軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

学園と上司

ベレッタの港では、ドラグーンの騎士服を着崩した女性が立っていた。

自分のウォータードラゴンに指示を出し、作業資材を運ばせている。

女性騎士は、グレーの髪も目立っているが、それ以上に立ち姿が凛々しい。眼光も鋭く、金色の瞳がまるで光を放っているようだった。

加えて、頭部でピコピコと動いている耳が可愛らしい。そして、周りで働く人々とは背丈が頭一つ分以上に違うので、凛々しいながらも可愛らしく見えるのだった。更に問題なのが、彼女の尻尾である。フサフサとしている尻尾が、左右に動いている。実に可愛らしい。

そう……女性騎士は、まるで幼い子供に見える。

「ベネット中隊長でありますか」

ルーデルは、そんな彼女の外見を知らされていたために、迷う事無く接触が出来た。書類には、可愛らしい女性騎士と書かれていたのだ。

「貴様は?」

「はっ! 今日よりこの町に配属になった、ルーデル・アルセスであります!」

彼女はルーデルを見ると、目の前に歩いてくる。雰囲気は凛々しいのだが、目の前に来るとルーデルが見下ろす格好になった。

「報告は受けている。王都で馬鹿をやったようだな。いきなりこんな辺境に飛ばされた馬鹿が、どんな 面(ツラ) をしているのかと思えば、随分と二枚目ではないか……私は部下の失敗には鉄拳制裁が相応しいと思っている。その綺麗な面を維持したいなら、私を怒らせない事だな」

睨みつけるベネットに、ルーデルは恐れる事無く返事をする。正しい敬礼が出来ている事を確認すると、「敬礼は一人前だな」と褒めて貰えた。

そして、妙に尻尾が嬉しそうに左右に動いている。

「ここでは任務も大事だが、それ以上に臨機応変に対応しろ。開発が進まないのでは、我々を送り出した団長たちに迷惑がかかる。お前のドラゴンはガイアだったな」

「はっ! ガイアの亜種であります。名前はサクヤです!」

キリリとした表情のままに、ベネットは鼻を鳴らす。

「名前など聞いていない。まぁ、覚えといてやる。貴様たちには荷運びをして貰おう。……それで? お前の監視役はどこにいる」

尻尾を揺らしている中隊長を見ながら、ルーデルは今は荷を解いていると説明した。開拓地であるベレッタでは、足りない資材や道具が多い。こうして大量の荷を運べるサクヤは、貴重な輸送手段なのだ。

「サクヤは町の外に待機させろ。指定した場所以外には穴を掘るな。それから、作業は私とエルロンで行う。お前のドラゴンには細かい作業は任せられない」

それだけ言うと、今日は宿舎に戻って休んでいろと命令される。ルーデルは、部下の事を細かく調べている隊長だと認識した。

(厳しそうだが、この人なら大丈夫そうだ)

ルクスハイトから、駄目な上司に当たらない事を祈ると言われたのを思い出す。騎士としては強くても、指揮を出来ないドラグーンも多いのである。我が強い騎士たちの集まりだ。上司として駄目な部類ではなさそうなので、ルーデルは安心する。

作業に戻ったベネットは、資材運びが終わった自分のウォータードラゴン【ヘリーネ】に跨り周辺の警戒に向かうのだった。

空の上で一人になると、ヘリーネの背に額を付けて小刻みに震える。そして、尻尾が非常に激しく動いていた。

『どうしたのよ、ベネット』

「だって! ついに私にもまともな部下が出来たんだよ! 私が小さいから、みんなして私の事を無理してるとか、可愛いとか言って来るのに、今日の部下さんはハキハキしてて、理想の部下だよ!」

ルーデルの前とは違い、ベネットは嬉しそうに顔を上げる。背が低く、可愛らしく見えるベネットの悩みは部下に舐められる事だった。実際には、可愛い隊長と認識されているだけなのだが、本人が理想とする隊長と言うのはもっと部下に恐れられる存在なのだ。

なのに、頑張って隊長になったが誰も恐がらない。

それ所か、竜騎兵団の人気投票で上位に食い込んでマスコット扱いである。そんな彼女は部下に慕われているが、頼りない印象を持たれてしまう。そのためか、部下が中々定着しないと思っていた。

本当は、貴重なウォータードラゴンを従えているために、どうしても特殊な任務が多くなるため部下を定着させにくいのだ。そうした理由も知ってはいたが、きっと自分が頼りないからだとベネットは思い込んでいる。

「よし! 明日からも頑張らないと!」

『……それは良いけど、張り切り過ぎて失敗しないでね。三回くらい前は、それでしばらく駄目可愛いとか言われたんでしょ?』

「あ、あれは間違ってお皿を割っただけなのに、その後ずっとそういう風に言われて……」

ベネットがイジイジとすると、尻尾も力なくヘリーネの背にペタリと垂れている。

「で、でも、これで私も立派な隊長さんだから! 明日からは凛々しい隊長さんになってみせるの!」

『はいはい』

ヘリーネが飽きれているのを感じ、更に決意を新たに頑張ろうとするベネットだった。

一方、アルセス家の屋敷では、少し早いがハルバデス家から贈り物が届いていた。

エルセリカは、入学祝にと送られた物を使用人に開封させ取り出させる。贈り物は、学園で必要な高級そうな道具であった。

「ハルバデス家のリューク殿だったかしら? ルーデルと仲が良かったのね」

彼女の呟きに、周りの使用人たちは答え難そうにしていた。エルセリカは、その使用人たちの態度が気に入らない。

大好きだったクルストが追い出されるように辺境に追いやられると、ほとんどの者たちがルーデルの陰口を止め、クルストを罵りだした。一部では、昔からルーデル様の方が当主に相応しかったという使用人たちも出始めたのだ。

そうした使用人たちを、エルセリカは許せなかった。

エルセリカの世話をする使用人の多くが、ルーデルに手紙を書く様に進め、そしてクルストへの手紙を書いても送らなかった。

(私は良い喜劇の役者になれるかしらね)

馬鹿にしていたルーデルは、今ではクルトアでは知らぬ者がいない程に有名人だ。巷では、魔王と呼ばれているいるらしい。

そんなルーデルを虐げてきたアルセス家は、今でも微妙な空気が支配している。そんな中で、ハルバデス家から贈り物が届いたのだ。屋敷も少しは雰囲気が明るくなる。

「お! これ私宛てだ」

送られてきた荷を解いていると、いつの間にか腹違いの妹であるレナがいた。普段から男の様な格好をしている彼女を、エルセリカは羨ましそうに見る。自分に正直で、それでいて自由に生きているように見えたのだ。

昔は話もしなかったが、今では屋敷内で顔を合わせれば少しは話をする。

「随分と嬉しそうね。それにしても、その箱は大き過ぎない? 何が入っているの」

腕を組みながらレナへ問う。レナは包みを剥がし、木箱を開けるとそこには槍が入っていた。女性に送るにしては、とてもではないがセンスを疑ってしまう物だ。

しかし――

「おぉぉぉ! 新しい槍だ! しかも私にピッタリ!」

箱を使用人に渡すと、手に取った槍をレナは振り回している。槍を振り回して起きた風が、エルセリカに当たった。

「レ、レナ様! この様な所で振り回されては困ります!」

慌てる使用人に、ごめんと言いながらレナは槍をみる。エルセリカには槍の良し悪しは分からないが、屋敷を警護する兵士たちが持つ物よりは良い物に見えた。

「武具を貰って喜ぶなんて、女としてどうなのよ」

「今までのは古くなったし、それに短いから丁度良かったんだよ。きっと兄ちゃんの入れ知恵に違いないな」

リュークさんは分かりやすいなどと言いながら、レナは箱に入っていた手紙を読む。そこには、槍を仕立てた職人が学園の近くに店を構えているから、一度持っていけと書かれていた。

(レナ用に調整するのかしら? 意外と大変なのね)

武器など持った事のないエルセリカには、頭の痛くなる話である。今までは、綺麗になるために磨かれてきた。それも良い嫁ぎ先を見つけるためである。しかし、アルセス家は今まで以上に傾いて来ていた。

周囲が寄り付かなくなる中で、エルセリカも学園に通う事が決まったのだ。そこで、金持ちの貴族を誑し込むように言われている。

そうしなければ、家が持たないと母が言うのだ。

(贅沢を止めれば、すぐにでも持ち直すわよ)

母に言いたい事はあるが、それでもアルセス家の娘である。好きな相手に嫁ぐなど、考えた事も無いエルセリカであった。いや、考えないようにしていた。

「アンタも学園に行くんでしょう? なのに槍を送るハルバデス家のリューク殿は少しおかしいわね。それとも、妾の子にはそれで十分と思ったのかしら」

自分でも嫌な事を言っていると理解している。だが、今まで相手に対して取ってきた態度を、いきなり変える事ができる程に、エルセリカは器用では無かった。

金色のストレートの髪をかきあげ、緑色の瞳でレナを見る。

しかし、レナはそんなエルセリカの嫌味を特に気にした様子が無い。

「そうかもね。それに、筆記用具は学園で安く手に入るって兄ちゃんが言ってたし、私はそっちで十分だよ」

笑顔のレナを見て、エルセリカは更に自分が負けた気がする。こんな事が日常的に続いているのだ。

一人の使用人が、エルセリカを注意する。

「エルセリカ様、レナ様も旦那様の娘です。そのような態度はいかがかと……」

「そうね。悪かったわ、レナ(何よ。妾の子だって馬鹿にしていたのは、貴方たちも一緒でしょうに)」

使用人たちの本音は、ルーデルが可愛がっていたレナの怒りに触れたくないという物だとエルセリカは理解していた。これから嫁いでいくエルセリカやレナは、使用人たちにとってもアルセス家に金を持ってくる道具である。

どちらも道具なら、より次期当主に好かれている方を優遇するのは、当然であった。昔のエルセリカの様に――。

(本当に惨めよね、クルスト兄さん)

ベレッタの宿舎に到着したルーデルたちは、思っていた宿舎と違う事に困惑している。

案内をしてくれた若い兵士は、ルーデルやイズミ、そしてミリアを前に説明した。

「すいません。まだ建設が進んでいませんので、どうしても騎士団の建物はこうした物に……」

目の前にあるのは、明らかに一軒家である。元々住む者が、諸事情によって他の家に住む事になり、空き家のまま放置されていたようだ。少し大きな一軒家は、三人が来ると言う事で与えられたようだ。一人暮らしの騎士には、もっと小さな家があてがわれている。

「……俺は男で、二人は女性だぞ。もう少しなんとかならないか?」

流石に不味いと感じたルーデルは、若い兵士に遠まわしにどうにかしろと言ってみる。しかし、オロオロとする兵士は、無理ですというだけだ。

「正式な宿舎を用意するのは、騎士団の本部を用意してからになると……それに、他の騎士たちの家からは離れていますし、騒いでも問題ありませんよ」

「問題しかないだろう。いや、そもそもなんで目を逸らす」

イズミとミリアを見てから、若い兵士は顔を赤くして目を逸らしていた。何故だか、ルーデルは相手が勘違いしていると思い、訂正するためにこちらを向けと命令していた。

だが、日も暮れてきた事もあり、緊張感のある長旅で疲れたミリアはここでいいと言うのだった。

「今から騒いでも対応は無理でしょ。それなら数日は我慢するわ。私は早く眠りたいの」

「そうだな。流石に今日は疲れたよ」

ドラゴンの背に乗って移動するだけでなく、まるでジェットコースターに乗り続けたような二人は青い顔をして苦笑いをしていた。

ルーデルも、女性陣に言われると渋々納得する。兵士から鍵を受け取ると、家の中に入った。そして、若い兵士は大事な事を言いながら逃げるようにその場を後にする。

「掃除をするように言われていたのですが、どうにも忙しくて……道具はあるので、掃除をしてから眠った方がいいですよ。では、また明日」

「逃げたな」

ルーデルが唖然として部屋を見渡す。そこには、埃が被った部屋が広がっている。最低限の家具が置かれているが、そちらも埃まみれだ。

「こ、これは流石に……」

全ての部屋の惨状に、イズミも困惑する。掃除をするように命令はしていたようだが、やっていなければ意味が無い。

「……最低」

ジト目のミリアは、溜息を吐く前に布でマスクを用意していた。どうにも、汚いのが許せないのか、掃除をする気のようである。

前は掃除を行うアレイストの小隊にいたミリアは、この状況では貴重な戦力であろう。イズミも、外に出ると道具を用意している。

「宿屋は満室だと言っていたが、これが理由か」

詰所の騎士が、宿屋に空きが無いと伝えて来た時は首を傾げた。だが、今になって理由が判明し、ルーデルも掃除に取りかかる。

「アレイストでも連れて来れば良かったな」

半分冗談で、半分は本気で思ったルーデルであった。

「クッシュ!」

今日も仕事(掃除)を終えたアレイストは、周りを女性に囲まれながら宿舎に帰っていた。

「隊長、風邪ですか? なんなら、私の部屋によっていきます?」

「ちょっと、何を普通に誘ってるのよ」

「あ、なら私が隊長のお部屋に行きましょうか」

女性陣のアレイストの奪い合いに、本人は苦笑いをしながら風邪ではないと否定する。

(誰か噂でもしてるのかな?)

本当に噂でクシャミをするなら、アレイストはクシャミをずっと続けるだろう。本人にその気が無くても、王都一のプレイボーイと呼ばれているのだ。

アレイスト自身が否定しても、誰も信じてはくれない。婚約者が七人を超えようとしている上に、小隊員が全員女性である。そして、少なからず好意を寄せられているのだ。

間違いでもないだろう。

(はぁ、それにしても……)

自分の周りを見ると、一番好きだったミリアがいないのだ。彼女は、イズミに頼まれてルーデルの特別監視官になってしまった。どう言う訳か、自分が拒否しても上の方で許可が下りてしまったのだ。

(書類には、上司の許可が必要だって書いていたのに……)

アレイストにも理由は分からないが、ミリアとは離れ離れである。空を見上げると、ミリアの無事を祈るのだった。

(また会えますように)

「隊長、話を聞いていますか?」

「え、あ、あぁ、聞いてるよ。僕もそう思う(何の話だっけ? まぁ、どうせいつもみたいに仕事の不満だよね?)」

掃除係りであるアレイストの小隊は、騎士としての任務が無いので不満が溜まっていたのだ。何気に、掃除に凝り始めたアレイストにしてみれば、戦わないでいいならこっちでもいいかと思い始めていたので不満は無い。

部下と話を合わせるために、同調しているだけだった。

「だったら、今日こそは隊の中で誰が一番好きなのか、ハッキリして下さい!」

「私ですよね、隊長!」

「貧乳はすっこんでろ! 私だよな、アレイスト」

「……え?」

王都でラブコメをしているアレイストであった。