軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

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どくん。

心臓が痛みを伴う力強い鼓動を打った。

理解しがたい熱が全身を駆け巡る。世界全てを鳥瞰で見ているような、自分自身の存在する場所が変わったような感覚がした。

どくん。

受け止めきれない熱を流すように、心臓が暴れている。

自分の体なのに、まるで自分のものではないような。現実感が急速に遠ざかっていく。

「いかん、王よ!」

泥水に足をとられながら、じたばたと小さな体を動かし、ユエが駆け寄ってくる。転んで泥まみれになって、それでも必死の形相で不格好によろめきながら足を止めない。

自分の手を見ようとした。体が緩慢に動く。肌がすっかり樹皮のそれに変わっている。指の先が細く長く伸び、木の枝そのものになっていた。

焦りも、怒りも、悔しさもない。

あらゆる感情が遠ざかっていくような気がした。

スイの悲鳴が、ヒルネの咆哮が聞こえた。トウカの絶望が、山里の怒りが、ブランカの戸惑いが伝わってくる。カルカが走り出す地鳴りが響いた。

「あー……」

掠れた、それこそ木のうろを風が通り抜けるような声が出た。

「みんな、なんか、ごめんな?」

体が動かねえ。

頭の働きもぼんやりとしている。

マーリンの高笑いが響いた。

「やっぱり、やっぱりそうだった。ナガ、君は素晴らしいよ! 世界樹そのものになり得る素質がある!」

全員の猛攻を受け止めながら、マーリンは余裕を崩さない。

シャベルマンが二刀流で斬り掛かる。コマのように激しい回転を交えながら、あらゆる向きで刃を叩きつけた。

「うーん。中々の動きだね。特別な何かを持っているわけでもないのに」

効いていない。

自分の中にある世界樹の苗が、マーリンのものと共鳴しているのがわかる。世界樹に成りかけている俺の存在が、マーリンの再生力にバフを乗せてしまっている。

マーリンの手がシャベルマンの顔面を掴んだ。

「選手交代だ、オラ!」

シャベルマンの後ろから、戦斧を振りかぶった比嘉が飛び出す。

「無駄だよ。吹き飛べ」

大地から柱のような岩が突き出した。車に撥ねられたように比嘉の大きな体が宙に舞う。四肢が変な方向に曲がっていた。

「悪いね、うちは三段オチって決まってるんだ」

それまで比嘉の体の陰にいた山里が、腰だめに構えた聖剣をマーリンのどてっ腹にぶち込んだ。

「うーん、不合格! なんてったって、格が足りてないね!」

シャベルマンを振り回し、山里に叩き付けた。揉みくちゃになって2人が地面に転がされる。

『格というのは……王権で合ってるか?』

地面に腹這いで滑り込んだカルカが、大鎌のようなラリアットを叩き込んだ。

「合ってるけど、技術不足だね」

カルカの腕が、小さな丸盾のような障壁に止められている。

マーリンの人差し指がカルカの胸に向けられた。

「ずどん!」

レーザーのようなものが迸った。口から血を吐き出し、巨体が膝をつく。

「トウカ、どうにか出来ない!?」

「私の知る魔法ではどうにも……」

「とりあえずモーガンってやつ解放して手伝わせるぞ!」

スイとトウカの会話が聞こえる。

喜屋武と金城がモーガンの顔を覆う魔法を破壊しようと武器を叩きつけていた。

「た、食べよう!ナガさんを食べます!」

テンパったヒルネの声がした。腕に違和感を覚えて見下ろすと、ヒルネが必死の形相で歯を立てている。

「そっか、世界樹の苗を減らせば……!」

何人かに噛みつかれている気がする。しかし、そのどれもが全く通用していない。世界樹化が進行するにつれ、どんどん体が硬くなっていた。

「おっと、そのアプローチは好ましくないよ」

マーリンがヒルネに指を向けた。その腕に、横合いから飛び出した白い狼が喰らいつく。

小さな爆発とともに振り払われたブランカを、立ち上がった山里が受け止めた。

「こういう強敵こそ永野の役割だろーが!」

ぼやきながら、名も無き聖剣を構え、再度の無謀な突貫を始めた。

子どもをあしらう大人のように、マーリンが次々と仲間たちを蹴散らす。呆れたような顔で口を開いた。

「条件反射で怒髪天って感じだね。担ぎ上げた王様に似たのかな。たかだかチロっと王権を手にしただけの私に勝てないんだから、やっぱり世界を守るためには世界樹が必要なんだよ」

「世界樹など要らん。人の意志を削ぎ、知性を吸い、命の営みの上に寄生するだけの木に守られたい者がどこにいる! 英雄が、英雄たるその背中を見せてくれるから、人は戦えるというのに!」

震える声でユエが叫んだ。

世界樹の陣営に堕ちた者を、誰よりも見てきた彼女の心の叫びだった。

それをマーリンは哀しそうに聞き流す。

「そうだね。うんうん。でも、それで負けたら知性のない死人の王国じゃないか。アーサーだって死んじゃったんだ、現代人の英雄なんてものには限界があるんだよ?」

マーリンを無視し、スイがエクスカリバーを抜き取った。

「これで切る。切り離して口に当てれば、世界樹の苗は移るはず」