軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

仲間が来る日

現実。六月最初の土曜日。

冬夜は駅前の定食屋で蓮と昼飯を食べていた。生姜焼き定食、いつものだ。

「ゼミ発表、第二回の準備はどうだ」蓮が聞いた。

「教授に『サンプル数を増やせ』と言われたから、他のプレイヤーの移動ログも収集してる。匿名で協力してくれるプレイヤーが三十人ほど」

「フォーラムで募集したのか」

「『移動データの学術利用に協力してくれる方』と書いたら、意外と集まった」

「お前のファンだろ、それ」

「ファンじゃない。データ提供者だ」

「ファンだよ。お前が思ってる以上に、お前は人気がある」

「……生姜焼き、もう一枚もらえるか」

「話を逸らすな」

「逸らしてない。腹が減ってるだけだ」

「宮瀬と同じこと言ってたぞ、お前。生姜焼きで話を逸らすの、二人の共通言語なのか」

「……否定はしない」

午後。BCOにログイン。

今日は、いつもと違った。

始まりの町の広場に、ハル、ミコト、ゼクスが待っていた。

「師匠!」ハルが手を振った。「綻びの大地に行きませんか? 部分的にモノクロだったり、景色も寂しいところなので、ソロはちょっときつくて……」

「わたしも、一緒に行きたいです!」

ミコトも手を上げた。

「俺も興味がある」ゼクスが腕を組んでいた。「お前が一人で探索してる間、こっちも同じくらいに進めておいた。要領は分かってる、力になれるだろう」

タマキがトワに向かって微笑んだ。

「みんな、トワさんと行くのを待ちきれなかったんですね」

「そんなことないだろう」

「いいえ、トワさんは人気者ですからね」

「……ところで、変動耐性の薬は配ったのか」

あからさまな話題逸らしだったが、タマキはあえて笑って流した。

「配りました。全員分あります」

「なら、行こう」

六人で星花の里に転送して、地下の扉を降りた。

錆びた草原に出た。ハルとミコトが同時に声を上げた。

「うわ、草が金属です!」ミコトが草に触った。「カチカチする……すごい質感」

「現実にあると、歩くだけで大けがしそうですね」ハルがメモ帳を開いた。

ゼクスは周囲を見回した。

「ステータスが微妙に揺れてるな。±5%か。変動耐性の薬を飲んでるから気にならないが、薬がなかったら戦闘に支障が出る」

「安定化する前は±10%だった。ほころびの近くでは±30%になる」

「それをLv1でやったのか、お前は」

「Lv1だから変動幅が小さいんだ。Lv90の方がきつい」

「……相変わらず、Lv1を武器にしてるな」

プレイヤーが何人か、トワたちに気づいて手を振ってきた。錆びた草原はもう立派な狩場になっている。鉄草獣を狩っているパーティがいくつもある。

「トワさーん! 今日はお仲間と一緒ですか!」

「ああ、今日は主に案内だ」

「すげえメンバーですね。PvP一位のゼクスに、大人気配信者ミコトに、旅人の集いのリーダーハルだ」

ミコトが嬉しそうに手を振った。

「今日も配信中です! よろしくお願いします!」

ハルがメモ帳に書いていた。「プレイヤー数、目視で約四十名。パーティ編成は前衛二、後衛一が主流。鉄草獣の狩り効率は……」

「ハル、データ収集はあとでいい。先に見せたいものがある」

「先に見せたいもの?」

「ついてこい」

四つの修復済みエリアを駆け足で通過した。

錆びた草原を抜けて、根冠の森を通り、鏡映の湖を渡り、虹砂の砂漠に入った。ハルとミコトは各エリアで立ち止まりたそうにしていたが、トワが「帰りにゆっくり見ろ」と言って先に進ませた。

虹砂の砂漠の奥。虹色に輝く砂の向こうに、赤い石の門が見えてきた。

ゼクスが足を止めた。

「何だ、あれは」

「境界門。色が戻って初めて見えた構造物だ。安定度80%で起動する。この先に、紡ぎ手の領域がある」

ハルが門の前に立った。金色の文字を読んでいる。メモ帳に書き写している。手が震えている。興奮しているらしい。

「『この先は紡ぎ手の領域です。資格なき者の立ち入りを禁じます。門を開く条件:安定度80%以上』……師匠、これは大発見です」

「大発見というか、修復してたら見つかっただけだが」

「それが大発見なんです! 修復しなければ見えなかった。色がなければ見えなかった。トワさんが四つのエリアを直したから、この門が姿を現した。他の誰にもできなかったことです」

ミコトがカメラを門に向けていた。

「配信のコメント、すごいことになってます」

「何て言ってる」

「読みますね。『紡ぎ手の領域!?』『やばい、ラスボスの匂いがする』『安定度80%であと15%。残りのエリアを修復すれば届くのか?』『大型レイド確定だろこれ』『トワが全部一人で見つけてるの、もう笑うしかない』」

「一人じゃない。俺にはタマキがいる」

「ちょ、ちょっと……トワさん!」タマキが頬を赤らめていた。

「焦ることはない、本当のことだ」

タマキが照れ隠しにほっぺたを丸くしてる。

ゼクスは門の表面に手を触れた。影潜りで門の内部を探ろうとしたが、手が弾かれた。

「入れない……『紡世者』の封印か」

「安定度が足りないんだろう。あと15%」

「残りのエリアを修復すればいいんだな」

「まだ赤い領域が糸読みに見える。少なくとももう一つ、未修復のエリアがある」

セレスがトワの肩の上で門を見上げた。

「トワ。このもん、おおきい」

「大きいな」

「むこうに、なにがある?」

「わからない」

「わからないのに、いく?」

「わからないから、行く。旅人はいつも、そういうものだ」

「うん。セレスも、そういうもの」

メブキが地面に降りて、門の根元で双葉を広げていた。

「このもんのねっこ、ふかい。この世界でいちばんふかいところまで、つながってる。この先には、この世界のいちばんだいじなものがある」

「一番大事なもの、か」

「めぶきには、そうかんじる」

ルーナが影の中で静かに言った。

「……トワ。この門を開けたら、たぶん後戻りはできない。覚悟はしておいた方がいい」

「後戻りが必要だったことは、今まで一度もない」

「……そうだったね」

六人で門の前に並んだ。トワ、タマキ、ハル、ミコト、ゼクス。そして精霊四体。

「次のエリアを直せば、この門が開く」トワが言った。「準備ができたら、行く」

「ぼくたちも手伝えることがあるなら、言ってくれ」ゼクスが言った。

「タマキの変動耐性の薬を量産してくれ。門の向こうに行く時、大人数が必要になるかもしれない」

「新レイドか」

「たぶん」

「楽しみだな」

「ああ……」

虹砂の砂漠に、六人の影が伸びていた。赤い門が夕日を受けて、金色の文字を光らせている。

あと一つ。あと一つ直せば、門が開く。