軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

「手紙」

運営の告知から一週間。

フォーラムでは毎日のように「旅人ナーフ」の憶測が飛び交い、BCO全体がピリピリした空気に包まれていた。「旅人の集い」のメンバーたちは動揺し、SNSでは「#旅人を守れ」というハッシュタグまで生まれていた。

そして──アップデート当日。

冬夜はログイン前にスマホで公式サイトを開いた。アップデート内容が公開されているはずだ。

公式ページ。トップに、長文の告知が掲載されていた。

でも、それはパッチノートではなかった。

BCO開発ディレクター「カガミ」の署名入りの声明文だった。

【BCO開発ディレクター・カガミより、全プレイヤーの皆様へ】

「まず、お詫びと感謝を申し上げます。先日の『旅人クラスのバランス調整』という告知が、多くのプレイヤーの皆様にご不安を与えてしまいました。説明が不十分だったことをお詫びいたします」

「結論から申し上げます。旅人クラスのナーフ(弱体化)は行いません」

冬夜の目が止まった。

「旅人クラスは、BCOの開発初期から存在する最も古い職業です。このクラスを設計した時、私たちは一つの思いを込めました。『もし、このゲームを最後まで歩き続けてくれるプレイヤーがいたら。そのプレイヤーには、何を贈ればいいだろうか?』」

「旅人のスキルは、意図的に曖昧な説明文にしました。効果を隠し、条件を厳しくしました。それは、旅人となったプレイヤーが、自分の足で発見する喜びを大切にしたかったからです」

「正直に申し上げます。私たちは、旅人を二年間使い続けるプレイヤーが現れることを、半分は期待し、半分は諦めていました」

「しかし、現れました」

「一人のプレイヤーが、七千時間以上をかけて、旅人の全てを見つけてくれました。私たちが仕込んだ隠し要素を、一つ残らず」

「ハッキリ明言しておきましょう。これは、不具合ではありません。いえ、むしろ……私たちが最初から用意していた、『最後まで歩いた人への手紙』なのです」

「今回のアップデート『旅人の季節』では、旅人クラスの弱体化ではなく──旅人専用の新コンテンツを追加いたします」

「詳細は以下の通りです」

パッチノートが続いた。

【新コンテンツ】

・「旅人の最終試練」── 旅人専用の高難度ダンジョン。全エリア踏破率100%で入場可能

・「月蝕の祭壇」の正式実装 ── これまで隠しエリアだった月蝕の祭壇を、旅人専用コンテンツとして公式マップに追加

・「守護精霊システム」の拡張 ── 守護精霊との友好度に応じた追加能力の解放(今後のアップデートで順次実装)

・旅人専用称号の追加 ── 「世界初の旅人」「銀月の契約者」「霧を裂く者」等

「最後に、一つだけ。旅人クラスは、このゲームを一番長く歩いてくれたプレイヤーへの手紙です。その手紙を受け取ってくれた全ての旅人さまに、心からの感謝を送ります」

「BCO開発ディレクター カガミ」

冬夜はスマホを見つめたまま、しばらく動かなかった。

手紙。

旅人クラスは、手紙だった。七千時間歩き続けた自分への、運営からの贈り物だった。

この日、フォーラムは大いに荒れていた。喜びという名の、大荒れだった。

【速報】旅人ナーフなし! むしろ旅人専用コンテンツ大量追加!!【カガミ声明全文】

──「ナーフじゃなかった!!!!」

──「カガミの声明読んで泣いた」

──「『最後まで歩いた人への手紙』って……」

──「運営がトワの存在を公式に認めた。バグじゃなくて、正規ルートだったんだ」

──「つまり旅人は、最初から『最終到達者への報酬ルート』として設計されていた」

──「二年前から、ずっと仕込んであったのか……」

──「カガミ、良い仕事するじゃねえか」

──「旅人の集い、全員泣いてるぞ」

──「俺も旅人やるわ。ガチで」

──「ここまでされたら、やるしかないだろ」

SNSでは、カガミの声明がBCOの枠を超えてバズっていた。

──「ゲームの運営が、たった一人のプレイヤーに向けて手紙を書いた」

──「七千時間歩き続けた人への返事が、これか」

──「BCOやったことないけど、この話だけで泣ける」

──「ゲームって、こういうことができるんだな」

ミコトからメッセージが来た。

ミコト:「カガミさんの声明、読みました。……本当に、すごいですよね」

ミコト:「トワさん、あなたの旅は正しかったんです。運営が、そう言ってくれてます!」

レナから。

レナ:「トワさん!! 読んだ!? 読んだよね!? やったね!!!」

オーレンから。

オーレン:「お前、ゲームの運営にラブレターもらったな」

トワ:「ラブレターではない」

オーレン:「手紙って書いてあるだろ。お前宛の手紙だぞ、あれ」

セレスがトワの肩の上でぱちぱちと手を叩いていた。

「トワ、みんな、よろこんでる」

「ああ」

「トワは? うれしい?」

冬夜は少し考えた。

嬉しい、とは少し違う。もっと穏やかで、形容しがたい感情だ。

「そうだな……少し、安心した」

「あんしん?」

「歩いていてよかった、と思ったんだ」

セレスがトワの首元に頬をすり寄せた。

「セレスも、おなじ。トワがあるいてくれて、よかった」

トワはセレスの言葉にこくりと頷き、またいつもの探索に戻った。

どこまでも遠く、深く、まだ誰も見ていない景色を探しに。