軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

嵐の予兆

ベヘモル討伐の翌日。

フォーラムは──また騒ぎになっていた。だが今回は、トワの戦果の話題だけではない。

【公式告知】BCO大型アップデート「旅人の季節」──旅人クラスに関するバランス調整を実施します

冬夜はスマホの画面を見て、手が止まった。

バランス調整。旅人クラスの。

告知文を読む。

「BCO開発チームより、全プレイヤーの皆様へ。旅人クラスに関して、近日中にバランス調整を実施いたします。詳細は追って告知いたします」

それだけだった。「バランス調整」の中身が一切書かれていない。

フォーラムは即座に炎上した。

【速報】運営、旅人クラスのナーフを予告か【阿鼻叫喚】

──「ナーフ来たか……」

──「やっぱりな。トワが強すぎたから調整入るんだろ」

──「【初心の心得】のCTゼロが修正されたら、トワのビルド崩壊するぞ」

──「旅路の極意のステータス加算に上限つけられたらどうすんだ」

──「今まで楽しかったのに……」

──「トワ終了のお知らせか?」

別の流れもあった。

──「いやまだナーフとは決まってない。調整としか書いてない」

──「上方修正の可能性もあるだろ」

──「旅人を上方修正して何の意味が? トワ以外に旅人ガチ勢いないだろ」

──「旅人の集い、百人いるぞ」

──「百人のうち、何人がLv1を維持してるんだ?」

──「……三人」

──「三人」

冬夜はフォーラムを閉じた。

ナーフ。弱体化。──正直、可能性はあると思っていた。自分の旅人ビルドがゲームバランスを壊していることは自覚している。

でも、仮にナーフされたとしても、歩くことは変わらない。

強さは旅の副産物であって、目的ではない。

スマホを置いて、大学に向かった。

食堂。宮瀬と昼食。

「久坂くん、今日なんか元気ない?」

「元気がないわけじゃない」

「嘘。お味噌汁の豆腐を三分間も見つめてたよ」

「考え事をしていた」

「ゲームのこと?」

「……ああ」

宮瀬は詳しく聞かなかった。前に「ゲームの中のことはゲームの中で大事にしたい」と言ったのを、覚えているのだろう。

「大変なんだね。──でも、久坂くんならきっと大丈夫だよ」

「どうしてそう思う?」

「ただの直感だよ。久坂くんは、どんな状況でも自分のペースで歩いていく人だから」

冬夜は宮瀬を見た。

この人は、自分のことを何も知らないはずだ。BCOのことも、トワのことも、旅人のことも。なのに、「自分のペースで歩く」という言葉が、妙に的確だった。

「……ありがとう」

「また素直にお礼言えるようになってる。成長してるね」

「成長とは、何のことだ?」

「さあね。それだけは、私だけが知ってるのかも」

宮瀬がくすりと笑った。冬夜も口元の力を抜いた。

夜。ログイン。

セレスが飛んできた。

「トワ! おかえり!」

「ただいま」

言ってから、自分の言葉に驚いた。「ただいま」と言ったのは、BCOで初めてだった。

セレスが嬉しそうにトワの頬にくっついた。角がぴょこぴょこ揺れている。

「トワ、きょう、かおがくもってる」

「曇ってはない」

「くもってる。セレスにはわかる。──なにが、あった?」

冬夜は少し迷ってから、チャット欄に打った。

「運営が、旅人を弱くするかもしれない」

「よわく? トワが?」

「俺が、じゃない。旅人という職業が。スキルやアイテムの性能が変わるかもしれない」

セレスが小さな顔を曇らせた。

「トワ、あるけなくなる?」

「歩けなくなることはない。ただ、今までのように戦えなくなる可能性がある」

「……」

セレスがトワの首元にぎゅっと抱きついた。

「セレスは、トワのそば。ずっと。つよくても、よわくても」

冬夜は何も言わなかった。こういう存在がいるだけで、少しだけ楽になった気がする。