軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

白魔導師、と獣王祭 2日目!

『さぁ、始まりました! 獣王祭のメインイベント! 今回はなんと、先日魔王軍から帝都を守った英雄に、我らが帝国の誇る最高戦力……五隊長が二名も出場いたします!』

司会の女性が拡声の魔道具で会場を煽る。並べられた言葉はどれも、すでに周知のことだと言うのに、会場内は盛り上がりに包まれた。

熱気の湧き上がる客席。

広く、数多い一般席は満席……場の雰囲気を存分に楽しむにはむしろ向こうの方が最適かもしれないが、落ち着いて試合を見たいのであれば、特等席の方が圧倒的に良いだろう。改めてこの特等席で見られることを感謝する。特等席は比較的人口密度が低く、椅子も若干座り易かった。

これで、バイオレットの件がなければ最高の三日間だったかもしれないと、苦笑をこぼす。

『さて! 今回のトーナメント戦はまず、今日と明日の二つの部に分かれて行われます! そして、そこで勝ち上がった二名ずつ……計四名が四日目に戦うことになります!』

ガオンは獣王祭二日目の今日の部で、残念ながら同じ部のムラサキとは今日は当たりそうにない組み合わせだった。

今日も様々な猛者が出場するものの、割とガオンとムラサキの二人勝ちだろうと、そう予想がついてしまっているのは、大会としてはどうなのだろうかと、若干思うところはあった。

そう言う意味では、明日の部の方が見応えはあるかもしれない。明日は 弓将(きゅうしょう) ルシカが出場するが、もう一名、誰が勝ち上がってくるかは予想がついていない。それにルシカは得意の弓は、この試合においては不利な武器といえよう。

まぁ、明日はムラサキの行動次第では、俺は試合を見れないんだけど。

そして四日目の午前に準決勝が、午後に決勝が行われる。

そうして優勝者が決まるわけだ。

俺の左隣はワクワクと心躍らせるアイラが座っており、右隣は空席となっている。ここはガオンの席で、明日はここで試合を見るのだろう。

「そうだ! ロイド、あーしと賭けしない? 優勝者を当てた方が、最終日、飯を奢るって!」

「先に聞いておくが、誰にかけるつもりなんだ?」

「それは勿論、ガオン一択でしょ!」

なるほど。残念ながら、賭けは成立しなさそうだ。

賭けによっては、あえて一番人気を外すこともあるが、このたった二人っきりで、しかも飯をかけた賭けではガオン以外を選ぶ利点はない。

だが、そうだな……。

「なら、これならどうだ? ガオンが優勝するか否か」

これならまだ、賭けとして成立するだろうと、なぜかそんな気がした。それは未知への根拠のない期待から出た錯覚かもしれないし、あるいは先日のスミレの意味深な言葉を信じたからかもしれない。

「そうね、じゃないと賭けになんないし……で、ロイドはどっちなわけ?」

「ガオン以外で」

俺の選択に、アイラは驚き目を丸くした。

「えっ、普通ガオンでしょ? なんでそう思うわけ?」

「別に、ただの勘だ」

そこに理屈のようなものは一切なかった。本当に、ただの勘だ。

よほど俺の選択が意外だったのか、アイラは驚きながらも「あーしはガオンね」と選択した。

そんなことをしている間に、司会による細かなルール説明が始まった。

今回の試合、承認を受けさえすれば私物の武器を自由に持ち込むことができる。毒物やあまりにも殺すことに特化した武具は禁止だが、剣や槍は基本的に持ち込める。弓も、毒矢などでなければ可能だ。

杖も大丈夫……つまり魔法可なわけだ。

通常、こんなルールはあり得ないが、今大会では魔将と鎧将が近くで控えており、万が一危険と判断した場合は直様介入するよう準備が整っている。帝国軍屈指の回復魔法の使い手も会場に在中しており、体制は万全だ。

無論、参加者もあからさまな殺傷行為は禁止と言われ、例えば心臓や首を狙う攻撃が見られれば即刻失格となる。

『敗北条件は、本人の宣言! あるいは審判の判断になります!』

だから今大会、勝つためには相手を効率的に殺すことではなく、いかにダメージを与えるか、どこでもいいからいかに攻撃を加えるかが重要となる。

普段なら狙う優先度が低い部位が今回は重要になるわけだ。

『それと、入場時にも説明があったと思うけど、流血とか、そういうのが苦手な方は自己責任でお願いします!』

こうして、念のためのグロテスク注意の旨を伝えたのち、一試合目開始の準備が始まった。

『さて、まず第一試合は……話題の帝都の英雄ガオンと、帝国のSランク冒険者ニグルド!』

緑の短髪に浅黒い肌のこの獣人の男は、帝国では有名な冒険者出そうだ。初見には威圧感を与えやすいチャラい見た目に反し、真面目な性格をしており、評判はかなり良い。

そんなニグルドでさえ、ガオンを前には苦い笑みを浮かべていた。

「まさか、一試合目から噂のあんたと当たるとはね。幸か不幸か」

ニグルドの目的は、腕試し。噂の英雄、帝国最強の五隊長。彼ら相手に自分の腕がどこまで通ずるかを試すものであり、鼻から優勝は狙っていなかった。

そんな彼にとって、初戦からガオンと当たることは幸運でもあり、同時に他の猛者とは戦えないと言う点では不幸な組み合わせだった。

『それでは、互いに準備が整ったようなので、試合を始めさせていただきます!』

次の司会の一言で試合が始まる。

会場は緊張に包まれ、その一言を待ち、静まり返った。

そして試合開始の合図がなり、ニグルドが先に動きを見せた。

ニグルドの武器は槍だ。

剣と比較し、間合いの計りにくく、リーチの長い槍にガオンはど対処するのか。殺傷禁止のルールがあるが故、どこを狙うか逆に予測が難しい中、

ニグルドが一般客には目で追えないほどの速度で放った、肩を狙った一撃。

「なっ……」

ガオンは槍の先端を器用に握り、攻撃を受け止めていた。

ニグルドは槍を引こうと腰を入れるが、びくともしない。

「っち」

通常ならこれで終わるところだが、流石はSランク冒険者。機転を効かせ、槍を引き抜くのを諦め、動かないことを逆手に、腕力で体を引き寄せることでガオンとの間合いを一気につめる。

そしてガオンの顎先を狙い蹴りを繰り出す。

しかし、

「っ……これも避けるかよ」

ガオンは僅かに顔を逸らし、蹴りを避けていた。槍使いが唐突に放った蹴りを、平然と回避する様を見て、苦い笑みをこぼすニグルド。

実力に圧倒的な差がある。

「悪くはない……が!」

ガオンは掴んだ槍の先端を握り潰し、放り投げた。

そのまま、握りしめた拳をニグルド目掛け振るう。

辛うじてニグルドは両腕で防ぐが、拳から伝わる威力に負け、大きく後ろへと吹っ飛ばされた。

「痛っ……一撃でこれとか。バケモンか?」

腕は内出血しており、痛々しい様だった。

槍も壊され、両腕に深い負傷を負ったニグルドはため息をつきながら両手を上げ、敗北を宣言した。

「俺の負けだ」

「いいのか?」

「元々、勝てると思っちゃいないんだ。ただ、帝都の英雄の力を味わってみたくてね。だから十分だ」

そう、急ぎよく敗北を認めた。

ニグルドも決して弱くはない。それこそ、五隊長に準ずる力量はあるし、時代によっては五隊長入りも出来る力量がある。そんな彼でさえ、ガオンとの間には埋めることの不可能な差があった。

それ故の、あまりにも呆気ない試合に、会場は少しの間静まり返っていた。

理解ができないのだ。ただでさえ、理解の難しいニグルドの神速の如き突きを、平然と受け止めたガオンという人物が。

そんな中、審判を務める魔将が拍手を鳴らした。

それに釣られるように拍手が広がり、無事、第一試合は終了した。

「いや、本当に凄すぎでしょ。ガオン」

隣でアイラがやや引き気味にそう語った。彼女だって十分な強者だ。そんな彼女をドン引きさせるガオン。

帝国が、彼女を欲する理由を十分に見せつけた一戦だった。

「これはあーしの賭けの勝ちじゃない? あれ、ムラサキでもきついでしょ?」

「そうかもしれないな」

勝利を確信し、嬉しそうな顔でコチラを見るアイラ。今からもう、俺に何を奢らせるか考えを膨らませているようだった。

というか、これ多分、一品とかじゃないな。

一方、俺はムラサキと名前を出され、今朝のことを回想していた。

今朝のことだ。

俺は会場に先入りし、そこに控えていた魔将クラウディアにバイオレットから聞いたことを、情報元だけぼかし伝えた。当然、クラウディアは引っかかっていたが、こちらの事情も汲んでか、情報元に関しては深く聞いてはこなかった。

「ふむ……ムラサキを狙う、か」

クラウディアは顎髭を撫でながら、何かを考えている。

クラウディアも初めて聞いた時の俺と同様、イマイチしっくり来ていないようだった。そりゃそうだ。帝国の最高戦力を暗殺する……それが難しい相手だからこそ、彼女は帝国の最高戦力と称されているのだ。

「一人、名を馳せた暗殺者がおるが、彼とて万全のムラサキには敵わないだろうし」

「だから試合終わりを狙う可能性があると、こっちは考えてる」

要注意なのはやはりガオンとの一戦だろう。

ムラサキが勝つ可能性はあるものの、無傷での勝利はあり得ない。そこが、暗殺を試みるものたちにとっては狙い目となるだろう。

しかし、そのために取れる対策は意外にもない。

「これだけの観客、不審者が一人二人紛れ込んでも、止めるのは現実的じゃないのぉ。特に向こうがプロなら尚更」

今大会、観客が見に来ているのは何もガオンだけではない。帝国の、自らの住まう国の最高戦力を見てみたいという観客も多い。そんな中、その最高戦力が命を狙われているのでやめます、あるいは制限しますは、格好がつかない。たかだか暗殺者如きには屈していられない。

それで、ムラサキの近辺でできることはないかとのことだったが、これもなかった。なにしろ、すでに五隊長のうち二名と帝国一の回復魔法の使い手が、控えているのだ。

これ以上の警備はないだろう。

取れる対策がない、と言ったがこれはある意味、実行できる最大限の対策がすでに講じてある証でもあった。

「会場、しかも試合場のすぐ側に五隊長二名がおる。それも踏まえると、やはり厳しいと思うが」

クラウディアの考えに俺も頷く。それは昨日、話を聞いてから俺が考えたこととほぼ同じだった。会場に忍び込み、ムラサキが弱ったところでその首を狙うのは、あまり現実的ではない。

だから、

「自分なりに考えたが、おそらく、直接ムラサキの首を狙うような真似はしないだろうと思ってる」

「ほう? というと?」

「これは例えばの話になるが。ムラサキと関わりのある人物を人質にする、とか。そう言う手段をとってくると思うんだ」

「ふむ……ムラサキと関わりがある、か」

その言葉にクラウディアは難しい顔を浮かべた。

「人質になるとすれば唯一、彼女の妹くらいではないかのぉ。それ以外は、あまりにも人質としては強すぎる。もし、主犯が名家の連中なら、人質になることもなかろうし……そもそも、同じ名家とて人質にはならんか」

そして、その妹にはスミレがついている。

剣の名家も、同じ一家のくくりとは言え、内部ではバチバチ。そもそも彼らが依頼したことも踏まえると剣の名家から人質が選ばれる可能性はほぼほぼない。

「あくまでも例えばの話です。こういう、回りくどい方法でムラサキを狙ってくるんじゃないかっていう」

「いや、確かにそうじゃろうな。真っ当に本人を狙うとは、考えない方が良いかもしれん」

他にもいくつかの考えられる線を話しておいた。

無差別に観客を人質に取る可能性。

皇帝含む、皇族を人質にする可能性。

そしてもう一つ。最も恐る可能性は、

「例の魔族を解放する可能性」

「……ありうるのう」

通常なら、疑う必要のない線だ。いくら魔族を解放したとて、彼らが律儀に約束を守るとは限らない。しかし、あの魔族は契約の魔法を持つ。

「この件は 鎧将(かいしょう) とのみ、共有させてもらう」

「ムラサキには伝えないのか?」

俺の思惑とは反するクラウディアの意見に、疑問を唱える。

「うむ、ルシカにもな。悪いが、彼女らには試合に集中してもらいたい」

「何も、そこまで大会に拘らなくても……」

そういう事態じゃないと、そう言おうとするも、俺はクラウディアの真剣な面持ちを見て、言葉を飲み込んだ。彼はこの大会での勝利を、下手をすれば何を差し置いても重要だと考えているように見える。

「そこまでの局面なのじゃよ。王国と帝国、聖教国は魔族らに激しい攻撃を受けた。幸い、なんとか防げはしたものの、どちらも解決に大きく尽力したのは、ロイドやガオンという余所者だ。その国も持つ戦力ではない」

俺はともかく、これまでの事態にユイやガオンが大きく関わり、尽力したことは否定しようもない事実だった。王国騎士も、帝国軍も、聖騎士も、彼らの力だけでは解決に至れていない。被害ももっと拡大したいたことだろう。

「今、帝国軍は新たな戦力を欲している。なんとしても、ガオンを引き入れねば困るのだよ」

「その結果、ムラサキが死んだとしても?」

「安心せい。死なせはせん」

強い眼でそう断ずるクラウディア。その瞳には、自分を犠牲にしてでもムラサキは守るという、強い覚悟が見て取れた。

「それに、伝えはせんが対策は講じる。詳しくは後々、伝える」

「……分かった」

俺がとやかく言ったところで、クラウディアの意志は揺るがないだろう。

それくらい強い瞳だった。

伝えることは伝えた。それにクラウディアも暇ではない。これから大会に向け、色々やらねばならぬ事も多いだろう。

だから立ち去ろうと踵を返したところ、クラウディアに呼び止められた。

「なんだ? まだ何か」

振り返るとクラウディアが深々と頭を下げていた。

「クレアの件では助かった。感謝する。帝国軍のトップとしても、個人的にも……本当に、ありがとう」

その言葉を受け取るべきは俺であっているのか。

しばし悩んだ末「どういたしまして」とだけ言葉を返し、その場を立ち去った。