軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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少し離れた場所で様子を窺う。道に真っすぐ亀裂が入り、地中から金属の壁がゆっくりとせり上がって来た。まるで液体金属を汲み上げているようだ。じわじわと厚みと高さを増し、見上げんばかりの鉄の塀が生み出される。

――待ちに特化した魔法技能。

思わずそんな言葉が浮かんだ。

積極的に攻めかけるのではなく、設置型の魔法道具を運用することで、大軍に抗することが出来る。アタッカーではなくトラッパーって感じだ。

ドワーフの気質が見えたな。

しかしなぁ。たぶん、時間は稼げるんだろう。最大の問題は、稼いだ時間で引っくり返す一撃必殺の手札がない。耐えて耐えて、これが来たら勝ちってもんがねえんだわ。

来るか分からねえシャベルマンくらいしか希望がねえのがな。事ここに至っては、自衛隊を投入して欲しいぜ。

滲む手汗を上着の裾で拭った。

スイ達は無事だろうか。単独行動しているヒルネの無事も気になるところだ。

「ナガさん、どうしますか。一度合流を優先しますか?」

「いやぁ、そうしたいんだが……」

ガサガサと音が迫って来ているんだよな。

恐らくはパチンコ投石開始と同時に、アラクネ眷属の蜘蛛が城壁を確保したんだろうよ。先遣隊として蜘蛛を撒いて、ゴブリンやオークが城門から雪崩れこんで来るってとこか。

「おう、若いの。ここは受け持っとく。先に合流してくるといい」

撤退を済ませたらしい小松が姿を見せた。肩から腰にかけて、べっとりと血がついている。本人はいたって壮健な様子からして、負傷者を担いでいたのか。

「そういえば負傷者がいますよね。治療に伺います。どちらに収容していますか?」

「申し出ありがとうな。大丈夫だ。連れ帰って知ったが、負傷者はいなかったんだわ」

「え? それは……」

負傷者ゼロ、か。いたたまれねえな。死んだら負傷者じゃねえ。

「なんとか腐る前に連れ帰ってやりてえが、叶いそうにないわな。といっても、勝手にここで焼けば死体損壊でお縄だ。腐った状態で持ち帰るしかねえが、仕方ないわな」

小松は深々と溜息をついた。それから鋭い目を俺に向ける。

「つーわけで、後顧の憂いってもんもねえ。肉弾戦やりゃあいいっていうなら、話が早い。しばらくは任せとけ。小規模探索者パーティーの強みは平面での押し合いじゃねえだろ。動きやすいようにやるといいさ」

そうだな。探索者のパーティーの強みは、単独で目に見えない危険地帯を乗り越えていくこと。まさに探索こそが強みであって、兵士じゃねえ。

俺は頷いた。

「適材適所だな。壁の守りは頼んだ」

「おう」

ぞろぞろと隊士たちが壁に張りついていく。犠牲を出した直後なのに意気軒昂だ。ここは安心して任せて良さそうだな。

剣士達の中から隼人が姿を現した。未だ元気そうな様子で軽く手を上げる。

「よお、流石に無事か」

「流石にね」

隼人も柚子と合流したいのだろう。小走りで俺たちについてきた。

「なんか凄いことになってますねー」

「そうだな。スマートウォッチの位置表示だと近いはずなんだが」

こうして市街戦みたいになると、探しづらいな。壁際の前線にいるなら見つけやすいんだが、スイと柚子にとって戦いやすい環境じゃない。もう少し後ろに下がっている可能性も否定できない。

「視界が狭いのに、足跡も残らないですからねー。案外、都市って斥候殺しの地形かもしれませんねー」

「斥候以外からしたらもっとやり辛えだろうさ。デカい声を出そうにも、どこもかしこもうるせえしな」

ドワーフの怒号、コボルトの遠吠えがそこらで響き渡っている。

「あ、座標位置更新されましたよ。通信弱いんですかねー」

「どこだ?」

「そこの建物になってます」

「っておい」

思わず足を止めた。すぐ隣で急停止する小さな人影。ヒルネが不思議そうに首を傾げていた。いつの間に合流してたんだよ。自然に紛れ込んでいるから気づかなかった。

俺が鈍ったか、それともヒルネが成長したのか。

ヒルネに背中を狙われたら助からねえかもな。

示された建物の屋根を見上げる。

「あ、ナガじゃん!」

スイと柚子がこっちを見下ろして手を振った。

「とりあえず合流出来たか。屋上から射線通すのか?」

安堵の呟きのあと、声を張り上げて2人に訊ねる。

「そう! 飛んだら撃たれるから屋根上にした!」

「了解! そうしたら、俺らはこの建物に入らせないようにすっか」

壁際の喧噪が大きくなった。

「始まっちゃったか」

隼人が目を眇める。屋根上から火球が放たれた。

「戦いながらで良いのですが、睡眠のサイクルも考えなければいけませんね」

「そうだな、ここからは戦い詰めだ。俺、隼人、トウカとヒルネ。この3組でシフト組んで休憩回すぞ」

俺の言葉に地上組が頷く。屋上組は勝手に良い感じにやってくれ。

「おらよ!」

刀身を掴み短く持ったツヴァイハンダーを振るう。汁を撒き散らしながら、巨大な蜘蛛が吹き飛んだ。

もう3日間は戦い続けている。交代しながら休みをとっているとはいえ、絶え間なく現れる蜘蛛の群れにいい加減疲れを感じていた。

死体を片付ける時間がないせいで、臭いも酷いことになっている。

「くっそ。なんでこんなに沸いてくる。前線が抜かれたのか」

「前線付近のエリアは抜かれてないらしいよ。薩摩クランと情報交換しているんだけど、いないはずの場所からいきなり湧いてくるから、かなり困惑しているみたいだね」

器用なことに、スマートウォッチを眺めながら刀を振るう隼人。

なまじ切れ味がいいせいで、周囲に死骸が積み上がってしまっている。代わりに蹴り飛ばしてやった。ちょっとでも遠ざけておかないと、感染症が怖い。

「ナガ! ナガ!」

「どうした!」

屋上から切迫した声がした。

「上に注意して! 障壁貼るよ!」

「あ?」

頭上に半透明な光の板が形成される。その奥に、見えてしまった。

――網を広げてパラシュートのようにしながら、放物線を描いて飛んでくる大量の蜘蛛が。

まさか。パチンコを使って、兵力を直接打ち込んできたっていうのか。

どこから湧いてきているんだと思っていたら、空挺だと。

喉が鳴った。