軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

51.契約破棄

バンッ!と、勢いよく、開いた扉に、ヴェリュアンはとても驚いたようだった。

私も、自分で扉を開けておきながら、ヴェリュアンと顔を合わせて、固まった。

まだ心の準備ができていないうちに、体が勝手に動いて扉を開けてしまったのだ。

彼と視線が交わって──ぶわわ、と顔に熱が広がる。

咄嗟に扉を閉めようとしたら、今度は彼がそれを遮った。

「シ、シドローネ……?」

彼も、挙動不審の私が気になったのだろう。

扉の内側に隠れるようにしながら、恐る恐る顔を上げる。

「あ、あの」

「…………うん」

彼の顔も、ほんのり赤い。

恐らく、私も。

恥ずかしくて恥ずかしくて、逃げ出したいくらいなのに、ここで逃げ出してはならないとも思う。

勇気を出さなければ。

「……どう、ぞ?」

緊張のあまり、語尾が妙に上がってしまった。

「う、ん……」

カチコチに緊張した私に、彼も私の緊張が移ったのか、様子がぎこちない。

ゆっくりと扉を開けると、彼が部屋に入ってくる。

彼は、髪を結んでいた。

私が彼に贈った、群青のリボンを身につけている。

「それ……」

思わず言うと、彼が思い出したように自身の髪を縛るリボンを見ようとして──出来なかったのだろう。また私に視線を戻した。

「……うん」

彼が言ったのはそれだけだったが、なぜ彼がそのリボンを付けていたのか、その理由に思い当たって、私はまた沈黙する。

頬がじわじわと熱を持つ。

妙な緊張感、というか、そわそわとした空気をどうにかしたくて、私はわざとらしく咳払いをした。

「…………あ、の。話があるの。こちらに」

彼をソファに案内し、彼が腰を下ろすと、私はその隣に座った。彼がぎょっとした様子を見せたが、私はそれに構わず、テーブルの上に置いてある白い紙を手に取った。

「それは──」

「あの夜。私は、あなたに教えて欲しいと願いました。そしてあなたは、私の答えを待つ、とも」

私が手に取ったのは、私たちの関係のきっかけともいえる、契約書だった。

四つの項目が記され、下部には私と彼のサインが施されている。

私は、その契約事項ひとつひとつを指でなぞりながら、紙面に視線を落とした。

「1.互いに干渉はしないこと。……思えば、私は早い段階からあなたに興味を持っていました。あなたはどんなひとなのだろう。あなたの過去は、一体どういったものなのだろう。……あなたの想い人は、一体誰なのだろう、と」

彼は静かに私の言葉を聞いている。

私は彼の視線を感じながら、さらに言葉を重ねていく。

「 私はもっとあなたのことを知りたいと望みます。だから、この項目は、無効です」

「……──」

彼が息を飲む。

私はちらりと彼を見て、それから尋ねた。

「どうでしょうか」

「……うん。良いと、思う」

ぎこちなく、彼が答える。

それに、私は笑みを浮かべて──次の項目を指でなぞった。

「2.公の場では夫婦として応じること。……夫婦、というものがどういうものなのか、よく、わからなくなってきました。私の思う夫婦、とは互いに親しげである関係性だと思ってきました。……でも、それが私の求める──あなたとなりたい夫婦の形なのかと思うと、それはわからないのです。……だから、一緒に考えていきたい。あなたと私は、今後、どういう夫婦になるのか。……なれるのか」

「…………うん」

今度は小さく、それでもはっきり、彼は頷いた。

ここまできたら彼も、私が何を言いたいのか、何をしたいのかわかってきたのだろう。

それでも遮らず、私の話を聞いてくれる。

それに、彼の優しさや、心遣いを感じて、やはり──好きだな、と思った。

私は次の項目に視線を落とし、読み上げた。

「3.夫婦として、必要最低限の情報共有は行うこと。……最低限では、足りませんね、きっと。私が求める夫婦としての形を叶えるなら、この項目は不要です。私はあなたのことをたくさん知りたいし、私のことも知って欲しい。どういう考えをして、どういう思いを持っているのか。今までどうやって生きてきたのか、とか……。どういう物の見方をするのか、とか。そういう、他愛ないことから、大事なところまで、私はあなたを知りたいし、私もまた、知って欲しい」

「シドローネ、」

彼が何か言いかけたので、私は彼の口元に人差し指を押し当てて、黙らせた。

そして、少し首を傾げて彼に尋ねる。

「三番目の項目も、無効で構わない?」

声を封じられた彼が、瞳を細めて──なにか物言いたそうにしていたが、まつ毛を伏せ、頷いた。

それを見て、私は指を離し、次の項目を指さした。

さすがに、声に出して読むのは恥ずかしかったから。

4.子は養子を取ること。

「これも、無効でよろしいですか?」

紙を持ち上げて、四番目の項目を示して見せると、彼が驚いたように私を見た。