軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

202

地上までの舗装された道を、仲間達と連れだって歩く。

先頭に俺ら、すぐ後ろは重傷者。軽傷者と死体が続き、薩摩クランの応援が最後尾だ。ピクシーの襲撃に警戒しつつ、足が動かなくなり落伍した奴を巻き取っている。

傷こそ治ったが、戦いでの疲労が蓄積した体。黒曜石の硬い地面を歩くのは想像以上にしんどい。地面は柔らかすぎても疲れるが、硬くても疲れるもんなんだな。

自然とアゴが前に出て、呼吸が浅くなっていた。

そもそも酸素濃度が低いんじゃねえか。地下で炎をバンバン使って、大人数が活動していたんだ。世界樹落下の穴があるとはいえ、空気の循環は悪いぞ。

「お疲れの様子では無いか。己の器に収まらぬものを背負いすぎて、体が重くなったのか?」

「あぁ……?」

ロボの皮肉に返す余力がねえや。ロボとのこういうやり取り、嫌いじゃねえんだけどな。

「ふん、敗戦の将みたいな顔だ。凱旋であるぞ。胸を張れ」

「そうは言われてもな、こんな薄暗い坑道くらいは楽にさせろよ」

ニヤリと嫌らしい笑みを見せてくる。

「配下は主と心を同じくするものだ。一足先に楽させてもらうとしよう」

そう言うと、青い靄になって俺の体に吸い込まれていく。こいつ、俺に歩かせるつもりかよ! つーか自分で戻れるのかよ!

一から十まで腹立つ狼だ。体内に収めさえすれば、完全にコントロール出来そうな気配もあるが、本当にそうなのか微妙だな。検証が必要だ。

柔らかな風が吹いた。俺の横で、ごろ寝の姿勢で柚子がふわふわと飛ぶ。わざとらしく見せつけるように欠伸をした。こいつ……!

そういえば、柚子は今回の戦いを無傷で乗り切ったのか。ジャイアントキリングこそしねえが、空を飛べるアドバンテージは本当に大きいんだな。

オーク軍団との戦いから始まり、世界樹討伐にかけて非常に助けられた。感謝の言葉は伝えないけどな。なんていうか、そういう関係じゃねえんだよな。

「若いの」

「ああ、小松か」

真後ろを歩く小松と東郷総長から声を掛けられた。東郷はオドアに背負われ、目を細めてうつらうつらとしている。

オドア、すげえ度胸だな。俺は絶対に総長に背中は貸したくねえぞ。

これまで同じ戦場で命を潰し合ってきたせいか、やけに馴染んで見えた。使命のために命を惜しまない者同士、性質は近いのかもな。

「なんて言えば良いか……。とりあえず、助けられたわ。ありがとうな」

「俺は俺で得るものがあった。お互い様だ」

薩摩クランの戦力があったから、余計な雑魚に煩わせられずに済んだ。それに、総長がいなければ世界樹を倒せていたか怪しい。グレンデル戦だってそうだ。

俺のことを斬ったり、扱いに困ることも多々あったが、切り札だったのは違いねえ。

「いや、戦いだけじゃねえんだ」

小松は困ったようにがりがりと頭を掻いた。それから慎重に言葉を選びながら言う。

「なんつーのかな……。トラウマや家族との不仲だったり、そういうのは仕方がねえし、どうしようもねえ。きっと死ぬまで儂らに付き纏うんだろう。だが……それに耐えられるだけの理由を、きっと儂らは失っていた」

「あぁ。地元を守るだけじゃダメだったのか?」

「隔離したのは儂ら自身だが、離れていれば帰属意識は薄まっていくわな」

「そうか。そうだよな。守りたい相手の顔が見えてねえんだ」

「お前さんは、希望をくれたんだ。儂らと痛みを共有して、誰よりも過酷な場所に飛び込んで、明るい未来を諦めねぇ姿を見せつけた。きっと、戦いの先には輝かしい未来があって、儂らの背後には見えずとも守られている者がいると思わせてくれた。儂らが敷いた血の道を、誰かが歩いて行くと思わせてくれた」

俺は口をへの字に曲げた。恥ずかしいからやめろよ。

「嬉しかったわな。戦う意味が生まれた。これまでの歴史に刻まれぬ戦いが、衆目の目に晒されたしな」

「まぁ、それは良かったよ」

「だが危険だな」

不意をつく硬い声だった。真剣のような鋭さに、一瞬だけ身が竦む。

何が危険なんだよ。アンチが湧いてくるとかか? いや、そういうのを気にする奴らじゃねえだろうが。

「お前さんを見ていると、どうにも戦場に行きたくなる。一緒に命を懸けたくなる。なんなら、お前さんが歩む覇道のためになら、踏みつけられる屍の橋にだって成りたくなるんだわ」

どきりとした。

かつて、焚き火を囲みながらスイが言っていたことを思い出す。

それまで人気者の配信者としてダンジョンに潜っていた女子高生が、気がついたらこんな地獄の戦場で主力としての存在感を放っている。

――間違いなく、俺のせいだ。

「そんなことねぇだろ。ネットでも悪口言われ放題だぜ?」

言い訳じみた言葉が口をつく。いや、わかっている。詭弁だ。

「慕われてるが故のことよ。曇り空を吹き飛ばして晴れに変えそうな男が、平気な顔をして死地に飛び込んでくれる。同じ目線でものを見てくれる。ウチにいる若い奴らの中には、お前を追うつもりの奴がたくさんいるぞ」

「……くそ。俺は、そういうの嫌いなんだよ。死地に他人を送り込む趣味はねえ」

「だからだ。だからこそ、追いたくなる」

小松はからからと笑った。

「ま、諦めろ。そんな光景が、全世界に配信されたんだ。世界が変わるぞ」