軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

星読みの涙

約束を果たしに行く。

少し前にリーリアに伝えた『お前の先祖が、サーラという少女の友達だった』。この時、リーリアは涙を流して『行きたい。サーラの洞窟に』と言った。『約束。絶対』とも。

約束は守る時が来た。

メンバーはトワ、セレス、リーリア、ハル。少人数で行く。サーラの秘密基地は、大勢で押しかけるような場所じゃないから。

新大陸の西岸。断崖の海岸。前回来た時と同じルートで崖をトラバースする。星巡りの靴の足跡が岩肌に光っている。前回のトワの足跡が、まだ残っていた。

「トワ、前の足跡が光ってるよ。道しるべになるね」

リーリアが崖の上から呼んでいる。彼女は崖を降りられない。そもそも彼女にロッククライミングは無理な話だ。

「リーリアはロープで降ろそう。ハル、補助を頼む」

「了解です。──リーリアちゃん、しっかり掴まってね!」

「う、うん……本当に高いね。すごく……高い。いま、下を見たら──」

「見るな、前だけを見ろ」

「トワ、優しくない!」

「優しさで崖は降りられない。事実で降りろ」

ロープでリーリアを洞窟の入口まで降ろした。足が着いた瞬間、リーリアの膝が笑っていた。

「だ、ダメ……も、もう二度と、崖は──」

「帰りも崖だぞ」

「ううううぅ~……聞きたくなかった!」

洞窟に入った。

星の鉱石が暗闇の中で光っている。青紫の淡い光。前回と同じ幻想的な空間。そして──壁の落書き。

リーリアが息を呑んだ。

「これが──サーラの絵」

旅人の絵。星の絵。海の絵。山の絵。動物の絵。行けなかった場所を、全部絵に描いた少女の作品。

リーリアが一枚ずつ、絵を見て回った。絵の横に添えられた文字を読んでいく。星読みだから、古代の文字もすらすら読める。

「『ラシードが砂漠で蠍と戦った話。すごくかっこよかった』」

「『リーリアが東の星峰から双子星を見た話。いつか、わたしも見たい』」

自分と同じ名前の先祖が、この少女に星の話をしていた。リーリアの目から涙がこぼれた。

「わたしのご先祖さまが……ここで、サーラに星の話を──」

「ああ。お前の先祖は星読みの家系だ。サーラに星の話を教えていた」

「サーラは行けなかったんだよね。外に。身体が弱くて」

「ああ。だから絵を描いた。行けない代わりに」

リーリアが三枚目の石板を読んだ。

「『ラシード。リーリア。わたしがいなくなっても、この絵は残るよね。この洞窟に来た人が、わたしの絵を見てくれるよね。──そしたら、その人が、代わりに行ってくれるかな』」

リーリアは泣きながらも、絵にそっと指先を添えた。

「来たよ──サーラ。わたしが、来たよ……リーリアの子孫が。──あなたの友達の、子孫が」

トワは彼女にどんな言葉をかけようか考えていたが、やめた。しばらく泣かせておくことに。ハルも、泣いていた。セレスは泣いていなかったが、角が鳴るように震えていた。精霊なりの感情表現だろう。

リーリアが涙を拭いて、立ち上がった。星読みの目、何かを見つけた時の目だ。

「トワ。──この壁、裏に何かある」

「何があるんだ?」

「わたしには読める。星読みにしか見えない文字が、壁の奥に刻まれてる。ご先祖さまのリーリアが残した──星読み専用の暗号文字」

前回来た時、見聞録では検出できなかった。星読みの暗号文字は見聞録のスキャン対象外だ。

星読みの血を引く者にしか見えない古代文字。

「読めるか?」

「うん、読める。──『サーラへ。この洞窟の奥に、わたしからの贈り物を隠した。あなたが歩けるようになったら、一緒に取りに来よう。──リーリア』」

サーラが歩けるようになったら。だが、サーラは歩けるようにはならなかった。リーリアの贈り物は、受け取られないまま何百年も眠っていた。

「奥に──何かある。壁の裏に、隠し部屋がある」

「見聞録で──ああ、あるな。壁の厚さが、一箇所だけ薄い。三十センチ、向こう側に空洞」

「開けられる?」

「星読みの暗号文字が鍵だろう。お前が読み上げればいい」

リーリアが壁に手を当てて、暗号文字を声に出して読んだ。古代の星読みの言語。現代では失われた発音。だがリーリアは星読みの家系だ。血が覚えている。

壁が──光った。星の鉱石が反応して、薄い壁が溶けるように開いた。

隠し部屋、小さな空間、中に──木箱がある。

開けた。

中に……星の地図帳。手描き。革の表紙。何百年も前のものなのに、星の鉱石のインクで描かれているから劣化していない。

【「古代星読みリーリアの星図帳」を発見しました!】

【効果:所持しているとエルシオン全域の天体観測精度が最大になります】

【さらに星読みクラスのプレイヤーが使用すると、未発見エリアの位置を星の配置から推定できます】

「未発見エリアの位置を推定──!? 師匠、これ……探索にとても有効ですね!」

「使えるが、リーリア専用だ。星読みクラス限定だと書いてある」

「わたし、専用──」リーリアが星図帳を抱きしめた。「ご先祖さまの、サーラへの贈り物が……わたしの手にあるんだね」

「ああ、サーラは受け取れなかった。代わりにお前が受け取った。──お前の先祖が、何百年越しにお前に託したんだ」

リーリアがまた泣いた。今度は嬉し涙だった。

【リーリアの友好度が上昇しました──友好度:10/10(MAX)】

【リーリアの友好度が最大になりました!】

【報酬:リーリアが「星読みの導き」を常時使用可能になりました】

【効果:リーリアがパーティにいる間、未踏エリアへの方角が常にミニマップに表示されます】

「トワ。──ありがとう。ここに連れてきてくれて」

「いや、俺は歩いてきただけだ。見つけたのはお前だろ」

「ううん、あなたが歩いてきてくれなかったら、わたしはここに来られなかった。──旅人がいたから、星読みが辿り着けた。サーラの時と、同じだよ」

洞窟を出た。断崖の上から海が見える。夕日が沈みかけている。

リーリアが壁の落書きに向かって手を振った。

「サーラ。──星図帳、もらっていくね。あなたの代わりに、わたしが星を読む。あなたが見たかった星を、全部」

壁の落書きが、また一瞬、光った気がした。