軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

色が戻る日

ノーネの案内で、砂漠の奥に着いた。

ほころびの前には砂影が十体ほど群がっていたが、タマキが素材を投げて色をつけ、トワが片端から斬り伏せた。四十秒で全滅。三つのエリアを越えてきた二人の連携に、もう無駄はなかった。

ノーネが感心したように呟いた。

「二人で一つの戦い方をしているんだね」

「タマキのおかげだ。色をつけるのが速い、おかげで直ぐに倒せる」

「いい仲間だな」

ほころびの修復に入った。四回目だ。綻びの外套の効果もあり、集中から完了まで三分もかからなかった。

【ほころびの修復が完了しました!】

【エリア名を復元しました:「色なき砂漠」→「虹砂の砂漠」】

色が、戻った。

灰色だった砂が金色に変わった。空が群青色に染まった。太陽が黄金色に輝いた。そして砂の一粒一粒が、光の角度によって違う色を見せ始めた。虹色の砂漠。本来のこの場所の姿だ。

ノーネが立ち尽くしていた。

「……これが、この砂漠の色か」

ノーネの外套も色を取り戻していた。深い藍色。髪は砂色。目は琥珀色。

「覚えていなかった。色を。全部忘れていた」

「思い出せたか」

「……ああ、思い出した。この砂漠は虹色だった」

ノーネが自分の足元を見た。金色の砂に、自分の足跡が残っている。

「わたしは、まだ歩く。止まれるようになったけど、歩きたいから歩く」

「いい理由だな」

「あなたも、歩き続けるのだろう。また会える。歩いている者は、いつかまた会えるから」

ノーネが手を振って、虹色の砂漠の奥に歩いていった。

その時、セレスが叫んだ。

「トワ! あれ!」

セレスがトワの肩から身を乗り出して、南の方角を指差した。

色が戻ったことで、今まで見えなかったものが見えていた。

モノクロの時には灰色の砂丘にしか見えなかった場所に、巨大な構造物があった。砂に半分埋もれた、赤い石の建造物。門のような形をしている。高さは十メートル以上。門の表面に、金色の文字が刻まれている。

モノクロの世界では、赤い石も金色の文字も、全て同じ灰色に見えていた。色が戻って初めて、その存在がわかった。

「あれは何だ……」

トワが見聞録でスキャンした。

【構造物を検知しました】

【名称:境界門】

【状態:休止中(安定度不足)】

【この門は、綻びの大地の更に奥へ続く通路です】

【安定度が一定以上に達すると、起動します】

【現在の安定度:65%】

「安定度が65%に上がってる。さっきまで48%だったのに」

「トワさん、四つ目を直したから一気に上がったんですね」タマキが画面を見た。

「そしてこの門は、安定度がもっと上がると起動する。この先にまだ何かがあるということか」

メブキが双葉をくるくる回した。

「くるくる……あのもん、ねっこがすごい。ふかいところから、ふとい根がのびてる。この世界のいちばんふかいところに、つながってる」

「一番深いところ……」

ルーナが影の中から静かに言った。

「……トワ。この門の奥の空気は、今まで修復してきたエリアとは質が違う。もっと濃い。もっと古い。この世界の【核に】近い場所に繋がっている気がする」

「核、か」

門の金色の文字を読んだ。

【この先は、紡ぎ手の領域です】

【資格なき者の立ち入りを禁じます】

【門を開く条件:安定度80%以上】

「安定度80%。あと15%だ」

「残りのエリアを修復すれば届くかもしれません」タマキが言った。

「ああ。まだ先がある」

セレスがトワの肩の上で門を見上げた。

「トワ。あのもんのむこうに、なにがある?」

「わからない。行ってみないとわからない」

「いつもの、やつ」

「いつものやつだ」

「セレスも、いく」

「ああ。一緒に行く」

砂漠を出た。修復済みのエリアを戻って、星花の里の地上に上がった。

岩陰に座って休憩した。虹砂の砂漠が遠くで光っている。色が戻った砂漠は、遠くから見ると虹色の帯のようだった。

タマキが水筒を出してトワに渡した。

「お疲れ様です、トワさん」

「タマキもな。今回はタマキの戦い方が光ってた」

「素材をぶつけるだけですよ」

「ぶつけるだけで、砂影たちを無力化したんだ。十分過ぎるほど、役に立ってる」

「……嬉しいです。わたし、いつも後ろで薬を作ってるだけだと思ってたから。前に出て、一緒に戦えたのが」

「一緒に戦ってたのは最初からだぞ。後ろにいても前にいても、頼もしいと思ってる」

タマキが黙った。水筒を両手で包んで、トワの横顔を見ていた。

「トワさん」

「なんだ」

「今のって、ゲームの中の話ですか。それとも……」

「……なんだか、喉が渇いてきたな」

「あっ、話を逸らしましたね」

「逸らしてない。本当に喉が渇いてる」

「嘘が下手ですね、トワさんは」

セレスがトワの肩の上でぼそっと呟いた。

「トワとタマキ、なかよし」

「仲良しじゃない、普通だ」

「ふつうじゃない。ふたりとも、みみがすこしあかい。セレスには、よくみえる」

タマキが自分の耳を押さえた。トワは回復役を口にした(HPは減ってないのに)、耳には触らなかった。

メブキが地面から顔を出した。砂漠のエリアを出たから、地面が土に戻っている。

「くるくる……つち! やっと、ふつうのつち。めぶき、つちがすき!」

「モノクロの砂漠は居心地が悪かったか」

「いろがないのは、さみしかった。でも、いろがもどった! めぶきの双葉も、みどり!」

メブキが嬉しそうに土の上を転がった。双葉がぴこぴこ揺れている。

パーティチャットが鳴った。

ハル:「師匠、運営から全体通知が来ましたよ」

トワがシステムメッセージを確認した。

【BCO運営チームからのお知らせ】

【「紡ぎ直しの大地」の安定度が65%に到達しました】

【修復者:旅人トワ】

【安定度の上昇に伴い、修復済みエリアへの一般プレイヤーのアクセスが拡大されます】

【新たな狩場、素材、NPCをお楽しみください】

【安定度80%到達時に、特別イベントが解放されます】

ゼクス:「安定度65%。80%で特別イベント。あと15%だな」

ダリオ:「特別イベントって何だろう。大型レイドか?」

ハル:「『紡ぎ手の領域』って門が見つかったらしいですよ。師匠が発見したんですか?」

トワ:「砂漠に色が戻って、初めて見えた門だ。安定度80%で起動する」

ミコト:「紡ぎ手の領域! 響きがすごい! 配信映えしそうですね!」

ゼクス:「お前はそれしか考えてないのか」

ミコト:「配信者ですから!」

セレスが門の方角を振り返った。虹色の砂漠の向こうに、赤い門の輪郭がうっすらと見えている。

「トワ。あのもんのむこうに、つむぎてがいるの?」

「わからない。だが、行ってみないとわからないことは、歩いて確かめるしかない」

「セレスも、あるく。トワのかたで」

新しい門が見つかった。紡ぎ手の領域。安定度80%で起動する。

あと少しだ。