軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

再訪

エルシオン。

大陸の鼓動が安定してから一週間が経っていた。心拍は六十秒。オーロラが穏やかに見える。大地が健やかに眠っている。

トワはパーティを連れて、エルシオンの各地を回っていた。踏破作戦中は効率を優先して駆け抜けた場所を、今度はゆっくり歩く。

「急ぎじゃないんですか、師匠」ハルが聞いた。

「急ぎじゃない。心臓が安定した今、エルシオンに緊急の課題はない。──次の大型アップデートまで、やり残したことを片付ける」

「やり残したこと?」

「NPC友好度。未回収のイベント。行ったけどゆっくり見られなかった場所。──旅人の本業だ」

「旅人の本業は歩くことではないのですか?」

「歩くことと、歩いた場所を味わうことだ。駆け足では味わえない」

最初に向かったのは土のエリア。剛山の連峰。ガロンの洞窟。

ガロンが洞窟の入口に立っていた。三メートルの岩人が、小さなセレスを探すように首を巡らせている。

「来たか、旅人。──小さいのはどこだ」

「ここー!」セレスがトワの肩から飛んで、ガロンの膝に着地した。

「おお──無事だったか。レイドの時、光のエリアにいたと聞いて心配していた」

「セレス、だいじょうぶだった。ソレイスがまもってくれた」

「そうか──石餅を焼いてある。食え」

ガロンが洞窟の奥から石餅を持ってきた。今回は最初から柔らかい部分だけを小さく割ってある。セレス用だ。

「ガロン、やさしい。セレスのぶん、つくってくれたの?」

「──小さい者には柔らかい餅が必要だ」

「でれでれですね」タマキが呟いた。

「でれでれではない」

【ガロンの友好度が上昇しました──友好度:9/10】

「あと1で──」

「石餅の食べ方をもう一つ教えてやろう。──焼いた後に山の清水で冷やすと、中身が餅から飴のようになる。甘くなるんだ」

「あまくなる!?」セレスの目が輝いた。

「甘い石餅か──セレス用の特別メニューだな」ゼクスが腕を組んだ。

「特別ではない。石人の子供に食べさせる伝統の食べ方だ。わしも子供の頃はこれを食べていた」

「ガロンにも、子供の頃があったのか」

「当たり前だ。石人も生まれて育つ。……千年前の話だがな」

セレスが冷やした石餅を齧った。

「あまい──! もちもちであまい──! ガロンのこどものころのあじ──!」

【ガロンの友好度が上昇しました──友好度:10/10(MAX)】

【ガロンの友好度が最大になりました!】

【報酬:「剛山の守り石」を獲得しました】

【効果:所持しているだけで土属性耐性+20%、落下ダメージ無効】

「落下ダメージ無効──! 崖登りが捗る」

「もう一つ」ガロンが言った。「これは友好度の報酬ではない。わしからの、個人的な贈り物だ」

ガロンが自分の腕から──小さな石の欠片を割って、セレスに渡した。

「わしの身体の一部だ。持っておけ。──お前が危険な時、この石が硬くなって守ってくれる」

「ガロンのからだの──!? いいの!?」

「石人の身体は再生する。小さいのを守るためなら、腕の一部くらいどうということはない」

セレスが石の欠片を大事そうに抱えた。

「おもい。でもだいじ。ガロンのいし。たからもの」

「……そうか。──また来い。石餅を焼いておく」

次に向かったのは──新大陸の西岸。断崖の海岸。サーラの秘密基地があった洞窟。

ハルが全員分のサーラの絵の具を持っていた。

「師匠。約束通り、みんなの装備に模様を描きましょう」

「ああ。──ここで描くのがいい、サーラが絵を描いた場所で」

洞窟の中に入った。壁の落書きは変わっていない。旅人の絵。星の絵。海の絵。サーラが行けなかった場所の風景。

ハルがサーラの絵の具を開けた。星の光を帯びた塗料。銀色に輝いている。

「誰から描きます?」

「セレスから」

セレスがトワの肩から降りて、ハルの手のひらに座った。

「セレスのかくに、もようかいて」

ハルが細い筆で、セレスの角に小さな星の模様を描いた。銀色の星が角の根元に一つ。

【セレスティアの角に星の模様を描きました。星属性耐性+5%】

「きらきら! セレスのかく、きらきら!」

「可愛い」ハルが微笑んだ。「次は誰?」

全員が順番に装備に模様を描いてもらった。

トワの果ての道標の柄に星。ゼクスの短剣の鍔に星。アストレアの聖剣の鞘に星。タマキの薬鞄の留め金に星。ルーナの髪飾りに星。ダリオの帽子の縁に星。ハル自身の導師の杖に星。

「全員に星がついた。──サーラの絵の具が、世界中を旅する」

ハルが洞窟の壁に向かって頭を下げた。

「サーラさん。あなたの絵の具を使わせてもらいました。──わたしたちの装備に星を描きました。これからこの星が、あなたが行けなかった場所を全部回ります」

壁の落書きが──一瞬だけ、光った気がした。星の塗料が、洞窟の中で淡く輝いていた。

「サーラも喜んでいるのかもしれない。──俺たちの足音が聞こえているのかもしれないな」

ハルが泣きそうな顔をしていた。

「風が目にしみただけです」

「ここは洞窟だ。風はない」

「洞窟でも風は吹きます。──嬉しい風が」

洞窟を出て、次の目的地に向かう途中。

リーリアのいるオルテリアに立ち寄った。星読みの塔。リーリアが図書室で翻訳作業をしている。

「トワ、久しぶりだね。何か用?」

「伝えたいことがある。──お前の先祖のことだ」

「わたしの先祖?」

「サーラという少女を知っているか」

「サーラ──? 知らない、文献にもない名前だけど」

「新大陸の西岸の断崖に、洞窟がある。その中に壁画と石板があった。サーラという少女が描いた落書きだ。──サーラは身体が弱くて外に出られなかった。だが友達が二人いた。旅人のラシードと、星読みのリーリア」

「リーリア──!? わたしと同じ名前の……」

「お前の先祖だろう。ラシードは星巡りの塔を建てた最後の旅人だ。リーリアは星読みの家系。──お前の家だ」

リーリアの目が大きくなった。

「わたしの先祖が──サーラの友達だった──?」

「ああ。サーラは二人から外の話を聞いて、行けない場所の絵を描いた。海の絵。山の絵。星の絵。──全部、リーリアとラシードの話を聞いて想像した絵だ」

リーリアの目が潤んだ。先祖と見知らぬ少女の友情を知って。

「行きたい。──サーラの洞窟に。──わたしのご先祖さまの、友達の場所に」

「案内する。──次の機会に」

「約束。──絶対」

「約束だ」

【リーリアの友好度が上昇しました──友好度:8/10】

「友好度上がりましたね」タマキが笑った。「でも、泣かせちゃダメですよ」

「泣かせたわけじゃない、事実を伝えただけだ」

「事実が人を泣かせることもありますよ。──トワさんが一番よく知ってるはずです」

「……そうかもしれないな」