軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

220

ラップで罠を厳重に梱包し、コンテナに積み込む。

いたってシンプルな構造の罠だった。何か小さな引っ掛かり……おそらくは絵画を壁に止めるフックなんかにトリガーを固定し、盗もうとしたやつを機械弓でぶち抜くって感じだな。

軸が腐食した 矢(ボルト) が装填されていた。大昔にセットしたっきり、使われていないようだな。

ユエが髪の毛をいじりながら呟く。

「精霊の気配が濃いのに、物理的な破壊には干渉してこない……。魔法でも叩き込めば反応するか? いや、むしろ眠っているような印象もあるが。王よ、このまま外壁は全て壊すのか?」

「とりあえずぶっ壊してから考えようぜ。ヒルネ、作業指揮頼んだ。罠部分のマークに注意な」

「はーい!」

改めて景気よく破壊活動が始まった。遠目に眺めながら、ユエと打ち合わせを開始する。

「さて、どう見る?」

俺の抽象的な問いかけに、ユエは難しそうな顔をした。

「小規模な屋敷に、巨大な地下空間。宗教的なモチーフはなくて、内部には文化的な遺産が収蔵。普通に考えるのであれば、領主の館なぞだろうが、それにしては周囲が開けすぎている。それに、屋敷自体の規模と、中身が釣り合ってない。異質だ」

ユエがドローンを呼び寄せ、コンテナからビニール袋を取り出した。中には鳥や魚の小骨がごろごろと入っている。ユエがそれに手をかざすと、カタカタ音を立てて組上げられていく。

生み出されたのは、骨で出来た小人の兵士たちだ。相変わらず便利なこと思いつくな。世界一生ゴミを上手く扱える、生ゴミの王だろ。

ユエがじとっとした目で俺を見た。

「声に出てたぞ!」

「すまん。で、それで偵察すんのか?」

「いや、挑発する。精霊が多いということは、具体的な嗜好性があるはずなのだ。ああやって――」

指さす先では、丸太を振り回す探索者たちが楽しそうに柱と壁の間を粉砕し、壁材そのものを引っぺがしていた。ぶち壊したパーツにマーカーペンでメモを書き込み、ドローンに積み込んでいく。

「建物の構造を変えても動きがないということは、何か引き付ける物品が建物内にあるはずだ。建物内の各所で魔法を使って、反応する箇所を探る」

骨の兵隊が、口からねちゃっとした黒いヘドロを吐き出した。レイスが使う、五感を奪う魔法だ。アンデットらしく、同じ魔法を搭載しているらしい。

「お手並みを拝見すっか」

「わからん。まぁ、自分の足で偵察するよりはマシだろう」

カチャカチャと軽い音を立て、数十の小人が建物内に入っていく。これからめぼしいもの全てに黒ヘドロの魔法をかけていくようだ。

俺は首を傾げた。

「こんなはずじゃなかった気がするんだが?」

「む?」

「いや、なんつーか……探索者率いてトラップ解除とか教えながら、ちまちま探検して中の遺物回収って予定だったんだが……」

想像以上にワイルドかつ効率的にスキャンしている感じがする。

「精霊を感知したのだから仕方あるまい」

ユエが小さく唇を尖らせた。

まぁ、仕方ないか。精霊は魔法の根源であり、妖精種の始祖だ。建物自体――あるいは特定の遺品の周りが、魔法道具と化している可能性がある以上、やり方を変えるのは妥当ではある。

「つーか、そう考えたら、各パーティーに精霊見える奴が必要なんじゃねえのか?」

「理想はそうだが……まだ世代的に少なかろう。それこそ妖精種の助けでも借りられたら良いのだろうが」

妖精種と一緒にダンジョン探索か。大昔のファンタジー作品みてぇだな。

ドワーフの戦士と一緒に人間の魔法使いが潜る、なんてな。実現すれば面白そうだ。

「む!」

ユエが眉をひそめた。なんか感知したな。

「アンデッド兵と視界を共有しているが……王よ、そなたは『黙り込むチャタレー』にある彫像は、顔を壊されていると言ったな?」

「ああ」

「全部、顔がある。それにアンデッド兵を目で追っている……」

うっそだろ、おい。

「魔法生物か?」

「不明だ。彫像には精霊の気配あり、魔法には反応なし……ただ見てくるだけだ。ただの遺物ではなく、敵対的な存在だと思った方がよさそうだ。地下への階段を発見、書庫の入り口だな……っと!?」

ユエが目を押さえながら仰け反った。

「どうした!?」

片手で軽い背中を支える。ユエは悔しそうな顔で、歯をぎりっと鳴らした。

「破壊された! 階下から巨大な触手だ!」

「お前ら下がれ!! 敵を発見!!」

即座に集団に向けて怒鳴る。皆一斉に丸太を放り捨てて下がった。

全員が得物を抜き、切っ先を建物に向けて腰を落す。反応が良い。十数秒、張り詰めた緊張の中でじっと待つが、何も起きなかった。

耳を澄ます。

ずる、ずる、と重たい物を引きずるような音だけが微かに鳴っていた。

「動きが鈍いか……建物の外までは追ってこないか……?」

ナイフを抜いたヒルネが、手の中でくるりと回す。

「釣りますか?」

「釣るか。俺とヒルネで潜る。お前らは待機だ」

引っ剥がした壁の一部を運んでいた蓮が、ドローンのコンテナに投げ込む。飾られていた絵画がひっついている。小さな、花瓶の絵だ。

「俺も行きたいっす!」

「何言ってん……おい、伏せろ!!」

ガシャ、と鈍い音。反応が遅れた蓮の後頭部を花瓶が直撃し、砕けたテラコッタの破片が飛び散る。

蓮は頭を抱えてしゃがみ込んだ。