が参加するからと、冒険者を鼓舞したことに対してお謝罪。

彼らもまた、この事態を予測していなかった。

騎士と勇者が会うのはこれが初めてではない。

騎士団の中には勇者パーティーの戦闘を何度か見た人だっていた。

当時の勇者パーティーは、見事な連携を見せており、その姿は紛れもなく勇者だった。

だからこそ、騎士達も何が何だか分からないでいたのだ。

「勇者パーティーにいったい何が……」

その時だ。

冒険者ギルドの扉が勢いよく開かれる。

そこには、鎧を纏った片腕の一人の金髪の女性が立っていた。

「リ、リナ様ですか?」

その女性を見た騎士が尋ねる。

「あぁ、そうだ。私も微力ながら参加させてもらいたい」

リナはそう言うと、深々と頭を下げた。

背中には盾を背負っており、その装備からはリナが戦いたいと本気で思っていることが分かる。

「し、しかし……」

騎士の視線がリナの左手に向けられる。

騎士だけでなく冒険者も、いや、街の誰もがリナが左手を失ったことを知っている。

リナが以前のようには戦えないのは、誰が見ても一目で分かる。

それは、リナ自身もしっかりと理解していた。

「皆の思う通り、私はもうあの頃のようには戦えない。戦力になるかも分からない。だが、皆の壁になることぐらいは出来ると思う。だから、頼む……私を一緒に戦わせてはくれないか?」

リナはそう言うと頭を下げた。

冒険者達が見合わせる。

「まぁ、別にいいんじゃねぇか?」

「そうね。私、リナさんは結構凄い盾使いだって聞いたことがあるわ。片腕がなくてもきっと、強いわよ」

肯定的な意見が冒険者たちから上がる。

また、騎士達も……

「我々としても是非、ご協力願いたい」

「あぁ、リナ様がいれば百人力だ! あんな勇者よりも絶対に戦力になる」

騎士達からも肯定的な声が上がった。

実際、リナは強い盾使いであり、この一年鍛錬も怠っていない。片腕がない分、大きな弱体化は避けられないが、それでも期待してしまうのは、その前の裏切りのが大きかったのもあるだろう。

自分の参加を認めてくれたことに、リナが再び、頭を下げる。

「すまない……迷惑かもしれないが、よろしく頼む」

「あぁ、こちらこそよろしく頼む。だが、リナ様も無理はしないでくれ。もし、我々にも手伝えることがあれば言ってほしい」

「そうかでは早速ですまないが……騎士の方々は、ロイドと言う男を知っているか?」

リナが騎士団に尋ねた。

「ロイドと言いますと……つい先日、勇者パーティーを追放されたという白魔導師の?」

「あぁ、そうだ」

「彼がどうかしたのですか?」

騎士が首をかしげる。

「あれからしばらく、考えたんだ。わたしたちが弱くなった理由を。そして気がついた。勇者パーティーが依頼を成功し続けることが出来たのは、勇者であるアレンのお陰でも聖女であるシーナのお陰でもない。白魔導師のロイドがいたからなんだと、今ははっきりと思える」

「そ、それは……」

騎士達もそう言われ、ふと気づく。

確かに、勇者パーティーが依頼を失敗する前まではロイドがいたと言うことを……

きっと忘れていたのだろう。

支援職は戦場でも、ずっと後ろにいるため意外と目立つことがない。

しかも回復職とも違い、目に見えないサポートをすることがほとんどだ。

有名なパーティーでも、いざ聞かれると、支援職の人の名前だけが知られていないことだって多々ある。

「そう言えばあの時、指示を出していたのはロイドさんでしたね……」

騎士の一人が、後方から冷静に現状を把握し、指示を出す記憶を思い返しながら言う。

「あぁ、そうだ。今思えば、依頼の前にアレンの作戦を修正していたのはロイドだった。きっと彼がいたから、勇者パーティーは失敗しなかったんだ。なのに、私はそんな彼に酷いことを……」

リナの握られた右手に力が込められる。

そんな中、リナの話を聞いていた冒険者の一人が手を上げる。

「あ、あの……」

「ん? なんだ?」

「い、いえ。そう言えば数日前にSランク冒険者のユイさんがロイドって言う白魔導師を連れてきたんですけど……」

「そ、それは本当か!? 彼は今どこに……」

「彼は、数日前にユイ達とともに遠くの農園のハイウルフ討伐という依頼を受けとる」

冒険者ギルドの奥の部屋から、1人の老人が出てくる。

この冒険者ギルドの支部長、ウルゴだ。

「そ、それで、彼はいつ戻るんだ?」

「うむ……ユイ達が向かった農園は、移動だけでも数日はかかるからのぉ」

それを聞いたリナは、ほっと息をついた。

もしかすると、例の件で嫌気が刺し、もうイシュタルにはおらず、二度と戻ってくるとはないと思っていたからだ。

しかし、依頼で街を留守にしていると言うことは、帰ってくるということ。

「つまり、彼はこの街に戻ってくるのだな?」

「うむ、そうじゃが……」

「よし……ならば、なんとかなるかもしれない」

それを聞いたリナがぼそりと呟く。

何か考えがあるのだろう。

そんなリナの様子を冒険者や騎士が不思議そうな顔で、眺めていた。

「皆、反対してもらってかまわない。その上で私の話を聞いてはくれないだろうか?」