軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

友人たちと掃除係り

王都では毎年恒例のお披露目を前に、新人騎士たちが集まっていた。

精鋭であるドラグーンが毎年の目玉であるが、他の騎士団も勿論参加する。国威発揚の意味合いもあが、精鋭と呼ばれる上級騎士は今年の参加が最後だろう。

竜騎兵団、近衛隊、親衛隊と、精鋭部隊と三つも特殊部隊を用意しているクルトアでは、これ以上の余力がなくなっているのも事実だった。

多くの騎士団が王都に到着している頃。

竜騎兵団は、編隊飛行の訓練を行っている。

「あ、危ねーって! ルーデル!」

ルクスハイトの大声を聞いて、ルーデルはすぐにサクヤに指示を出す。

「サクヤ、ブレてるぞ!」

『アワワワ!』

上昇、下降、旋回、全てでサクヤは周りに迷惑をかけてしまう。羽ばたきを変更するだけで、周りのドラゴンたちやドラグーンを吹き飛ばしそうになる。

無駄に力が入っている証拠であり、サクヤはルーデルの注意を聞く度に空中でまるでもがく様に動くのだ。

その動きは、とてもではないが王都の住人たちが納得するものでは無い。編隊飛行を毎年見ている王都の住人たちは、目が肥えている。

国威発揚という目的から、住人たちを落胆させる訳にもいかない。ただ、見栄えのいいサクヤを外す事は、前評判から難しかった。

ルーデルが白騎士であり、サクヤはその相棒である巨大なドラゴンだ。白く、美しい姿はそれだけで見栄えがする。また、国中に白騎士ルーデルと、黒騎士アレイストは宣伝されている。

ここで引き下がれるはずがない。

――だが。

「ルーデル! こっちに流れ……ギャァァァ!」

今度は、ルクスハイトとはサクヤを挟んで反対側にいたサースにサクヤが近付きすぎた。サースは編隊から急いで離脱すると、他のドラゴンたちはホバリングを行う。

「す、すまん」

二人に謝罪するルーデルだったが、訓練を中断させたのはこの日だけで十回を超えていた。

『ご、ごめんね』

Cランク認定を受けたルーデルとサクヤだったが、編隊飛行でも問題が出ていた。

毎年恒例であるドラグーンの新人編隊飛行は、王都の住人にとって簡単に竜騎兵団の実力を見せる事が出来る。

だが、それは逆に失敗すれば練度が低い事を知らせる事になるのだ。

サクヤはガイアの亜種であり、飛行技術は他のドラゴンよりも劣ると評価されている。だが、見栄えするために新人たちの中央を飛ぶ事は決まっていた。

安全を第一に考えれば、整列して飛行すれば済む。

竜騎兵団全体で、この問題に頭を抱えるのだった。

「編隊飛行から外すと言うのですか!」

副団長の執務室にて、ルーデルは決定事項を伝えるアレハンドに声を荒げていた。

編隊飛行から外されたと知れば、またもサクヤが落ち込んでしまう。身近で必死に練習している事を知るだけに、なんとかしてやりたい気持ちが強いのだ。

「仕方があるまい。それに最後に登場して、広場に降りて貰うだけだ。これなら失敗はしない」

「確かに失敗はしませんが……」

アレハンドの言いたい事も理解はしている。してはいるが、納得できないのも事実だ。

「お披露目の最後を飾る、重要な役である事を考えろ。編隊飛行は表向きは余興だが、それなりに歴史もある。六十年以上続いたんだ」

歴代のドラグーンたちが、その持っている技術を魅せてきた。

アレハンドも疲れた表情をしており、ここ最近は編隊飛行の事で悩んでいるようだった。ルーデルも、これ以上は上官に迷惑はかけられないと受け入れる。

「……了解しました」

「助かる。最後の締めに登場するだけだが、練習は怠るなよ? 飛行訓練だと思えば無駄ではないからな」

ルーデルが執務室から退室すると、サクヤにどう説明したものか悩む。

やっと一つの問題を片付けたと思えば、次の問題が出てくる。

嘘を吐く訳にもいかないが、サクヤに事実だけを伝えるのも可哀想だった。ルーデルは、何と言って説得するか悩みながら廊下を歩く。

すると、ルーデルに声がかけられた。

『いやぁ~、やっと面子が揃ったわ。さっさと変態飛行の準備をしましょう』

窓から外を見ると、ミスティスが降り立つところであった。

――数日後。

明後日に開かれるお披露目のために、各地から騎士たちが集まっていた。

多くが新人であり、未だ世に出たばかりの若者たち。王都にある高級店に、背伸びをしたいのか現れていた。

辺境の騎士たちにとって、王都に来れる機会は早々ない。この機会に遊んでおこうと思うのは、仕方のない事だった。

そんな一団を、忌々しげに見つめるのは元から王都で働いている騎士たちだ。

一般の騎士服とは違い、高級な騎士服に身を包んだ彼らは、ユニアスが率いる部隊の団員だった。

お祭り騒ぎが好きなユニアスは、この雰囲気は嫌いではない。しかし、周りはそうではないらしい。

「随分と賑わって来たな」

「全く、辺境の田舎者共はこれだから困ります。身の丈にあった店に行けばいいものを」

「……そうだな(そういう意味じゃないんだがな)」

ユニアスは王都を守護する騎士団で、中隊長を務めている。

大公家の次期当主であるため、それなりの待遇がされている――訳ではない。ユニアスが配置されたのは、貴族の子弟。特に使えないと判断された者たちの部隊だ。

身分があり、下手に命令できない彼らを押さえ付けるためにユニアスは配置されたのである。

(二年か三年で実家に戻るにしても、これはきついな)

練度の低さは勿論、普段の仕事ぶりも実に酷かった。

学生時代を懐かしみつつ、グラスに注がれた酒を飲み干す。王宮や王都で働く騎士たちが気に入るだけあり、酒も料理も文句はない。

ただ、雰囲気で妙に美味しく感じない。それだけだ。

ユニアスの周りにいるのは、配属されて数年の騎士たちだ。学園での取り巻きたちは、新人として雑用を押し付けられている。

次期大公であるユニアスに気に入られようと、常に集まってくる連中だ。

「少しは気品というものを持ってほしいな」

「全くだ。同じ騎士として恥ずかしい」

「亜人の騎士まで来るとは、この店の格も堕ちたものだな」

ユニアスが周りの雰囲気に耐えていると、文官を連れたリュークが現れた。ユニアスの周りは、一気に敵意を向けるのだった。

文官の仕事を終え、リュークは先輩に連れられる形でその店に入った。

普段は王都にある屋敷に戻り、そのまま仕事なり本を読んで過ごしている。だが、人付き合いも大事だと思い、今日は誘いに乗ったのだ。

(普段からしない事をするものではないな)

文官にはハルバデス家の派閥の者が多く、リュークの扱いは慎重だった。だが、仕事の出来るリュークは、すぐに文官の戦力として働いている。

今日も残業をさせたので、周りが気を使ったのだろう。

明後日のお披露目で、文官たちも大忙しである。だが、その日に限って会いたくない連中と出くわしたのだ。

「ふん、ナヨナヨした連中が来たようだぞ」

ユニアスの部下の一人が、騒いでいる店内に響く様に声を出すと周りは静かになる。多くの客がリュークたちに視線を注いできた。

基本的に、文官と武官は仲が悪い。

「あぁ、店を替えようか」

困った顔をした先輩の一人が店を出ようとするが、仲間内から不満の声が上がる。

「黙って逃げろというのか!」

すると、リュークはわざとユニアスの近くの席へと足を進める。ユニアスたちの雰囲気に押され、周囲がその席周辺を避けていたのだ。

ユニアスの周辺しか空いてなかった。

「注文しないのですか?」

リュークはユニアスの部下たちの視線を気にしないで、先輩たちに無言で圧力をかける。恐る恐ると言った感じで、文官たちは席へと着いた。

今のリュークにとって、騎士団とは金食い虫である。特に、何の役にも立たないユニアスの部隊は、ハッキリ言って潰してもよいと思っていた。

だが、必要悪とも理解している。しかし、不満は貯まるのだ。

ユニアスの部隊が問題を起こすと、そのために文官の仕事が増える。何かにつけて高級品を求め、装備だけは一流を求める。

今のリュークとユニアスは、間違いなく政敵同士だった。

王宮の廊下を、掃除用具を持ったアレイストが部下と共に歩いていた。

上着は脱いで、厚手の作業用のエプロンを装備している。

学園卒業後、アレイストは親衛隊の小隊長に任命された。だが、気持ちを引き締めて仕事に望めば、言い渡された任務は『清掃作業』である。

別に大きな仕事がしたいとか、騎士として働きたいと言いたいのではない。

ただ――。

「これは掃除のおばちゃんに任せていいと思うんだ」

「隊長、その文句は今日だけで五回も聞きましたよ」

アレイストに冷たく返すのは、同じ隊に配属されたミリアである。彼女は、アレイストを釣る餌としてフィナが勧誘したので、当然の様に同じ隊に配属である。

しかし、二人の距離は全く縮んでいない。

「まぁまぁ、隊長の言う事も一理あるわよ」

「そうよ、堅いわよ。そんなんじゃ彼氏が出来ないぞ」

清掃を終えて、日誌を書いて後は帰宅するだけである。しかし、アレイストの疲労は大きい。

配属された小隊は、アレイストのために集められた人員で構成されている。

(王女様、絶対に僕の事が嫌いだよね)

ただ、その人事にアレイストは悪意を感じていた。ミリアが親衛隊を希望した事で、フィナに話を持ちかけられたのだ。親衛隊に来れば、小隊長待遇で副隊長はミリアだと――。

だが、結果はどうだ。

配属され人員は、全員が見目麗しい女性騎士である。ついでに言えば、配属された内の二名は、恋愛対象のキャラクターであった。

気を付けていたというのに、見事にイベントが発生している。毎日のように、アレイストでも分かるようなアプローチを受けるのだ。

それもミリアの前で、である。

「あ、あの……今日はこの後に飲みに行かない? 明後日は忙しいから、今日くらいしか時間が無いしさ」

「本当ですか! 私は行きます!」

「お、アレイスト君が誘って来た」

二人は即座に賛成するが、ミリアは渋い顔をする。

ミリアを誘いたいアレイストは、説得をしようとした所で知り合いが廊下を通りかかった。

イズミである。

イズミが帰宅するために廊下を歩いていると、アレイストが必死にミリアを誘っている所だった。

自分から見ると、連れの女の子を二人を連れてナンパしているようにしか見えなかった。寧ろ、ナンパしているのだが。

「アレイスト、またなのか?」

呆れた視線を向けるイズミに、アレイストは慌てて誤解を解こうとする。

「違うんだ! これは、小隊のみんなで飲みに行こうと……いや、今は全員いないけど」

イズミも今は書類整理をしているが、王宮に勤める騎士である。精鋭である上級騎士であり、それなりに学園からの付き合いもあって話は聞いているのだ。

アレイストのハーレムを構成するメンバーが、二名増えていると――。

「流石に節操がない気がするがな」

「だから誤解だって!」

アレイストは誤解と言い張るが、結果だけを見ると誤解とは言えなかった。イズミから見ても、ミリア以外の二人はアレイストに熱を上げている。

容姿も稼ぎも優秀なアレイストは、中身さえ気にしなければ優良物件だ。女性が集まる気持ちも分かるし、それをイズミが注意する気も無い。

ただ、拒否しているミリアを誘うのは、少しばかり強引に見えた。

「あ、ならさ! イズミさんも来ない。王都では結構有名な店があるらしいんだ」

王宮で顔を合わせる事も多い二人は、すでに名前で呼び合っている。

ミリアを見れば、疲れた顔をしていた。

アレイスト、ミリア、両者から話を聞くイズミは複雑な感情を持っている。アレイストに近付こうと、ミリアの現状を知ったエルフの里は婚姻を結ぼうと動いた。

だが、ここに来てリリムの事が影響を及ぼす。

以前、リリムが婚約した相手は里長の息子だった。その息子がリリムを裏切った事があり、ミリアの両親が本人の意志で決めさせると断固拒否の姿勢を示したのである。

ミリアにアレイストと婚約、または付き合う気は無い。

だが、アレイストはミリアに強いこだわりを見せている。ハーレムがあるのに贅沢な事だ。最初はそう思っていた。

しかし、アレイストは黒騎士という立場がある。

今は清掃作業をしていても、クルトアの重鎮、あるいは王になってもおかしくない。そんな人物に清掃作業をさせる上層部にもイズミは驚いたものだ。

どうにも、上の方でも扱いに困っているのか、揉めている印象を王宮内で感じていた。

「はぁ、分かった。私も参加させて貰おう。ミリアもどうだ?」

「……分かったわよ」

アレイストの必死な表情に、イズミが折れる形で誘いを受けるのだった。