軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

外伝 歌姫編4

クレオを護衛する任務を受けたルーデルは、護衛として用意されたエミリオの隊を前にして考え込んでいる。

(正規の騎士と兵士とは言え、王女の護衛としては実に頼りないな)

言い方は悪いが、騎士一人と兵士が三人。

――ルーデルから見れば、やる気を感じられない人事であった。

ルーデルは、与えられた部屋で護衛対象である王女のクレオ。そして護衛をする者たちがいる部屋で今後の役割を考えなくてはいけない。使用人である女中が、皆のために紅茶を用意している。その中で、ルーデルは自分を見ているエミリオに声をかけた。

「エミリオ殿、護衛の件ですが役割分担を決めたいのですが?」

「……宜しいと思います。とは言っても、二日後には出発されますので、今日と明日、そして明後日の朝までが我々の任務ですね。クルトアの精鋭であるドラグーンは、まさか寝ないと力を発揮できませんか?」

挑発的な物言いだが、ルーデルもエミリオの気持ちが理解できる。自国の王が、自国の騎士を信じていないのだ。他国の騎士に従う状況は、苛立っても仕方がない。それに、仕事は行おうとしている。

今はそれだけで――いや、任務期間を考えれば、それで十分であろう。

待合室の様な場所で、クルトア側とセレスティア側の九名が何とも言い難い雰囲気でお茶をしている。クレオは席に座ってイズミやミリアが相手をしていた。

部屋の入り口であるドアの前では、緊張した三人組がドアの横に立っている。

(緊張し過ぎだな。夜までは持たないか……)

三人の立ち姿から、訓練はさほど受けていない事を悟ったルーデルは、エミリオを見た。エミリオは優秀であると評判らしく、移動中にクレオが前回も助けられた事を語っていた。

信頼された騎士なのだろう。

「自分たちは大丈夫です。ご心配には及びません。ただ、騎士や兵士の増員が出来るのなら、お願いしたい所ではありますね。」

対抗する気もないルーデルは、護衛の成功率を上げる事だけを考えていた。単純に、人を増やして対応しようとしたのだ。

しかし、エミリオは首を横に振る。

「それは無理です。前回の襲撃で騎士も限界まで出払って城塞都市の警備に当たっています。兵士も同様です」

エミリオがそう言うと、ルーデルは思案する。

(自国の王女の事なんだが。それにしても――)

ルーデルはクレオを見る。教養はあるようだが、王族として教育を受けているとは正直思えなかった。根は優しいが、外交では弱みを見せかねない言葉を何度も聞いている。王女として見れば失格だが、人として見れば優しく美しい女性だった。

(死ぬためだけの人生か)

ルーデルはサクヤの事を思いだす。

自分にドラゴンを与えるために、残り少ないとはいえ命を投げ出した女神の事を、だ。その名は生まれ変わったサクヤが引き継いだが、彼女の記憶は残ってはいなかった。

そんなサクヤと、不意にクレオが重なって見えてしまう。

ルーデルは目を閉じて感情を抑え込む。

(これはこの国の問題だ。俺に与えられた任務は、その日まで彼女を護衛する事だ。迷うなよ、ルーデル)

自分に言い聞かせ、そしてエミリオとの相談に戻った。

「王女の寝室へは女性が入る方が良いでしょう。こちらからイズミとミリアを傍に配置します。我々は王女が移動する際の護衛と、就寝時は部屋の周辺での警備でいかがです? もちろん、ドア周辺には兵士を交代で配置しますが」

エミリオはルーデルの言葉に歯を食いしばっていた。自身でも、三人組が二日間も続けて護衛できる体力がない事を知っているのだろう。

話を聞いていた三人組が声を上げた。

その声に、クレオも驚く。

「俺たちだってやれる!」

「そ、そうだよ! 徹夜ぐらいなんども」

「昼寝をすればなんとか大丈夫、なんだな?」

髭面のベンの大声に続いて、ポノが弱々しく同意する。パサンは、明らかに駄目だろうと思われる返事をしていた。

エミリオが、三人組の返答を聞いて歯を食いしばっている。口を出すな、とでも言いたいが、ルーデルたちを前にして抑え込んでいるようだ。

「お前たち、今は口を出すな。決定すれば伝えてやる」

「だ、だってよ、隊長」

ベンが渋ると、エミリオは睨みつけて視線だけで黙らせた。ルーデルは、それなりに経験豊富な騎士なのだろうとエミリオを評価する。

(優秀ではあるな。俺と同じで経験不足か)

ルーデル自身も、実戦の経験など数えるほどしかない。それでもエミリオを見ると自分に近い物を感じていた。

ルーデルにしても、今回の任務は立派なドラゴン――サクヤと契約しているから与えられたような任務である。それを知っているからこそ、落ち着けているのかも知れない。

だが、その余裕がエミリオには気に入らないのだろう。

「どうでしょう。ここは互いの実力を見ておくというのは?」

「……自分は問題ありませんが」

ルーデルに試合を申し込んできた。

クレオは、騎士が使う訓練場に足を運んだ。

初めて訪れたが、どうにも思っていた以上に息苦しい何かを感じている。室内に設けられた訓練場には、木剣や槍、そして標的となる丸太が並んでいる。

今はルーデルたちしかいないはずなのに、どうにも男臭い感じがしていた。部屋に熱気がこもるような作りも悪いのかも知れない。

「な、何だか変な感じですね。騎士の方はいつもこのような所で訓練をされているのですか?」

クレオは隣に立つイズミに話しかけた。クレオにしてみれば、黒髪は珍しい。そして、凛としたイズミは、自分にとって年上でもあって頼りがいのある印象だった。自国にも女性騎士がいれば、きっとこのような感じなのかと想像する。

「国や騎士団によって違いますが、やはりどうしても室内では」

イズミもクレオが何を言いたいのか理解したのか、それ以上は言わなかった。言葉を濁している辺り、どこの国も同じような物なのだと理解する。

ただ、クレオは初めて来た場所に少しだけワクワクしているのも事実である。

しかし――。

「なってない! 全然なっていない!」

「アダッ!」

「鍛え方が足りない!」

「ゲフッ!」

「技術も無い!」

「ブベラッ!」

ルーデルが槍を持って襲い掛かる三人組を、素手で叩き伏せるのを見ると顔が青ざめるクレオだった。隣のイズミやミリアを見ると、平気そうな顔をしている。

襲い掛かる三人を一瞬で倒してしまったルーデルは、手を払いながら言う。その足元には、立ち上がろうとする三人組の姿があった。未だに立ち上がろうとするポノとパサン。そして、ベンはルーデルの足を掴んでいた。

「だが、覚悟だけは合格だ」

そのまま合格と言われ、三人組はそのまま気を失う。

「あ、あれがドラグーンなのですか? どうにも目で追うにも早過ぎて」

クレオが困っていると、ミリアが説明する。

「大丈夫です。ルーデルは規格外なので、一般の騎士と比べなくて結構ですから。アレはおかしいと覚えておけば問題ありません」

「そ、そうですか。おかしいのですか? 私、騎士の事についても何も知らなくて」

困ったクレオはルーデルの方を見る。すると、三人組を担ぎ上げてベンチの上に寝かせていた。エミリオが上着を脱ぎ、ルーデルへと木剣を投げる。

受け取ったルーデルは、そのまま左半身を前に出す構えを取っていた。

「盾はないが?」

エミリオも構えながら言うと、ルーデルは笑う。

「構えは変えたくないだけです。それに、当たるつもりもない」

ルーデルが挑発すると、二人して踏み込んで激しく木剣をぶつけ合う。襲撃時のエミリオを見ているクレオにとって、エミリオと戦えている騎士がいる方が驚きだった。天才と言われた騎士と互角に戦えている事が、不思議だったのだろう。

その表情を見たイズミが、クレオに言う。

「互いに本気ではありませんから、怪我はしませんよ」

「そ、そうなのですか!?」

クレオは、激しく木剣をぶつけ合う二人の騎士を見て、本気だと思っていたようだ。すると、エミリオの剣の振りが大きくなった。隙が出来たので飛び込もうとするルーデルだが、すぐに後ろに飛ぶ。

そこを追撃するエミリオが、徐々に攻勢を強めていった。

自国の騎士が優勢とあれば、いくら争い事が嫌いとは言えクレオも安心する。大国クルトアの騎士に、自国の騎士も戦えるというのは大事な事であった。

ただ、イズミが少しだけ難しい顔をしていた。

「世界は広いですね。まさかあんな技を持っているとは」

クレオには、何を言っているのか理解できない。

エミリオとの試合で、隙をついて潜り込もうとしたルーデル。だが、今は攻められていた。

木剣が縦横無尽に襲い掛かるが、まるで残像のように消える斬撃がいくつかあるのだ。そして、振りが見えなかった攻撃がいくつかある。

「随分と面白い技を使う」

顔が笑ってしまうので、ルーデルは大きく下がって左手で顔を隠した。指の隙間からエミリオが焦っているのを感じる。互いに本気は出していないとはいえ、それでも力量を図るには充分であった。

(不味いな。もっと戦いたい)

気持ちが高ぶってくるルーデルは、右手に持った木剣を握りなおす。今度はこちらから仕掛けて相手技の正体を探ろうとした。

だが、そこでイズミが声を上げる。

「二人ともそこまでだ」

ルーデルがイズミを見ると、自分たちの試合を見ていたクレオがフラフラとしていた。動き回る二人を見て、目を回したのかも知れない。

深呼吸をして、ルーデルは左手を顔から離す。すると、エミリオが少し笑みを浮かべていた。

「ドラグーン」

その仕草は左腕の袖の部分を指差していた。見れば、上着を脱いでいたのだが、シャツの袖が少し破れている。

それが相手の木剣によるものだと知ったルーデルは、少しだけ笑うのだった。

「どうやら自分の負けの様ですね」

勝ち負けを決めるような傷ではないが、ルーデルは最初に当たるつもりがないと宣言している。ならば、かすったとはいえ、これは自分の負けだと認める事にした。その態度に、エミリオも予想していなかったのか少し唖然としていた。

だが、すぐに上着を取ってクレオの元へと向かう。

「姫様、お部屋に戻りましょう」

「ご、ごめんなさい、エミリオ」

二人の傍にミリアが近付くと、イズミはルーデルの上着を持って歩いてくる。上着をルーデルに渡す前に、汗を拭く物を差し出した。

「どうだった」

イズミの問いはエミリオの実力というよりも、見せてきた技が気になっている様子だった。

「大振りかと思ったが、どうにも気を引いている感じだな。本命はもっと鋭く見えない斬撃――そう思ったが、どうにも違うな。何かしら種や仕掛けがあるんだろう」

「随分と嬉しそうだったよ。あんな顔は王女様の前では見せない方が良い」

ルーデルは戦闘狂である。強い敵がいれば、自身を更に高めるために戦いたいと思ってしまうような男だった。イズミに言われて反省もするが、同時に思うのだ。

(一度本気で戦ってみたいが、無理だろうな)

「……ルーデル、言っておくが」

イズミは、ルーデルが何を考えているのか理解したのだろう。ルーデルは、少しだけ焦りながら上着をイズミから受け取る。

「分かっている。任務が優先だ」

「分かっているならいいよ。それより、王女様の部屋に行こう」

二人が歩き出すと、その場に三人組が置いて行かれてしまった。

表通りを歩くのは、ローブを脱いだアレイストとネイトである。

二人は腕を組み、恋人のように表通りを歩いていた。ただ、ネイトの髪の色が目立つのか、振り返って顔を確認する人が多い。

苦笑いを浮かべながら、アレイストは楽しんでいるフリをする。

「アハ、アハハハ、楽しいなぁ!」

「もう、ダーリンったら!」

バカップルを演じようと言ったのはネイトである。そして、アレイストは物凄く反対した。しかし、ネイトはバカップルを演じれば、ガイアの連中も追ってはこないと真剣にアレイストを説得した。

そのため、アレイストはネイトとデートのような感じで表通りを歩いている。

(絶対必要ないのに、なんで説得されたんだろう)

基本的にアレイストを説得するのは難しくない。何故なら、押し切れば折れるからである。そうでもなければ、ハーレム要員が増え続ける現状を阻止することができたはずだ。それが出来ないからこそ、ネイトも押し切ったのである。

(やっぱり押しに弱いのかな)

そう思いながら二人で出店に顔を出していると、ネイトは店を出している者たちに良く声をかけられる。

「立派な青い髪だな、お姉さん」

「そうでしょう。私たち、今は観光でセレスティアに来ているんだぁ。でも、なんか目立っている感じでぇ」

馬鹿っぽい喋りで店員と話しをするネイトは、そのまま情報を集めるために会話をしている。アレイストは、邪魔にならないように店に並べられたお土産を見ている。

「何コレ、凄い! (なんで変な置物を褒めているんだろ、僕)」

手に取ったのは、丸い胴体に四本の円柱の脚がついた置物である。蜘蛛かと思ったが、それにしては脚の数が少ない。それに、丸い胴体は平べったくて顔の部分らしき場所には赤い色がついていた。

まるで一つ目に見える。

お土産を手に取ったアレイストに、店員がネイトよりもアレイストを優先する。

「そいつは守り神様だよ」

「え、コレが!?」

アレイストが、こいつが神なのかと驚いて手に取った置物を見る。どう見ても子供が作った泥人形にしか見えなかった。

「そいつは山にある神の僕だ。神様と似ているらしいぜ。儀式が行われる場所には神様が安置されているらしいが、一般人には入る事ができないからな。こうして似ているって言われている神の僕をお土産の置物にしているんだよ」

「ふ~ん」

アレイストが置物を見る。だが、全く神といったイメージがわいてこない。寧ろ、まるでやられ役のようなロボットに見える。

「もう! 店員さん、私の話しの途中ぅ!」

「わ、悪かったよ。目立つのは仕方ないって。青い髪はここら辺じゃ王家の髪の色だ。それも特別な意味を持つ巫女様の、な。それに今はピリピリしているから、どうしも周りの視線も厳しいんだよ。気を悪くしないでくれ」

「何かあったのぉ?」

「昔に、な。といって前の儀式の少し前だよ。王家の姫様は立派に役目を果たすんだが、それでも出来の悪いのは王家にもいたって話だ」

店員の口ぶりから、アレイストは過去に何かあったのかと思う。すると、手に力が入ったのか、置物の脚を一本折ってしまう。

「あぁぁぁ!」

店員が大声を出すと、ネイトは笑い声を上げる。

「ダーリンいけないんだぁ!」

「え、あ、ちょっ!」

慌てるアレイストは、店員に謝罪しながら買い取って貰うと言われると自分の財布から金を取り出した。微妙に高いその置物を買ったアレイストは、内心で散々だと愚痴をこぼした。

(壊れやすいならそう言ってくれよ……)

荷物になる置物を購入したアレイストは、その後はネイトと腕を組まずにその置物を持って表通りにある店を回るのだった。

城内にある暗い部屋は明かりが無かった。

周囲に気を配り、そしてそんな部屋に入ったのはエミリオである。そして、部屋の中にいる人物が声をかけてきた。だが、相手の顔は見えない。

「おや、どうされました?」

「この部屋は明るいな」

「……お急ぎのようですが、どうされました?」

連絡役に報告するためのその部屋では、エミリオの回答は合言葉の答えになっている。普通の迷ってきた使用人がいれば、追い返すだけだ。だが、合言葉を正しく返すと、こうして連絡役が本来の仕事をしてくれる。

「何も知らない兵士が部下になったからな。外せないのか?」

「無理です。消えても良い者たちを選びましたから」

エミリオは、それを聞くとそうかと呟いた。少し、残念そうな顔をする。

(どうにかしてやりたい所だが)

自身の目的のためには、ここで三人を外す訳にもいかないと知ると、エミリオはすぐに報告をする。

「思いのほか、あのドラグーンは凄腕だったよ。勝てるかどうかは怪しい所だ」

「知っております。ですが、傷をつけたとか……流石はセレスティアの騎士ですね」

「世辞は止めて貰おうか」

エミリオが言うと、連絡役は指令を言い渡す。

「……明日は城から出かけて下さい。その準備は出来ております」

「不自然すぎると思うが?」

「王女の口から言わせます。そうしたら、上は納得する手はずになっていますから」

エミリオは計画を聞くと、その内容を頭に叩き込む。メモなど残せば証拠が残るかも知れない。だから、暗い部屋で互いに会うのだ。エミリオは相手の顔も知らない。だが、相手はエミリオの顔を知っている。

(厄介な事だ)

「――以上が計画の全てです。計画には王女が必要です。儀式用の道具も揃っておりますから、後は」

「分かっている。王女を俺がお前たちに差し出せばいいんだろ? 以前のような事は起きないさ」

「……どうでしょうか? 調べさせましたが、奴らはガイアの手の者であるようです。この時期にどうして来たのかまでは調べられませんでしたが」

「お前たちの仕事だろう。しっかりして欲しいものだな」

エミリオは、囲まれた時の事を思いだしていた。黒いローブを着た一団の事だ。

「申し訳ありません。では、明日は計画通りに」

「任せろ」

エミリオは外に出ると、周囲を見た。元から通りの少ない通路である。そして、歩き出すと呟いた。

「明日か。ドラグーンたちをどうにかしなくてはいけないが、さてどうした物か」

エミリオは知らず知らずのうちに、懐にしまった卵形のペンダントに服の上から手を当てる。

ドラグーンが参加し、足を引っ張る部下までつけられたのだ。明日はどうやって切り抜けるかを、エミリオは思案する。