軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

次の旅路

地下墓所から聖都に戻ると、街が騒然としていた。

大型アップデートの告知を受けて、プレイヤーたちが沸き立っている。

「新大陸だって! どこから行けるんだ!?」

「表の世界の港町から、船が出るらしいぞ!」

「船!? BCOに大型船はあるけど……個人のやつって、あったっけ!?」

「ない。一応あるけど、旅人専用のやつだな」

「今度は全職業に、船が実装されるのか!」

「レベル上げしなきゃ──新大陸のモンスター何レベルだろ」

「推奨Lvとか、まだ発表されてないよな」

「トワさんが先行して情報落としてくれるだろ。いつも通り」

「トワさんに頼りすぎでは」

エリーのパン屋の前で、プレイヤーとNPCが一緒に盛り上がっている。

「エリーさん! 新大陸にも、パン屋あるかなぁ」

「さあ? でも、パンは世界中にあるものよ。きっとあるわ」

「エリーさんのパンが一番ですけどね」

「ありがとう。旅のお供に、持って行ってね」

聖都が、生き生きとしていた。NPCとプレイヤーが当たり前に会話し、情報を交換し、一緒に盛り上がる。かつての寂しい聖都は、もうどこにもない。

トワはその日のうちに、始まりの町リベルタに飛んだ。確認しておきたいことがあった。

裏路地。グランの扉。

「グラン。──聞きたいことがある」

「おや、久しぶりだね……トワ。いったい、何の用だ?」

「お前の足元に──【深淵】への入口があるな」

グランが、初めて驚いた顔をした。

「お前──どこで、それを」

「アルヴァの手記に書いてあった」

「アル……待て、その名を知っているのか」

「手記の署名にあった。カレンが師匠だと教えてくれた」

グランの視線が動いた。言葉は直ぐに出ない。それだけ予想外のことだったらしい。

「カレンが……外に出たのか。大聖堂から」

「今は旅人に戻って、聖都で歴史講座をしているぞ」

「ははっ……あの子らしいな」

グランが大きな溜め息をついた。

「知っている──わたしがここにいる理由の一つだ。【深淵】の入口を見張るために、この裏路地で」

「見せてくれるか……入口を」

「見せるだけだ。入るのは、まだ早すぎる」

「わかっているさ、グラン」

グランが壁に手を触れた。壁が動いた。隠し通路。下へ続く階段。──その先に、かすかに冷たい空気が漂っている。【闇】の冷気。

トワは階段の入口に立って、下を覗いた。暗い。何も見えない。だが──そこに【ある】ことは、わかった。

【隠しエリア「始まりの裂け目」を確認しました】

【入場条件:未達成(詳細不明)】

【これ以上先には進めません。今後のアップデートをお待ちください】

「入場条件がまだ不明……そして、やはりまだ未実装エリアか」

「全ての条件が揃った時、この裂け目は開く。だが今のお前には──まだ足りないものがある」

「それは……何が足りない? 時間以外にあるのか?」

「わたしにもわからないが……歩いていれば見つかるだろう。お前はいつもそうだったはずだ」

トワはグランを見た。飄々とした老人。ずっとこの場所を守ってきた番人。

「グラン、お前も大変だったんだな」

「昔はな。……今は番人だ。世界を歩くことをやめて、ここに座っている」

「カレンと同じだな。旅人をやめた者」

「だが、カレンは旅人に戻った。わしは、まだ座っている」

「座っているのも、旅の一つだろ」

グランがにっこりと笑った。

「お前に言われると、そんな気がしてくるな」

壁が元に戻った。隠し通路が閉じる。

「よい旅を、トワ。──次の旅がどこであれ」

「ああ──行ってくる」

始まりの町の噴水広場に戻ると──大型アップデートの告知板が設置されていた。金色の枠の掲示板。プレイヤーが群がっている。

【BCO ver3.0「新大陸・星渡りの海の彼方」】

【港町マリスタから出航する探索船に乗り、新大陸へ渡ることができます】

【新大陸には未知のモンスター、未知のNPC、未知の文明が存在します】

【推奨Lv:全レベル帯対応(エリアごとに異なります)】

【全プレイヤー参加可能──プレイヤーたちよ、新たな地平を目指せ】

「全レベル帯対応──! Lv1でも行けるのか!?」

「トワさん向けの仕様じゃん」

「初心者も行けるのか、優しいな」

「聖王国は敵が強すぎて、ライト層お断りだったもんな」

「なんなら、ソルシアでさえかなりきつかったぞ」

「俺は全然無理だった。ストーリーを進めようとしたけど、敵が強すぎる」

「ノクス悪い奴だと思って殴ったら、完全に敵対した。俺のストーリー詰んでる、誰か助けて」

「草」

「パーティー組んで行けば、ストーリー進行共有できるぞ。あと、ストーリー共有chに行くとか」

「いけるいける。トワさんだって、Lv1でいってただろ?」

「例外中の例外を出すなよ」

「実際のところ、トワさんがLv1で行くから、対応せざるを得なかったんじゃね」

「運営がトワさんに振り回されてる説」

セレスが告知板を見上げた。

「トワ。うみのむこう」

「ああ。──海を渡る」

「セレス、おっきなふねに、のったことない」

「俺もない。前のは、どっちかというとボートだったしな」

「じゃあ、はじめてのふね、わくわくする」

「ああ──わくわくする」

始まりの町の噴水広場。全てが始まった場所。

ここからまた、新しい旅が始まる。