軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

179

障壁に張りついていく蜘蛛の群れ。まじまじと裏側から見ると可愛くねえな。

「撃つよ、破片に気をつけて!」

そう言うが早いか、屋上に巨大な幾何学模様が展開された。機銃のように赤い火線が迸る。連続して鳴り響く硬い音とともに、障壁が砕け散った。打ち抜かれ、砕かれ燃える蜘蛛の破片が降り注ぐ。

「焼き蟹の雨だな」

「言ってる場合かな?」

建物の入り口に避難する。真っ赤に焼けた甲殻が降り注いだ。湯気をあげているやつを拾い、殻を剥いてみる。身が真っ白だ。完全に火が通っている。

「食えそうだな」

「食べてみたらどうかな?」

一口囓ってから隼人に渡す。

まぁまぁだな。異臭の中で食うにしては上等だ。

隼人も一口囓ってから俺に戻す。

「うん、まあ。うん」

「そんなもんだよな」

「初日の感動はもうないよね」

「疲れてると味覚も鈍るしな」

互いに肩をすくめた。隼人の目の下にはうっすらとクマが浮かんでいる。俺もきっと同じだろう。

死肉の雨が収まるのを待ってから、再び外に飛び出す。すかさず屋上から声が飛んできた。

「第二弾、ゴブリンも混ざって飛んできてる!」

「了解! 命をなんだと思ってんだ?」

「永野さん、前の探索で似たようなことしてなかったっけ?」

「知らねえなあ」

蜘蛛を投射してまずは実現性を検証し、次に死んでも構わねえゴブリンを送ってくるか。これが成功したらオークとアラクネが飛んできそうだな。

スイが出ているタイミングで良かった。

再び放たれる対空魔法。小賢しいことに、盾を斜めに持つことで炎弾を受け流そうとしている。1発受けた時点でくるくると錐揉みし、地面に激突したりしているあたり、あくまで浅知恵だったようだが。

それでも、蜘蛛と違ってぽつぽつ着陸成功するやつらが出てきた。

こういう襲撃者は溜めるとロクなことにならねえ。洗い物と一緒だ。一回ごとに始末しなきゃな。

「遊撃の手が足りねえな」

「別に守れるから、行ってきてもいいと思うよ?」

「じゃあ任せた」

隼人と軽く拳を合わせ、俺は単身駆け出した。

着地したゴブリン達は、それぞれ手近な建物に身を潜めているようだ。路地に気配がねえ。

本来は好戦的な気質だが、無鉄砲に挑んで来ないあたり統率が取れている。

つっても、グレンデルやロボほど知能が高いわけじゃねえな。建物入り口の石材に僅かについた白っぽい汚れを指でなぞる。

ゴブリンの手は霊長類と同じく平爪だが、ゆるく巻くように伸びている。体を支えるように石に手をつけば、削れた爪の粉が付着するようだな。着地の衝撃で足が痺れたか?

指を擦り合わせ、粉を払い落とした。

「よお、出前だゴラ!」

ドアを思い切り前蹴りで開けた。簡単に吹き飛ばされる扉。扉に背を押しつけていたのか、巻き込まれて壁に激突するゴブリンが見えた。

目を回し、力なく手探りで武器を探している。

俺は落ちている短槍を拾い、投げつけた。急所を貫き一撃だ。結末は見るまでもない。

建物から出たところで、金属の擦れる音がした。鎖が揺れるような音だ。

素早く路地の角に体を張り付ける。じゃり、じゃりと気配が近づいた。

音の発生源はやや高い位置。グレンデルなら体に巻き付けているから、もう少し低い位置で鳴るはず。っつーことは、オドアの方だな。

ゴブリン空挺をやるなら、当然こいつも降ってくるか。腕飛ばされた直後なのに休みなし。労災隠しの会社みてえだな。可哀想に。

近づいてくる足音。重戦士は音を消せないのが弱点だな。

大鉈の切っ先が壁からはみ出した。まだだ、まだ我慢だ。

息を押し殺す。左手で鼻からアゴを覆った。汗の一滴が落ちる音ですら命取りになる。

尖るべきは剣のような無機物だけでいい。待ち伏せるときは体から突起を捨てて、丸くなれ。

永遠にも思えるほどの時間をかけて踏み出された、ゴブリンの一歩。

建物の角から飛び出したその足先目掛け、素早くツヴァイハンダーを突き下ろした。

がつ、と地面に当たる硬い音。肉を貫く感触。

大きく息を吸いながら飛び出した。

ツヴァイハンダーの大きな鍔を、大鉈に引っかけてカチ上げる。踏み込みついでに、刺していた場所を正確にかかとで抉った。

オドアと目が合う。大きく見開かれた目に、尖った鼻、そして乱杭歯がハッキリ目に入った。

「よお。見舞いに行けなくてごめんな?」

謝罪は頭を下げるモンだよなあ!

オドアのアゴ目掛けて、思い切り額を叩き付けた。顎関節が軋む音が、骨同士を伝って俺の脳にまで響いてくる。

オドアの手から大鉈が離れた。ゆっくり落ちていく敵のメインウェポンに一瞬目を奪われる。その隙を、鉤のように曲げた指で急襲された。

――しまった。

脳裏にちらりと浮かんだそんな言葉が、鋭い爪で破砕される。耳の裏側にぶち込まれた一撃が、激しく脳を揺らした。頭蓋骨に指が食い込む前代未聞の不快感に、視界が真っ赤に染まったような気がする。

肘でオドアの太い腕を打ち払い、さらに前蹴りを入れて突き飛ばした。

お互いに一歩で詰められる距離。互いに深い前傾姿勢で、獣のように睨み合う。

ついてねえ。いや、ついてるか。

ここでオドアを落とせば、ゴブリンの脅威度は大幅に低下する!

オドアの大鉈を踏みつけながら、腰だめにツヴァイハンダーを構えた。

「恨みはねえが、サヨナラだ」

『ええ。お別れです』

対空砲に次々と落とされる空挺団の群れを突っ切るようにして、巨大な影が降ってきた。

地面を砕きながら、ヒーローのように着地する。

思わず噛みしめた奥歯が、ぎりりと鳴った。

「グレンデル……!」

『まずは大駒1枚、頂きましょうか』