軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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目の前で世界樹に蝕まれている人間がいるというのに、あえてそれを引き受ける。言うは容易いが、実際に求められる覚悟はあまりにも大きい。

スイが俺の肩口にエクスカリバーを当てた。今まさに切り落とされようとする腕を、ユエが小さな手で掴む。

「ユエちゃん?」

「私が引き受けよう」

「やめておきなよ。世界樹、嫌いでしょ」

「嫌いだ」

ユエはすっぱりと言い切った。

「だからこそ、だ。滅びるのも嫌、死ぬのも嫌、世界樹も嫌。どこかに甘えがあったんだ。全てを真っ向から受け止める本物の王を戴くには、このくらいの覚悟はしなければな」

「私も覚悟は済んでるよ」

「こんな激毒のようなゴミ、若い体に入れるもんじゃない。子どもに何を食わせるんだと、王が怒りそうだ」

「そう……。じゃあ、任せたよ」

スイが長い刃をすっと引いた。抵抗もなく、腕が切り落とされる。

阻止しようと動いたマーリンの両膝に、背後からシャベルが突き立てられた。

「なんで攻撃が通るのかな?」

憎々しげに振り返りながら放たれた暴風に飛ばされ、シャベルマンの全身がヴリトラの鱗に打ち付けられる。

自由自在に戦場を駆けていた男も、ついに白目を剥いて全身を脱力させた。

ユエが神々しいものであるかのように、両手で腕を持ち上げた。冷や汗を流しながら、迷いなく断面に口をつける。目に涙を浮かべ、喉を小さく動かした。

「流石に死んでないよな!?」

焦りの滲む声をあげながら、山里が低い姿勢で切り掛かる。

活性化した世界樹と、異様に発動が早い魔法が相まって、致命的な攻撃を全て無効化されていた。

「全然倒せる未来が見えねぇよ!」

弱音を吐いたその口に電撃が突き刺さる。口と鼻から煙を上げながら、ぐったりと膝をついた。

「君ら、本当に頑丈だね。ナガの臣民はあまり殺したくないんだけど、いい加減面倒になってきたよ? って、あれ?」

マーリンの動きが止まった。

『マーーーーリン!!!』

モーガンが叫ぶ。

解き放たれ、赤髪を何本もの蛇の姿に変えながら、血を流す目でマーリンを睨みつけていた。

「チャンスですか!? チャンスですね!?」

目を血走らせながらヒルネが駆け出した。遅れてトウカも走り出す。

「今の隙に救助します……っ!」

殴り合いで消耗した強化外骨格が火花を散らせる。漏れたオイルについた小さな火が、長く美しい髪の先を焼くのが見えた。

「モーガン。君って奴は本当に、近視眼なんだね。仕方の無い子だ。感情任せになんでもやっちゃうのは君の良いところでもあるけれど、もう少し冷静になった方が良いと思うよ。ほら、アーサーだってそう言ってたじゃないか」

『アーサーを、語るな!』

「アーサーという才能を見いだしたのは私なんだけどなあ」

ヒルネが逆手に持ったワスプナイフを、全力でマーリンの顔面に突き立てた。しかし、その切っ先は肌に数ミリだけめり込むに終わる。すぐに効果のない武器を手放し、首に手を回し捻ろうとする。

「ぐぬぬぬ! ふんぬー!」

「折れるとでも思ったかな?」

「じゃあこっちです!」

「流石に不愉快だね」

瞼の内側にナイフを差し込もうとし、直後に濁流に打ち据えられて押し流された。

それらを遠目に見ながら、スイがユエから受け取った腕を俺の体に繋げた。それから、努めて冷静でいようとするのが伝わる、低くも震えの混じった声で言う。

「ユエ、ナガのことお願いしていい?」

「わかった。世界樹を薄めれば良いな?」

「うん」

「スイはどうするのだ? 正直なところ、あれに有効打を与えうるのは、シャベル男とカルカだけに見えるぞ」

スイは小さく頷いた。それからドローンを手招きする。

「ナガにあれこれ言っておいて、こんなに早く自分に降りかかってくるとは思ってなかったな」

「なに?」

「ずっと考えていたことがあったんだ」

泥だらけ、傷だらけのドローンの表面。ひび割れた画面に、途切れ途切れに言葉が流れていく。

:北 人大丈夫!?

:なに 、どうなってんの!?

:マーリ 言うことが本当なら、今マジで 界の未来がかかってる?

:もう逃げ 、命大事にして!!

:どう 員無 に帰ってきて欲しい。見てるだけ たけど、こんな終わり嫌だよ

:マ リン許せね 、殺せ!

: 界の危機ってな だよ、でかい話すぎてわかんねえよ

とにかく身の安全を 優先にして欲しい

:お願いします、どうか ガさんを無事に連れ帰ってください

スイはドローンのカメラに向かい、簡潔に今の状況を説明した。元々多かったコメントの流れが加速する。

「王の定義とは、人を率いて打ち破る者。どれくらいの人を率いて、何を打ち破るのかは知らないけれど……少なくとも、私はマーリンの思惑を打ち破りたい。ナガが意志も持たない植物なんかにされるのは許せない」

スイは何かを掴み抱きしめるように、右拳を胸に当て、左手でその上から覆う。祈りのようであり、決意表明のような姿勢だった。

「だから……こんな形で成れるのかは分からないけれど……。お願い。皆の力で、私を王にして欲しい」

同時接続数17万4000。

コメントの流れが止まった。

動かない画面。

魔法だけで暴威を振るうマーリン。

鳥瞰の世界に情報ばかりが流れ込んでくる。

心の揺れを探しても、むなしく空を切るばかりだ。

俺は。吾は。前に進まなければ。唯此処に在れば。

命とは、ただ在るものなのだから。

何かが起きる予感の中で、意識が遠ざかる。