軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

辺境と学園

「荷物まで運んで貰ってすまない」

空の上で、イズミはサクヤの背に乗りながらルーデルの背に語りかけた。

今は辺境であるベレッタに向かう途中であり、特別監視官であるイズミは、ルーデルと共に勤務地に向かっているのだ。

「問題ない。この程度増えた所で、サクヤには何の意味も無い」

『よ、余裕だよ』

かなり苦しそうな声を出すサクヤを見て、イズミは心が痛んだ。ガイアドラゴンの亜種であるサクヤは、荷物を大量に運べるという利点がある。普通のガイアドラゴンでも、その積載量は他のドラゴンと比べ物にならない。

そうした理由から、王都を飛び立つ時に大量の物資を持っていくように命令が出たのだ。

建設が始まったばかりの土地であり、足りない物が多いのが現状であった。

空は旅立ちを祝して青空が広がっているのだが、サクヤは括りつけられた荷物に苦しんでいる。途中で何度も休憩を入れているが、それでもこの荷物は多過ぎではないかと思うイズミだった。

(背には特注の鞄がいくつも背負わされて、肩にかけるような鞄を片側二つも……この鞄は特注らしいし)

因みに、首にはイズミやルーデルの私物が入った鞄が括りつけられている。見ているだけで可哀想になるが、ルーデルは常にサクヤに声をかけていた。

「休むか、サクヤ?」

『ま、まだ大丈夫』

「無理するなよ。着任まで時間もあるから、ゆっくりでいいんだ」

『サクヤも頑張る』

必死に羽を動かしているサクヤを見て、イズミはその背を撫でるのだった。

「…………雰囲気が良い所を悪いんだけど、私もいるのよ」

イズミとルーデルが振り返ると、そこにはミリアが苛立った表情をして座っていた。そう、ミリアはイズミにスカウトされる形で、イズミの部下となったのだ。

元から監視を一人で出来る訳もなく、誰かを選ばないといけなかった。だから、イズミは知り合いに声をかけたのだ。しかし、ルーデルの監視だと知ると、友人や知り合いも断ってくる。

(いや、本当の理由は知っているが……)

しかも、それは善意から断っているのだ。イズミとルーデルを二人っきりにさせようという、善意から来ている。

一人だけ――

アレイストだけが、自分から志願して部下にしてくれと頼みこんできた。それはミリアの件で、だろうが。

(そういう関係じゃないんだが)

溜息を吐きたいイズミは、ようやく捕まった部下がミリアである事も少しだけ心配だった。断られると思っていたが、ミリアは即決で部下になってくれたのだ。ルーデルの事を諦めきれていないと知っていたが、それを注意するイズミでもない。

(何も起きなければ……無理かな)

既に王宮から逃げ出したいアレイストが、自分の部下……女性騎士たちに、無理やり引きずられていく様を思い出す。

掃除係りが嫌で、特別監視官になるつもりなのか、それともミリアを追いかけてなのか。イズミは、その両方が理由だと気付いていた。

(アレイストの奴、絶対に問題を起こしてるな)

「頑張れ! サクヤ頑張れ!」

『あぁぁぁ! 羽がつりそう!』

対してこちらはなんとほのぼのしているのかと、イズミは思う。自分の後ろには、複雑な思いでついて来た女性がいるのに、ルーデルとサクヤは相変わらずだった。

……羽がつりそう。

「待って! それは不味いからすぐに着陸……って、あぁぁぁぁぁ!」

イズミの叫び声が、空の上から響き渡る。

結局、彼らが港町ベレッタに到着したのは次の日であった。

予定ギリギリに到着したルーデルは、荷物の片付けなどはイズミたちに任せ、一人で騎士団詰所へと来ている。

港町と言っても、元は何も無かった場所である。王都や主要都市から志願した移住者たちが、港の建設を頑張っていた。

そんな状況では、騎士団の詰め所を団ごとに用意する事も出来ない。何もかもが足りない土地では、辺境の騎士団の小隊と、ドラグーン二名が防衛に当たっている。

煉瓦造りの家々が並ぶ通りを歩きながら、ルーデルは雑多な町並みを眺めながら詰所へと向かっていた。

簡易に作られた住居に加え、道は非常に悪い。すれ違う人たちも、どこか疲れた顔をしていた。

(思ったよりも状況は悪いのか?)

クルトア王国でも、ガイア帝国でも魔法が主体と言える国家だ。それは、魔法を使えば一人で出来る事が多くなる事を意味している。職人たちも何かしら魔法を使用しており、その恩恵を受けていた。

だが、同時に以前からある都市は、その大きさを維持するだけで手一杯に陥っている。魔法は便利で、都市は容易に大きくなる。しかし、維持する事を考えると各都市は限界に来ていた。

その為の開拓であり、海産物を得るために港町が作られたのだ。

だが、ルーデルが見た所、あまり上手くいっていない様子だった。これは、単純に開拓の難しさだけが理由ではない。魔法は使えるが、それは所詮人の力である。そして、今まで無人であった土地なのだ。

魔物がいる上に、戦闘で魔力がそちらに割かれていた。鍛えられた騎士たちと違い、一般人は魔法が使えてもたかが知れている。それでも、敵が出てくれば命を守るために戦うしかない。結果として、計画は進んでいないと言う訳だ。

詰所に到着すると、見張りをしている兵士に身分証を提示する。

どうやら地元で集められた者らしく、対応が拙い。

「え、え~と……騎士様ですよね? 今日は何の用件で?」

「今日から配属になっているはずだが? 取りあえず、ドラグーンの責任者に会わせてくれ」

「いや、その……」

オロオロする兵士に大丈夫かと不安になるルーデルだが、詰所の奥から兵士の上官が出てくる。辺境騎士団の小隊長だろう。

体は小太りだが、目つきはそれなりに鋭かった。

「お前は話も聞いてないのか! すまんね。ベネットの奴は今頃は港で建設の護衛をしているから、出向くなら港に向かってくれ。あぁ、それから書類は受け取っておこう」

「……宜しいのですか?」

管轄が違う騎士団に、書類を渡す事に抵抗があるルーデル。

だが、相手は笑っていた。

「ここではそういった決まり事が通用しなくてね。書類仕事はわしが担当している」

苦笑いの騎士に書類を渡すと、ルーデルは港へと向かう。案内が無くとも、建設している場所に向かえば話が出来ると判断したのだ。

町自体も大きくはなく、見渡せるという事が理由の一つでもある。

「師匠は到着した頃ね」

五年生になったフィナは、廊下で外を見ながら呟いていた。

護衛であるソフィーナが、ドラグーンの件について確認をする。

「姫様の予想通りでしたね。前もってウォータードラゴンを配置したのは、この時のためだったのですか?」

ルーデルがベレッタに向かう事になる前に、フィナは貴重なウォータードラゴンの配置転換を行っていたのだ。表向きは、計画の進まない開拓地のためという事になっている。

「まさか。私もそこまで先読みできないわよ。出来たら、すでにモフモフランドの建設に取り掛かっているはず……師匠、師匠さえ思い通りに動いてくれれば」

本当に悔しそうなのを、護衛であるソフィーナだけは理解していた。

(これさえなければなぁ)

「まぁ、配置転換はしたけど、どれくらい意味があったのか……」

フィナが対帝国向けに用意した物は多いが、ドラグーンの配置転換もその一つである。優秀な者たちを、帝国寄りの辺境に配置したのだ。

権限が無いフィナが利用するのは、父であるアルバーハである。だが、そのアルバーハの権力が衰えている事をヒシヒシとソフィーナも実感していた。

すぐにでも帝国への備えを開始したいのに、アルバーハは動けずにいた。フィナが動かなければ、碌な情報すら入ってこないらしい。王国も終わりかと、少しだけ思ったのはソフィーナの秘密である。

「私はてっきり、狼族の女性騎士をルーデル殿に宛がったとばかり思っていましたよ」

ソフィーナが冗談で語った人物は、ウォータードラゴンを従える狼族の女性【ベネット】である。フィナの周りには猫科の亜人が多いのだが、犬や狼といった亜人がいない。だから、ソフィーナは冗談を言ったのだ。

本音では、そんな事を思っていなかった。優秀なドラグーンである事は事実だから……しかし。

「も、勿論です。そんな事がある訳がないじゃないですか。さぁ、早く次の授業に向かいますよ」

「……姫様」

「何ですか? 私を遅刻させたいのかしら、ソフィーナ」

「次の教室はこちらですよ」

フィナがT字路の廊下を右に曲がると、ソフィーナは左側の通路を指差す。無表情なフィナは、無言のままソフィーナが指示した方へと歩いて行く。

周りを確認して、誰もいない事が分かると部下に命じて周りを固めさせた。女性騎士たちが、護衛対象であるフィナを取り囲む。

そして――ソフィーナはフィナの両肩を掴んで問い詰める。

「本当はどうなのですか?」

「……ふぅ、貴方に嘘はつけませんね」

諦めたのか、フィナは事実を語り始める。それは、冗談だと思っていたソフィーナの予想通りだった。

「狼族の女性騎士は貴重なの。騎士全体でも数人いるかいないか……そんな彼女を手に入れないで、師匠がモフモフマスターになれるとでも? いいえ、それは無理よ。私は師匠がモフマスになるために、お手伝いをぉぉおぉぉ!」

最後の方でフィナを前後に揺すったソフィーナを、部下たちは止めなかった。何が苛立ったかと言えば、モフモフマスターをモフマスなどと略したフィナが嫌だった。

(今コイツ、絶対にモフマスって言葉を気に入ったな!)

ソフィーナは眼鏡がズレ、息を切らしながらフィナを揺すっていた。鬼気迫る物を感じる光景である。

「何がモフモフマスターですか! 今が大事な時だと言ったのは、姫様ですよね? もう、いい加減にしてくださいよ!」

揺するのを止めると、フィナは無表情だが普段よりもキリッとした表情をしているようにソフィーナには見える。何か言い訳でもするのかと思えば――。

「考え方を変えなさい、ソフィーナ。モフマスである師匠に私がモフモフを渡しているのではなく、モフモフに師匠が飛び込んでいるのよ。まさか本当に、狼族の所へ行くなんて思ってもいなかった幸運だけど、これは運命です。モフ天は師匠にモフマスになれとぉぉぉおぉぉぉお!」

またも前後にフィナを揺するソフィーナは、そのまま授業時間ギリギリまでフィナを揺すり続けるのであった。

一方、職員室では学園長を取り囲んだ教師たちが、花束を持って学園長に笑顔を向けている。

「止め給え君たち! 君たちがやっている事は、学園の規定に違反している!」

だが、抵抗する学園長だけは、顔を青くして受け取りを拒否していた。それもそのはずで、職員室には横断幕が掲げられている。

【学園長三期目決定、おめでとうございます】

通常なら、長くても二期目で学園長は交代するのだ。それなのに、周りは三期目の決定を告げてくる。学園長は、理解できなかった。

(何故だ。昨日まで普通だったではないか! わしは引き継ぎの準備を進めていたというのに!)

思い出すのは、最後だからと進めていた引継ぎの準備である。超問題児が揃った世代が卒業した事で、今では懐かしい元の学園の日々が戻っていた。

少し問題だったのは、意外とフィナが問題児だった事だろう。夜中に奇声を上げながら書類仕事をし、授業をサボって学園の外に足を運んでいる。それ以外は今迄通り……いや、女子寮への侵入者が減った事を考えれば、以前よりもマシと言えた。

なのに――

「ハハハ、何を言っておられるのですか学園長! そんな規定は学園にはありませんよ」

「こんな素晴らしい学園長の下で働けて、職員一同感激であります」

「満場一致で継続決定ですな」

全員笑っているが、目が笑っていない。

「暗黙の了解という物がある! それにわしは引退を考えていると言ったではないか! (こいつら、嘘を言っている。何故だ。何があったと言うのだ!)」

学園長は、自分の補佐をする副長を見た。彼も次で学園長にならなければ、もう後が無い年齢である。自分の二期目が決まった時には、悔しがっていた事も知っている。だが、今は笑顔で「私も補佐を頑張ります」とほざいていた。

「……何があったのかね」

学園長が気の弱そうな職員を見る。その職員は問題を起こした事があり、庇った事もあった。だから、自分には嘘がつけないと知っている。

周りが静まり返る中、学園長に睨まれた職員が語りだす事実は恐ろしい物である。

「ら、来年の入学者が決定しました」

「それはそうだろう。貴族の子弟なら、早い内に入学の手続きが済む。この時期に決定していてもなんの問題も……ッ! まさか」

「申し訳ありません! 私は見てしまったのです。あのルーデル殿の腹違いの妹は、ルーデル殿その物でした!」

職員が語ったのは、以前レナが学園に来た時の思い出である。兄を慕う妹と言う図は微笑ましいが、問題は彼女の発言だった。

『ユニアスさんと戦いたい』

『学園は喧嘩を売る所』

『私は施設を破壊できるかな?』

などと脚色された職員の記憶が、彼女の入学が決定した時に広まったのだ。女版ルーデルの登場に、平和だった職員室は一変した。

そこから緊急の話し合いの結果、学園長になんとかして貰おうと話が進んだのだ。下手に上手くまとめてきた学園長の手腕が評価された結果である。

副長などは「あ、私は無理です」と、早々に学園長の椅子を辞退している。

「ば、馬鹿を言ってはいかんよ、君たち。いくらなんでも、会う前から警戒しては駄目じゃないか。実は素直で良い子かも知れないじゃないか」

「素直で良い子でも、問題児は嫌です。それに分かるんです! あの娘は、ルーデル殿たちと同じ感じがしました」

全員が頷いている。

学園長はジリジリと追い込まれると、机の上に出された書類を見る。そこには、学園長の続投を意味する書類が、王宮の許可を得てサインするだけになっていたのだ。

「落ち着きたまえ! 先ずは話し合おうではないか!」

「王宮の許可は得ました。後は学園長の決断だけです。我々の意志は変わりません!」

数時間後、疲れ果てた学園長が書類にサインをする。学園長だけが一人暗くなる職員室で、他の教職員だけは喜んで祝福していたのだ。

学園では、フィナの卒業とレナの入学が近付いている。