作品タイトル不明
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俺とユエが館から距離を取ると、建物の残骸が沈んでいくように見えた。
ターゲットである王権を持った俺らが離れたことで、目標を見失ったのだろう。触手が地下室に引っ込んだようだ。
「回収……いけるか?」
「俺行けます。ドローン玉掛けの資格も持ってるっす」
ヤンキー君が手を挙げた。
「良い資格持ってんな」
「建築ドローン技師、まぁまぁ給料良いんで」
照れたように頭を掻いて笑う。
魔法技術もあってドローンの出力が跳ね上がったこの時代。超大型のスラスター付きクアッドコプターの出番は幅広い。
ちょっとした荷物を運ぶとか、戦場で偵察したり空爆したり――そんな時代はとっくのとうに過ぎ去っていた。
クレーンではなくドローンが高所に建築資材を運び、仮止めも溶接もドローンを使って行う。既存の技術の多くが、ドローンを絡めた新たな資格に置き換えられていた。
ダンジョン探索者などという、世の中に対して貢献してねぇ仕事ですらドローン使ってるんだからな。一次産業や二次産業で使われないはずもなくって感じだ。
「お前、なんで探索者なんかになったんだ?」
「俺、最初は『牡羊の会』に入りたかったんすよ。地元の顔役みたいな先輩に誘われてて。けど、壊滅しちまって、でも資格はとっちゃったしどうしようかって思ってたときに、ナガさんの配信に行き着いたんす」
「あーー、牡羊の会」
俺は額を手のひらでべちっと叩いた。
メガネ率いる、かつては日本最大級のクラン。
あんなクソチンピラ集団がどうやって頭数集めたんだと思っていたが、反社みてぇな方法だったんだな。
荒れている地域のチンピラに声を掛けて勧誘。そいつが地元のOB兼顔役として、頻繁に里帰りしてデカイ顔をすると。それを見た後輩らが恐れつつも羽振りの良さから憧れてついてくる、って流れだな。
デジタル全盛の時代に、アナログな手法でよくやるわ。
「何でもいいから、何者かになりたいんすよ」
「ちょっと待て」
瓦礫の山に向かおうとしたヤンキー君の後ろ襟をむんずと掴んだ。
「ちょっ、何するんすか」
「なろうとすんな。今のお前が行けば死ぬぞ。他にワイヤー扱える奴が行け! ユエとヒルネが作業の監督してくれ」
探索者は臆病な方が長生きする、なんて言うつもりはない。時には蛮勇を持つ者だけが活路を切り拓けることだって多々ある。
だが、『何者かになりたい』はちょっと違うんだよな。
俺はヤンキー君を連れて、集団から少し離れた。
「……なんすか。なんで死ぬんすか」
ヤンキー君は不満げに俺の顔を爪先を交互に見やる。
「何者かになりてぇのは、探索者じゃなくて配信者だからだよ。お前、マジで牡羊の会が壊滅してて良かったな。ああいう組織は、キラキラしたものに憧れる奴の命を使い捨てて成長するもんだ」
俺が何を言っているか分からない様子だ。戸惑ったように目を彷徨わせている。
「お前さ。なんか降り注いで来たデッカいなんかを華麗にチャンスに変えて、一発デッカいことを成し遂げたら、ふわっと何かが起きて、なんか生まれた意味とか箔とかがつくと思ってねぇか? 尊敬を集めて名を残して、誰かの記憶に刻まれて……そういうミラクルが起きると思ってねぇか?」
「それは……そういうモンじゃないんすか? 今の日本でナガさんのことも、薩摩クランのことも知らない人はいないっす」
「根本が違ぇ。俺も薩摩クランも、やるべきことやっていたら、ふとした切っ掛けで人の目についただけなんだわ。なろうとして有名になったワケじゃねえ。つーかよ――」
動き出した瓦礫。複数のドローンが協力して牽引していく。へし折れた彫像なんかも引っ張り出された。
「有名になって、何が嬉しいんだ?」
「何がって」
「下地のねぇ知名度は、好奇心しか集めねぇぞ。お前が苦しいとき、大きな挑戦をしたいとき、本気で心配して全力で支援して、ときには命懸けで助けてくれる人間がいるわけじゃねえだろうに」
有名になりゃ幸せになるんだったら、芸能人で薬物に溺れる奴なんていねぇだろ。
俺はヤンキー君の背中を叩いた。
「説教臭くて悪かったな」
考え込む顔の若者を置いて、俺は仕分け作業をしている仮の集積拠点に向かった。
蓮と康太がチマチマと瓦礫をワイヤーから外し、分類ごとに針金で縛っている。
「よお、調子はどうだ? 頭のケガ治ったか?」
「タンコブになってんすけど」
「今日び、久しぶりに聞いたな。タンコブって言葉。まだ生きてたのかよ」
大人になってから使わねぇ、体に関するワード1位かもしれん。2位は青タン。男子ってケガしすぎだよな。
それらの言葉とは無縁そうな康太君が、へし折れた彫像の頭部を俺に見せた。
「これなんですけど、ユエさんが言うにはまだ顔があるそうです。魔法の素質が強い人には見えるそうなんですけど、僕には 朧気(おぼろげ) な気配があるくらいにしか感じられなくて……」
「ふうん、俺にも見えねぇけど……」
指で抉れた顔を擦る。ざりっと粗い粒子が剥がれた。
なんだ、中に金属質の物が入っている感じがする。
「ユエ! 1個壊していいか?」
「1個くらいなら構わんよ」
お言葉に甘え、両手の指に力を込めてぐっと圧迫する。バコリと低い音を立て、石が砕けた。
中から複雑な形状をしていそうな、金属のオブジェが出てきた。鉛筆の芯みたいに、黒く光を弾いている。
隙間に詰まった石をほじくり除けると、ようやく姿を現した。
「なんだこりゃ?」
まるで3つの「?」マークを絡み合わせたような作りをしている。それを見せると、康太の顔から血の気が引いた。