軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

《封印を解く》

翌朝。──正確には、ルーナの夜が明けた後の朝。

聖都に昼が戻った。

【イベントを進行可能です。聖王カレンが待っています】

イベントのクールタイムも終わり、トワは彼の元へ急いだ。

大聖堂の書斎では、カレンが待っていた。

昨夜タマキが作った光砂のスープを飲み、エリーのパンを食べ、カレンの顔色が少しだけよくなっていた。千年ぶりの料理は、栄養満点だったようだ。

しかし、机の上のパンが二個になっていた。昨日は一個だったのに。

「カレン。パンが増えているぞ」

「エリーの店に、買いに行った」

「いつの間に?」

「早朝。お前たちがログインする前にな。──千年ぶりに並んだぞ、行列に」

「聖王が、行列に並ぶのか?」

「王はやめた、ただのカレンだ。行列にも並ぶさ」

セレスが肩の上から、パンをじーっと見つめている。

「トワ。パンふえてる。──セレスのぶん?」

「おいやめろ、お前のぶんじゃない」

「でも、ふえてる、パンパンパン」

「増えていても、お前のぶんじゃないぞ」

「カレン。そのパン、セレスにくれる?」

「……いいぞ」

「トワよりやさしい。──カレン、にばんめにすき」

「一番目は誰だ」

「トワ」

「即答か」

セレスがパンを齧りながら、カレンの膝の上に飛び乗った。カレンが困惑している。

「おい、わたしの膝に乗るのか」

「カレンのひざ、トワのひざより、ひろい。すわりやすい」

「トワの膝が狭いのか」

「せまい。トワはやせすぎ」

「……余計なお世話だ」

ゼクスが「精霊に体型を批判される旅人」と呟いた。

トワは聞こえないふりをした。

「さあ……昨日の話の続きだ」カレンが切り出した。「わたしがやるべきことが──一つある」

「聖都の【記憶封印】の解除か」

「ああ。──住人の記憶を戻す。わたしが千年前に奪ったものを、返す時が来たのだ」

「一人でできるのか」

「千年前のわたしならできた。しかし、今のわたしは……力が衰えている。千年間、【闇】に力を吸われ続けていた」

カレンが自分の手を見つめた。光の魔力が──微かにしか感じられない。

かつて聖王と呼ばれた力の……残りかす。

「手伝いが要る。──具体的には、三つの力が必要だ」

アストレアが立ち上がった。

「第四位階の祈り。──私の光で、カレンの封印術を補助できます」

「ああ。お前の祈りは、わたしと同じ系譜だ。わたしの弱った力を、お前が補う」

トワが続いた。

「記憶干渉の第三段階。──封印の下に眠っている記憶を、引き上げる」

「記憶干渉──ノクスの技か。お前がそれを持っているとは──ノクスめ、先見の明があるな」

「最後の一つは?」

「薬だ。──封印を解いた直後のNPCは、記憶が一気に戻るショックで混乱する。それを安定させる薬が必要だ」

タマキが瓶を掲げた。

「わたしの出番ですね。──記憶の安定剤。精霊の滋養薬の応用で作れます」

「流石、話が早いな」

「トワさんの横で、ずっと見てましたから。何が必要かは──だいたいわかります」

カレンが三人を見回した。聖騎士、旅人、薬師。──かつてのカレンの旅と同じ構成。

「聖騎士が祈り、旅人が記憶を書き戻し、薬師が安定させる。──昔のわたしたちと、同じだ」

「あの……わたしは何をすれば」ハルが手を挙げた。

「お前は?」

「導師、旅人の上位職です!」

「導師か。封印解除には直接関わらないが、NPCの周囲の環境を整える役目がある。封印を解いた直後のNPCが暴れないように、周囲の安定化を図るんだ」

「つまり、見守り係ですか」

「見守り係……まあ、そうとも言えるが」

「了解です。──あと、暴れたら杖で殴って止めます」

「おいまて、NPCを杖で殴るな」

「冗談です」

「冗談に聞こえなかったぞ」ゼクスが言った。

「ゼクスさんはどうするんですか?」

「俺は──待機だ。影が使えるこの聖都の夜に、何か起きた時のための保険だ」

「つまり、見守り係ですか」

「見守り係と一緒にするな。──保険だ」

「保険って、何もしなくていい可能性があるってことですよね」

「……」

「ゼクスさんとわたし、実質同じポジションですよね」

「違う。──断じて違うぞ」

タマキが横で笑いを堪えている。アストレアが「まあまあ」と仲裁に入った。

「話を本筋に戻すが――」

トワが手を叩いて仕切り直した。

「俺たちとカレンたちは、同じじゃない。お前たちは三人だった。──俺たちは、もっといる」

「もっと……というと?」

「聖都のプレイヤー、全員だ。──友好度レイドの時と同じように、全員でNPCの封印を解く」

「全員で──?」

「お前一人で封じた記憶を──大勢で、返す。一人ずつ、名前を呼んで」

カレンが言葉を失った。

「一人で背負わなくていい。お前が千年前にやったことの後始末は──俺たちが一緒にやる。それが、旅の仲間だ」

「旅の……仲間」

トワがアイテムストレージから──古い手紙を取り出した。

「ヴィアの手紙を預かっている」

地下室で見つけた、ヴィアからカレンへの手紙だ。

カレンが手紙を受け取った。──手が、震えている。

開いた。読んだ。

「『いつか誰かが──お前を止めてくれることを願って』」

カレンが手紙を──胸に押し当てた。

「ヴィア。──来たよ。お前の言った『誰か』が」

手紙を握りしめたまま──立ち上がった。

「行こう。──聖都に出る。住人の記憶を──返しに」

千年ぶりに、聖王カレンが大聖堂の外に出る。

扉を開けた。白い光──ではなく、朝の光が差し込んだ。温かい。

カレンが一歩、踏み出した。

「外の空気は──こんなに暖かかったのか」

「ああ。──歩こう、カレン。お前の街を」

「わたしの……街」

聖都ルクスの大通りに──旅人の服を着た聖王が、歩いて出てきた。